※この記事は2009年11月26日にBLOGOSで公開されたものです

 10年前に比べて自転車事故が増えていることから、警視庁は今後、自転車の違反に対しても、違反切符を切る姿勢で臨むという。(*1)

 記事では対象が「スポーツ自転車」となっており、「流行に乗った若者の暴走が増えている」みたいな印象を受けるが、スポーツ自転車であろうと、シティーサイクル(いわゆるママチャリ)であろうと、分類上は同じ「軽車両」であるから、これを区別する必要はない。
 問題は自転車に乗っている人の多くが、自転車を車両であると考えず、徒歩の延長として気軽に交通違反を行ってしまうことである。実際、ちょっと外を歩くだけでも、自転車が道路の右側を逆走する光景を見ないことはなく、人ごみの商店街だって我が物顔で走っていく。
 特に多いのは、狭い歩道を自転車が、歩行者をぬって走る光景である。つい先日など、なんと警察官の乗った白い自転車が、歩道を逆走していくのを目にした。
 道路交通法に従えば、原則自転車は車道の左端を通行するものであり、歩道を通行することはできない。「自転車歩道通行可」の標識があれば歩道を走ることもできるが、車道寄りを徐行し、歩行者を妨げる場合は一時停止をしなければならない。
 にもかかわらず、自転車を利用する人のみならず、日本人の大半に「自転車は車道を走るもの」という理解は得られていないように思える。

 こうした理解が進まないのは、交通ルールの大半を「自動車優先」で整備し、安全のためと称し、自転車を車道から歩道へと追い出してきた歴史による。
 昭和33年に制定された旧道路構造令では、道路は「車道」「緩速車道」「歩道」の3つに分けられ、自転車やリヤカーなどはこの「緩速車道」を通ることになっていた。しかし、こうした区分はモータリゼーションの波の中でほとんど機能せず、車道から溢れた自動車が緩速車道に進入して事故が続発した。(*2)
 昭和45年には道路構造令が改定。緩速車道が廃止され、「車道」と「自転車・歩行者道」に区分された。交通量の多い道路では自転車道を整備するということではあったが、整備はほとんど進まず、歩道を自転車通行可にすることで代替された。その後、道路構造令な何度か改定されるが、「車道」と「自転車・歩行者道」という区分は変わらないまま現在に至り、「自転車は歩道を走るもの」という勘違いが蔓延してしまっている。

 自転車は身近な乗り物でありながら、むしろ身近であるからこそ、歩行者の延長のように考えられ、その安全について徹底的に議論をされてこなかった感がある。それは決して誰か特定の人たちの責任ではなく、社会全体の責任である。
 そうした責任を果たすためには、自転車を乗る側は交通ルールを守ることは当然として、さらに必要と思うことを行政や警察に訴えていく必要がある。私個人としては、まず自転車専用レーンの速やかな設置を要求するが、自転車に乗る際のヘルメットの着用や、自賠責に類する保険加入を義務化するなど、自転車利用者に対し、これまで以上に踏み込んだ安全義務を課していく必要もあるということを訴えたい。
 自転車を運行させる側は、自転車に乗る人に対して交通ルールの徹底を要請するのはもちろん、自転車が安全に運行できるためのシステム作りを、推し進めていく必要がある。
 そして、自動車を運転する人たちは、「道路は自動車のものだ!」などと驕らず、多様な車両が通行するインフラであるという意識を持つ必要がある。

 一家に一台から、一人に一台。という自動車立国の時代は不況で終焉した。今の時代は、各自が必要に応じた交通手段を持つことが必要とされている。
 最近の自転車事故の増加も、そうした交通需要の変化に寄るものであり、決して「スポーツ自転車ブームによる若者の暴走」などではないと、私は考えている。
 日本には、これからの交通の変化を見据えた、新たな安全対策が必要とされているのである。

*1:スポーツ自転車 違反切符辞せず 暴走厳禁 罰金5万も(産経新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091120-00000038-san-soci
*2:この頃の交通網の混乱は、自転車よりも「都電」で語ると理解しやすいのかも知れない。道路に自動車が溢れ、渋滞で動くことのできなくなった都電は、交通を阻害する「邪魔者」として扱われ、次々と路線廃止の憂き目にあった。

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。