【赤木智弘の眼光紙背】マジコンだけが悪者か? - 赤木智弘
※この記事は2009年08月27日にBLOGOSで公開されたものです
「マジコン」というものをご存知だろうか?細かい機能の部分では、多種多様な違いがあるが、基本的には、ゲームソフトのデータ(ROM)をコピーし、コピーされたROMそのもので、ゲームを遊ぶことができるツールである。
一応、ゲームを私的複製するためのツールというお題目ではあるが、現状、ほとんどのマジコンは「ネットでゲームソフトのROMデータをダウンロードして、タダでゲームソフトを遊ぶため」に使われているというのが現状であると言ってしまっていいだろう。
最近、ネット上でマジコンの利用に対して、いろんな場所から非難が上がっている。
中国人女性タレントがサイトにアップした、ニンテンドーDSをプレイしている写真に、マジコンらしきものが写っていたり、他のユーザーに質問をするようなサイトに、「途中でゲームが止まるのですが、どうすればいいですか?」という質問(マジコンで起動した場合、ゲームが正常に動作しないようなトラップをしかけるソフトが存在する)が気軽に書き込まれたりなど、そうしたblogや書き込みがニュースサイトなどで晒されては、バッシングや嘲笑の的になっている。
一番最近見た例だと、静岡のテレビ番組でインタビューされた家族連れの子供が、マジコンの刺さったDSをプレイしている(*1)、というものがあり、「最近の親は何を考えているのか」「マジコンの利用を悪いと思わない子供が増える」などの非難があった。
今の所、ROMのダウンロードは違法ではない。しかし、違法ではないということは、決してROMのダウンロードが合法というお墨付きがされているということではない。
ダウンロードという行為がネットワーク上でコンピュータを使う上では、基礎となる行為であるがために、悪意をもってダウンロードをしたのか否かの判別が難しく、個別の行為を違法と断じることができないからこそ、そうそう単純には違法化できないのである。
そのような、法的に明確に罰することができない現状で、マジコン使用に対する批判の大きさは、そうした行為に対する「モラル」を持つ人たちからの批判であると、そのように思える。
しかし私は、マジコンの利用を批判している全ての人が、本当に正義感や遵法意識から、マジコンユーザーをバッシングしているとは、とても思うことができない。
かつてまだ、インターネットというものが、パソコンマニアの趣味のようなものであった時代、ユーザーの多くは、アプリケーションをコピーして使っていた。シェアウェアや商用アプリケーションなどを使うのに必要なシリアルナンバーも、インターネット上や草の根BBSを探せば、シリアルナンバーをまとめたファイルや、起動時チェック回避用のパッチが簡単に手に入ったのである。
ゲームの分野であれば、パソコンゲームのコピーはもちろん、昔の古いアーケードゲームのエミュレーターの入手などは、「パソコンを使いこなす上で、当たり前の知識」という感覚があった。
昔だけではなく、今のユーザーだってwinnyを始めとするP2Pでのファイル交換や、動画サイトへ違法アップロードされた映像や音楽を日常的に利用している。
また、個人ではなく法人においても、違法コピーされたソフトや、正規ライセンスを持たないソフトで業務を行っている例は、決して少なくないどころか、ありふれているのである。(*2)
マジコン批判は、一見正しい。
しかし、そうした批判は「DSのマジコン」という一部の事例ばかりに傾倒し、それ以外のソフトウェア不正利用に対する言及に繋がっているとは言えない。
そして、批判自体も「マジコンを挿入したDSを迂闊に他人に見せてしまった人」に集中し、全体の論調としては、不正利用自体に対する批判というよりも、不正利用がバレてしまったことに対する批判になってしまっている。
そのようなマジコンに対する非難は、著作権に対する正しい理解を推進したり、フェアユースなどの問題提起を産み出すのではなく、他人を非難することによって、バッシングする側が、さも正義感に溢れた高潔な存在であると自惚れるためのツールに使われてしまっているというのが、現状ではないだろうか。
そしてそれは、「バレるコピーは悪いコピー。バレないコピーは上手なコピー」というように、むしろソフトウェアの不正利用の正当化に利用されてしまっているのではないか。
他人を非難するよりは、自分の身辺から省みる。また、コンピュータ文化において、ソフトウェアのコピーということが、どのように認識されて、どのような役割を果たしてきたのか。そうしたことをしっかり考えて行かない限り、ソフトウェアの著作権者の権利も、ソフトウェアの利用者の権利も、どちらも十分に守ることはできないと、私は考えている。
*1:TVのインタビューを受ける幼児がマジコンでDSプレイ!(ガジェット通信)http://news.livedoor.com/article/detail/4307812/
*2:違法コピー DATA FILE(ビジネス ソフトウェア アライアンス)http://www.145982.com/data/index.html
プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧