※この記事は2008年08月21日にBLOGOSで公開されたものです

朝日新聞の記事(*1)によると、社会経済生産性本部が発行する『レジャー白書2008』において、10代の余暇の楽しみ方のバリエーションが3割程度減って、「貧困化」しているということだ。
財団法人 社会経済生産性本部のサイトにレジャー白書2008の概要が掲載(*2)されており、そちらによると、行楽やインドア系の活動への参加人口が増える一方、旅行や宝くじは頭打ちになっているようだ。
また、市場規模においては、おおむね堅調ではあるが、ギャンブル市場が大きく落ち込んでいるようだ。
とはいえ、市場規模自体はギャンブル以外は堅調であるというのだから、それほど気にすることもないのでは? というのが実感である。ギャンブル市場はあまりに大きな市場であるために、少しの浮き沈みでも、動きが大きく見えてしまうだけの話である。

朝日新聞の記事の中で「貧困化」という言葉が使われているのだが、市場規模が堅調だというなら、何に対して「貧困化」という言葉が使われているのかを見ると、「若年期の余暇経験の貧困化」(*3)という文脈でこの言葉が使われている。どうも直接的に金銭の問題ではないらしい。
余暇経験とは、社会経済生産性本部が定める91種目の余暇活動定点観測種目のうち、年間にどれだけの種類を経験したかという数値である。その数が、10代の若者を中心に少なくなっているのだという。
この結果から朝日新聞では「若者の遊びが貧困化している」という主張を展開している。

しかし、はたしてこの数値だけで、若者の遊びの幅が減っているといえるのだるうか?
それを考えるためには、この91種の区分けが、果たして妥当かという点に注意しなければならない。
手元に『レジャー白書2008』がないのが残念だが、社会経済生産性本部がネット上に掲載している概略でのトップ20(*4)を見ると、明らかに家族持ちの40代ぐらいをターゲットにしているような項目が並んでいるのが分かる。また、重複しているであろう項目があるのも気になる。もし家族で車に乗って温泉旅館に泊まって、帰りに遊園地と動物園に行ったとすれば、その1回だけで「国内観光旅行」「ドライブ」「動物園、植物園、水族館、博物館」「遊園地」の4項目を満たしてしまうことになる。
その一方で、どちらかといえば若い人の利用が多いであろう、パソコン、そしてインターネットの利用は「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」の1項目に押し込められてしまっている。これを「プログラミング」「PCゲーム(ネット対戦)」「掲示板、チャット」「SNS」「動画サイトへの投稿」などと区切れば、若い人の余暇経験はあっさりと増えるはずだ。

年代によって趣味や嗜好がある程度違うのは当たり前のことであり、限られた項目の中で多い少ないと比べたところで、あまり意味はないだろう。それを少し数字が減っただけで「貧困化」などとは、ハッキリ言って大きなお世話である。
地味なデータを派手に見せるために、キャッチーな言葉を使いたい気持ちは分からなくもないが、それでデータの意味を取り違えるのでは、せっかくの有益なデータに対する冒涜にもなってしまうし、「若者だから貧困だ」みたいな安直な言葉の利用は、現実の貧困問題を矮小化することにも繋がるのではないかと、私は考えている。

*1:若者レジャー「貧困化」 遊びの種類減少、支出に格差も(http://www.asahi.com/national/update/0816/TKY200808160290.html
*2:http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/01.data/activity000871.html
*3:http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/01.data/activity000871/attached.pdf
*4:http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/01.data/activity000871/attached2.pdf

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国画像を見る」

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。