【赤木智弘の眼光紙背】「他人の思想信条を簡単に手に入れることはできない」 - 赤木智弘
※この記事は2009年08月06日にBLOGOSで公開されたものです
衆議院の静岡7区から立候補予定の城内実元議員が、タレントの眞鍋かをりの顔写真が入ったポスターを貼り出した結果、眞鍋かをり本人が「特定の政党や政治家の応援はしていない」とした問題で、城内がポスターを撤去し、謝罪を行った。(*1)最近、街角に貼られている政治家のポスターのほとんどに人が2人映っているのは、公職選挙法の規定で任期満了の半年前から、候補者単独のポスターを貼ることが禁止されているからだ。
しかし、「政党の政治利用」のポスターであれば、公示日前まで掲示が認められるので、選挙に向けて顔と名前を売り込むために、講演会を開催するという告知用として、出席する弁士と一緒に顔と名前を前面に出したポスターを貼ることが多い。
ちなみに、私の住んでいる東京12区は、公明党代表の太田昭宏の立候補が予定されるので、町中には公明党の講演会を告知する文章が入った、麻生太郎とのツーショットポスターと、党代表としての太田の顔が大写しになってはいるが、太田の名前は入っていない公明党のポスターが色んな所に貼られている。あくまでもこれらは公明党の活動を告知するポスターであるから、公職選挙法に引っかかってはいない。
閑話休題。政党に属している政治家であれば、党首とのツーショットにすることが多いが、党に所属しない無所属議員や、総裁の評判が悪い自民党議員などは、弁士の選定に苦労しているようだ。
そうした中で、「知名度のある芸能人とのツーショットにしたい」と考える人もいるようで、山梨2区では長崎幸太郎が、モーニング娘。などのプロデューサーとして知られる、つんく♂とのツーショットポスターを作成して、話題になっている。(*2)
今回の問題もそうした知名度を利用して、顔と名前を売ろうとしたことが、裏目に出てしまったのだろう。
今、判明していることをまとめると、眞鍋の事務所は「許可を出していない」と否定している(*3)ことから、眞鍋の事務所と城内の間を取り持ったイベント会社が勝手に許可を出してしまったということになるのだろう。それが真実であれば、全面的な非はイベント会社にある。
しかし、では城内には責任がなく、眞鍋や事務所と同じような、何も知らない被害者なのかといえば、私はそうとは思わない。
タレントが事務所を通して販売しているものは、あくまでもタレントの名前や姿形から生ずる、経済的な利益や価値、すなわち「パブリシティー権」に過ぎない。
タレントの顔が使われるものが、通常の商品のCMなどであれば、よほどのことがない限り、タレントは喜んで顔を売るだろうし、そのことを事務所が拒否することもない。
しかし、今回の問題で取引されたのは、眞鍋かをりというタレントの思想信条である。政治において誰かを応援するということは、いくら事務所に属するタレントとはいえ、他人に支配されることのない自由な領域でなければならない。
そうした意味で、城内が追うべき責任は、政治という思想信条に関わる問題を、自ら本人に確認することなく、イベント会社に丸投げしたことに対する、道義的な責任である。
道義的な責任を放棄し、タレントの思想信条を当人の直接的な承諾なしに取引できると考えたことは、城内実の根本的な人権意識の欠如を露呈したのではないかと、私は考えている。
そこまで厳しい言葉を使わなくても、もっと単純に言えば、少なくともそのくらいのことを本人に直接伝えられない程度の、遠い間柄の人間を、選挙という政治の場に引っ張り出すなということである。
タレントを自分の宣伝に使おうと思うならば、まずはタレントとの間に、それを許してくれるような深い繋がりを作ることが先決であろう。そして同じ政治的思想を実現するための仲間として、ポスターに並び立つべきなのだ。
城内実は自身のウェブサイトで、パフォーマンス先行のタレント知事や議員を批判して、このようなことを書いている。
「私城内実は、欧米流のパフォーマンス型ではなく、日本人ならどぶ板型をやるべきだと思っている。」(*4)
ならば、まずは眞鍋かをりという賛同者を得るために、どぶ板型に本人に対する直接アプローチを行うべきだった。彼自身が自らの思想信条を裏切らなければ、遠い間柄のタレントをポスターに使おうなど思わずに済んだはずである。
目先の選挙で勝ち抜くことに目がくらんだのかもしれないが、今回の問題をバネに、今一度どぶ板型の地道な政治活動を行って欲しいと思う。
*1:“無断”で眞鍋かをりさんポスターに…元議員が撤去(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090803-00000773-yom-soci
*2:つんく♂や朋美と2ショットポスター!党首より異色コラボで有権者取り込み(スポーツ報知)
http://hochi.yomiuri.co.jp/feature/topics/newsx/news/20090528-OHT1T00067.htm
*3:眞鍋かをり「選挙ポスター」騒動 事務所側が許可「一切出していない」(J-CASTニュース)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090802-00000001-jct-soci
*4:◎ 政 治 ◎ 東国原宮崎県知事出馬?(城内実のとことん信念ブログ)
http://www.m-kiuchi.com/2009/06/25/higashikokubaru/
プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。