【赤木智弘の眼光紙背】taspoと弱者問題 - 赤木智弘
※この記事は2008年07月10日にBLOGOSで公開されたものです
7月から全国での運用が開始されたtaspo。私はタバコを吸わないので分からないが、報道を見る限りだと、ずいぶん不評のようだ。
ちょっとした手続きをすることがめんどくさいからと、taspoを作らない人が多く、タバコ自販機を置く個人商店の売り上げが激減しているという。
また、taspo本来の目的である未成年者の喫煙防止についても、親や友人が貸してしまえば買えるということで、大した効果はないという話もある。
私としても、「未成年の喫煙を減らす」という意図を最も重要視した場合、taspoという方法では十分ではないと考えている。とはいえ、taspoを闇雲に批判する考え方にも否定的だ。
未成年者の喫煙は「未成年者喫煙禁止法」(*1)という法律で禁止されている。
この法律では、喫煙した未成年に対してではなく、親や販売者といった、周囲に対する処罰となっている。つまり、社会全体として未成年者の喫煙を防止していこうという性質を持つ法であるといえる。
しかし、親はともかくとして、販売者、つまりタバコを販売するようなコンビニ店員の立場からいわせてもらえれば(*2)、コンビニ店員がお客様である未成年者に対して、タバコの販売をお断りするということに、社会的なコンセンサスなど存在しないというのが現状である。
明らかに未成年のお客様に対して販売を断った時に、相手が「しかたない」と引き下がってくれればいい。しかし、罵声の一つも浴びるかもしれないと考えれば、やはり売ってしまったほうが楽である。
コンビニのバイトという仕事の性質を考えれば、最も注意しなければならないのは、お客様とのトラブルの回避である。それは罵声を浴びて気分が悪いということもあるが、バイトという立場の弱さゆえに、トラブルの発生が「客とトラブルになるようなバイトはいらない」と、解雇に繋がることをも考慮しなければならない。
さらに考えなければならないのが、暴力を振るわれる可能性である。ちょっとしたケガぐらいならいいが、ナイフで刺されて入院ということになれば、フリーターにとっては手痛い出費である。仮に治療費がバイト先の従業員への保険などで賄われたとしても、仕事に出られない分の収入の保証をしてくれるわけではない。
未成年者喫煙禁止法は、販売者に喫煙抑止を期待するが、販売者、すなわちフリーターをとりまく社会状況は、お客様の要望を断ることを許していない。
そうしたチグハグな状況に、たばこやお酒といった年齢制限付きの商品を売るフリーターは挟まれているのである。
そのような状況を打破する為に、私が考えることは2つ。
1つが、フリーターの立場を「ちゃんとした労働者」と考え、トラブルに対しても「社会的責任を果たした」として、職を保証すること。
要はすべての職業差別をなくして、社会保障を充実させろという話であるが、言うほど簡単な話ではない。これができるなら、日本から今のような貧困問題はなくなっているだろう。
もう1つ、もっと簡単な方法がある。
自販機や対面といった販売手法に関わらず、すべてのタバコの販売にはtaspo利用を義務としてしまうことである。つまり、機械的に販売をブロックしてしまえばいいのだ。
taspoがなくて、商品をレジ登録できなければ、売ることはできない。それは店員の判断で覆せるものではないのだから、店員が責任を追う必要もない。
私は本当にtaspo導入の目的が未成年者の喫煙防止だというなら、すべてのタバコ販売にtaspoの提示を義務づければいいはずと考えていたので、それがどうして自動販売機限定になったのか、不思議でしかたない。
初期費用についても、今やほとんどのコンビニでEdyやnanaco、WAONといった、ICカードリーダーを設置しており、自販機よりも安くすべてのコンビニに設置できるハズである。
店員であるフリーターに販売を拒否する権限を与えないのであれば、機械的に販売できない状況を作ることが、もっとも簡易な方法といえよう。
自分としてはやはり、フリーターのコンビニ店員でも、安心して未成年喫煙者を怒ることのできる社会にするべきだと思うのだけれども、世間の側が「落後者であるフリーターが、成功者の子息より上に立つこと」。それを許さないのである。
*1:http://www.houko.com/00/01/M33/033.HTM
*2:私(赤木智弘)は、かつて7年ほどコンビニ店員をしていました。
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国画像を見る」
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。