※この記事は2008年09月30日にBLOGOSで公開されたものです

9月27日、小泉純一郎元総理が、地元の横須賀で講演し、政界引退の意向を表明した。そして、<衆院神奈川11区の後継者には、次男で私設秘書の進次郎氏(27)を指名。「私も3代目の世襲で随分批判されたが、この私の親馬鹿ぶりもご容赦いただき、私に賜ったご厚情を進次郎にも頂きたい」と訴えた>(9月27日asahi.com)。

本件は、「親馬鹿ぶり」で看過されるような問題ではない。民主国家において、政治の世襲は、本来あってはならない現象だ。有権者が自らの代表として、ふさわしいと考える人物に一票を投じ、それによって国会議員が選ばれるからだ。

筆者が尊敬する政治家の一人に村上正邦氏(元労働大臣、裁判で受託収賄罪で懲役刑が確定し、現在服役中)がいる。筆者が東京拘置所に勾留されているときに、村上氏がリンゴを差し入れてくれたことが御縁で、親しくお付き合いするようになった。ちなみに、囚人はいくらカネをもっていてもリンゴを購入することができない。リンゴの差し入れは、「支援者がいる」ということを意味するので、囚人を勇気づける。

村上氏は、「参議院の天皇」と呼ばれた、政界のドンだ。政界の表だけでなく、裏事情にも通暁している。あるとき、村上氏から謎かけをされた。

「マサルさん、政治家の2世、3世が増えている理由が分かるか」
「名誉を引継ぎたいということでしょうか」
「そうじゃない。政治家がカネになるからだ」
「それは利権による口利きで、裏でカネをもらうということでしょうか」
「いや、そういうレベルの話しではない。いつのまにか議員歳費や通信交通費が上がり、秘書も3人まで税金で面倒をみてもらえるようになり、宿舎として都心の高級マンションがあてがわれるようになった。凡庸な人間で、ろくな政治活動をしなくても、歳費だけで楽に暮らすことができるだけでなく、税金から与えられるカネだけでも1000万円以上の貯金ができる」
「村上先生、ひと昔前までは、”イドベイ”といって、政治家をやると山や田畑、屋敷までも売り払うことになり、最後には井戸と塀しか残らないといいましたが、いまはそうではないのですか」
「政治に私財を投じる国会議員はほとんどいない。2世、3世議員は、家業として政治をやっている。もし、”イドベイ”ならば、親は子どもに政治家を継がせようとしない。金儲けになるから、是非とも政治家にしようとするのだ」

村上氏の話は説得力に富んでいる。

さて、国会議員の息子や娘であっても、政治家としての能力と適性があるならば、2世、3世だからといって排除する必要はない。問題は、親子が別人格であるにもかかわらず、親の政治的遺産が、子どもにそのまま引き継がれてしまうことだ。この弊害を除去する簡単な方法がある。国会議員の子どもが立候補する場合、同一小選挙区からの立候補を党の規則で禁止すればよい。そうすれば、世襲ではなく、(親のネームバリューによって助けられる要素はあっても)基本的に自分の力で這い上がって、国会議員に当選することになる。(2008年9月30日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)画像を見る」、「インテリジェンス人間論画像を見る」など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。