【赤木智弘の眼光紙背】食の安全について、あまりに安直なデマがまかり通っている - 赤木智弘
※この記事は2009年10月01日にBLOGOSで公開されたものです
セブン-イレブン・ジャパンが、店頭での販売時間が1.5~6倍も長い弁当や総菜を販売するという。(*1)いわゆる「値引き販売問題」などで、公正取引委員会から排除措置命令を受け、廃棄分の原価の15%を負担することになったことから、廃棄の削減を考えたのだろう。まぁ、店舗の負担だと全く動かないモノが、自分たちの負担となると、必死になって廃棄の削減を考えるものである。
ところで、私がこの記事を知ったのは、よくあるニュースサイトだったのだが、そこでは「アレですね」などというコメント付きで、この記事が紹介されていた。まぁ「アレ」が何を指すのかは、だいたい想像が付く。
その手のニュースサイトの情報源は2ちゃんねるであることが多いので、2ちゃんねるのスレッドを見ると、お察しの通り「保存料大量投入」などという、元記事に全く書かれていないデマが吹聴されていた。
現在、大手チェーンの多くはお弁当には保存料や合成着色料を使用していないとしているが、こうしたスレッドに書き込む人たちは、それを信じていないようである。それは決して2ちゃんねるだけではなく、普通のBlogでも多くの人がそのようなことを躊躇なく、さも真実であるかのように書いている。
しかし、大手のコンビニチェーンのほとんどは、弁当に保存料を使っていない。
コンビニ弁当が傷みにくいのは、徹底的な衛生管理によって雑菌を防ぐことを基本に、適切なpH調整などによって安全性を高めているからである。
さらに、普通のコンビニ弁当は、常温で温度管理され、輸送、販売される。
「常温」というと「室温に任せて温度管理をしない状態」という誤解をする人もいるかもしれないが、コンビニにおいての「常温」とは、およそ18度前後の温度帯を示す言葉である。もちろん単純に保存することだけを考えれば、冷蔵の方がいいのだが、ご飯を冷蔵すれば当然固くなってしまう。だからこそ、コンビニ弁当の基本は常温保存なのである。こうした努力によって、コンビニ弁当の安全性は確保されているのである。
そして、今回の記事は、冷蔵ではご飯が固くなるという問題を回避して、冷蔵保存をベースにしたお弁当を投入し、安全性を保ったまま、廃棄率を下げていこうという話なのだ。
しかし、そのような企業努力に対して「保存料を使うのだ」などというデマがあっさりとまかり通るというのは、果たして私たちの生活にとって良いことだろうか?
もちろん、高度経済成長期の食品業界が、保存料・合成着色料をどばどば使い、食品の鮮度をごまかしてきた過去というものがあるわけで、そうした業界の姿勢に反発し、安全な食品を求めた消費者運動の意義を否定するつもりはない。現在の衛生管理の行き届いた食品工場が当たり前になったのは、そのような消費者側からの監視がちゃんと機能したからであることは、疑いようがない。そしてこれからも、食品会社がいいかげんな食品を広めないように、厳しく監視していく必要があるだろう。(*2)
しかしながら、そうした監視の機能から逸脱して、食品会社の努力を「どうせ保存料だろう」などと腐すような言論がはびこっている現状を放置することは、消費者運動の実績を損ね、消費者の声を「大げさだ」として蔑む世論を生み出し、企業監視の機能までもを損ないかねないのではないか。
食品会社に厳しい目を向けることは当然としても、消費者側の言論に対しても、いい加減な物言いに対しても同様に厳しい目を向け、批判し、啓蒙していくことが必要であろう。
*1:セブン「長持ち弁当」販売へ 廃棄1割減めざす(朝日新聞)http://www.asahi.com/business/update/0925/TKY200909250335.html
*2:念のために書いておくが、私は保存料や合成着色料の適切な使用を批判するつもりはない。コンビニ弁当なども、本当ならしっかりとした衛生管理と、適量の保存料を組み合わせることによって、これまで以上に安全、かつ廃棄などの無駄を出さない商品を、ローコストで作ることができると考えている。
プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。