※この記事は2009年01月15日にBLOGOSで公開されたものです

1月13日、渡辺喜美衆議院議員(元行政改革担当相)が自民党に届けを提出した。自民党は、渡辺氏を本気で慰留せず、離党届を受理した。それに先立つ9日午前、渡辺氏が総理官邸を訪れ、総理に対する公開質問状を提出しようとしたが、<首相秘書官らが、『事前の連絡無しに、首相不在時に来られても困る。国会議員が首相に質問するのは国会の場がある。』として受け取りを拒んだ>(1月10日読売新聞朝刊)ということだ。

筆者も外務官僚として、政界のしきたりについては、それなりに知識をもっているが、国会議員、それも与党の閣僚経験者が官邸を訪れて文書を提出しようとしたのに、首相(総理)秘書官らの官僚が、受け取りを拒否したというのは前代未聞の事態だ。官邸の官僚たちが国民によって選出された国会議員を軽く見ている。渡辺氏が「これでは話にならない」とケツをまくったのは当然のことだ。官僚支配が官邸にまで浸蝕しているこの状態は異常だ。静かな形で官僚がクーデターを行い国家の実権を握っているのかもしれない。

13日、離党後の記者会見で渡辺氏はこう述べた。
<国会内で記者会見した渡辺氏は、首長や有識者らと月内にも政策集団を立ち上げ、総選挙に向けた公約作りに着手する考えを表明。「志を同じくする人が、国政の場で勢力を確保しなければいけないという話になってきたときは(新党結成も)あり得る」と語った。一方、同党は党紀委員会で離党届の受理を決定した。

渡辺氏は会見で「麻生首相が『天下り公認政令』撤回を明確に否定し、麻生内閣が霞が関の代弁者であることを露呈させた」などと首相を批判した「離党声明」を発表。「麻生自民党で国民から断絶した政治が行われている」と述べ、首相と党執行部を批判した。>(1月13日asahi.com)

渡辺氏のこれまでの言動から判断すると、新自由主義的な改革をもっと徹底的に進めるべきとする「志を同じくする人」が結集して、新党なり政策集団を作ろうとしているようだ。筆者は新自由主義には反対だ。ただし、新自由主義が正しいと考える政治家が結集して政党をつくることはよいことと思う。それによって、今後の日本の進路をめぐる争点が明白になるからだ。

もっとも、政策論議を行う前に<内閣が霞が関の代弁者である>という異常事態を是正しなくてはならない。一刻も早く総選挙を行い、民意を問うべきだ。(2009年1月15日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「テロリズムの罠 右巻 忍び寄るファシズムの魅力」、「テロリズムの罠 左巻 新自由主義社会の行方」、「テロルとクーデターの予感 ラスプーチンかく語りき2」、「「諜報的生活」の技術 野蛮人のテーブルマナー」など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。