※この記事は2009年10月15日にBLOGOSで公開されたものです

「グリシドール脂肪酸エステル」が、人に対して発ガン性があるとされている物質「グリシドール」に分解される「可能性がある」という、声が欧州を中心に高まっている。それを受けて花王は、一般の食用油よりも多く、グリシドール脂肪酸エステルを含む「エコナクッキングオイル、および関連商品」の販売を自粛している。
そして、10月8日、花王は「エコナクッキングオイル、および関連商品」の特定保健用食品(以下、トクホ)表示許可の失効届けを提出した。(*1)

そもそもの発端である「グリシドール脂肪酸エステルがグリシドールに分解される可能性」については、まだ研究段階であって、実際に健康被害が確認されたわけではない。
現時点において、グリシドール脂肪酸エステルが普通の食用油の10倍程度含まれているからと言って、それが本当に発ガンリスクを高めることにつながるのかは、決して実証されていない。
この件に関しては、まだ何らかの結論を出すには至らない状況と言えよう。

また、この問題がトクホに飛び火し、花王が失効届けを出さざるを得なかった理由も不可解だ。
7日に行われた消費者委員会で取り消しが求められたというのだが、その理由としてはどうも「トクホは国のお墨付きなのだから、発ガン性は一切ないということを担保するべきだ」という主張がまかり通ってしまったらしい。(*2)(*3)
確かにトクホという制度は、食品の機能性とともに、安全性にも国がお墨付きを与える制度ではあるが、安全性についてはトクホが付かない食品と同等と考えるべきだろう。トクホ食品とトクホ以外の食品で安全基準を分ける必然性はない。
その安全基準について、研究段階に過ぎないリスクを過大に見積もり「ゼロリスクでなければならない」と主張するのは、「消費者委員会」という、その決定が政策に多大な影響を与える場において、ふさわしくない感情的な意見と言えよう。感情論に現実が追いやられるようでは、こらからの消費者行政のありように、不安を抱かざるを得ない。

現実世界には「絶対に安全な、ゼロリスク食品」など存在しない。私たちの生活に必要不可欠な「水」でさえ、摂取しすぎれば「水中毒」という症状を引き起こし、高い確率で死に至る。
ありもしないゼロリスクを求めるより、ある程度のリスクを許容しながら、それでもリスクを低くする方法を探っていく。そして、そうしたことを消費者に啓蒙し、食や商品に対する、漠然とした不安を除去していく。
そうした良心的かつ現実的な対処こそが、消費者行政に求められているのである。

個人的に今回の問題は、かつて消費者庁立ち上げに必死になっていた野田聖子が、マンナンライフの「蒟蒻畑」をやり玉に挙げたのと同じレベルの問題であると考える。
「ゼロリスク」という蓬莱の玉の枝を探し求めて消費者行政が路頭に迷うか、「リスク管理」と「リスク啓蒙」という現実的な路線を取るかの分水嶺だ。
そういえばあのとき、消費者及び食品安全担当大臣である福島瑞穂も、一緒になって蒟蒻畑を非難してたっけ……

*1:花王 「エコナ」関連10製品、特保失効(毎日新聞)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091008-00000026-maip-soci
*2:【特報】目指せ!リスコミ道●7日の消費者委員会、トクホ取り消しで意見一致(FoodScience)http://biotech.nikkeibp.co.jp/fsn/kiji.jsp?kiji=3430 (注 有料記事です)
*3:消費者委員会ホームページ(内閣府)http://www.cao.go.jp/consumer/

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。