【佐藤優の眼光紙背】霞が関官僚のタクシー利用基準を抜本的に見直せ - 佐藤優
※この記事は2008年06月10日にBLOGOSで公開されたものです
霞が関(中央省庁)の官僚が、公費でタクシーを利用した際に、現金やビールなどを受け取っていたスキャンダルが判明した。<中央省庁の公務員が深夜、公費でタクシーを利用した際に運転手から金品やビールを提供されていた問題で、関係閣僚は6日、謝罪するとともに、提供を受けた職員を処分する方針を示した。金品を受け取っていた職員は、502人に及ぶこともわかった。
政府は民主党の長妻昭氏に対し、改めてこの問題について回答した。金品を受け取っていた職員数は、これまでの資料に比べて防衛省で5人増え、13の省庁などで502人となった。現金を受け取っていたのは財務省のみで、概算で計187万5千円。他に商品券や図書券といった金券約20万7500円分などだった。ただ厚生労働省は「調査中」としており、判明事例がさらに広がる可能性がある。>(6月6日asahi.com)
中央省庁のタクシー利用では、2001年に外務省でタクシー代を水増しし、金券のキックバックを受け、それを換金していたことがばれて、職員が逮捕されクビになったことがある。霞が関の自浄作用が働いていないことは明らかである。徹底的に真相を解明して、関係者の処分、再発防止措置をとる必要がある。
官僚の世界では、目に見える形で仕事の成果がなかなかでない。長時間、超過勤務をする職員(特に40歳前くらいまで)が、一生懸命に仕事をし、よくできる職員であると、評価されるという間違えた伝統がある。
外務省では、筆者が現役時代、深夜零時以降は、帰宅のためにタクシー券を利用することが認められていた(筆者の記憶では、2001年から深夜零時半以降に変更された)。そうなると、11時半くらいに仕事が終わってもビールを飲んだり、週刊誌を読んで、零時になるのを待って、タクシーで帰る輩がでてくる。
更に外交の世界では、夕食をとりながら意見交換をすることが多い。話が乗ってくると、深夜まで意見交換が続くこともある。その場合、レストランから直接、帰宅する場合、深夜零時を回ってもタクシー代は自己負担になる。ただし、一旦、役所に戻ってくれば、公費でタクシーを使うことができる。そうなると、仕事でなく、プライベートに食事をして、一度、役所に戻って、公費で帰宅するような輩がでてくる。この辺をきちんとチェックできないのが、外務省の実状だった。
霞が関官僚の超過勤務は、国会答弁の準備のためというのは事実だ。国会議員の質問が入手できるのが夕刻、人によっては夜10時頃で、それから答弁を書いて、関係各課や他省庁と調整する。質問が集中する課だと、1日に30問も答弁の準備をしなくてはならない。少し面倒な案件だと、数時間かかる。それならば、国会答弁担当のシフトをつくり、夜のシフトの者は午後11時に登庁し、早朝、始発で帰宅するメカニズムをつくればよい。そうすれば、帰宅用タクシー券はほぼ必要なくなる。
役人文化で、カネに直接触るときは、慎重になるが、タクシー券の場合、そのために支払われる金額に対する意識が皮膚感覚としてわからなくなってしまう。タクシー券を廃止し、現金払いで、その後、領収書を添付する精算払いに替えれば、「俺はこんなにカネをつかっていてヤバイ。それに見合う仕事をしているとは言えないからだ」という意識がでてくる。
この機会に、公務員のタクシー利用基準の抜本的見直しをする必要がある。(2008年6月9日脱稿)
プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)画像を見る」、「インテリジェンス人間論画像を見る」など。
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。