※この記事は2008年05月15日にBLOGOSで公開されたものです

タバコ業界は、未成年の喫煙を防止するために、ICカード「taspo」による成人識別を推し進めている。
宮崎・鹿児島の両県では、今年3月の時点で先行稼働しており、この5月には1道20県でも稼働が開始された。残りの都道府県についても、7月までに稼働の予定で、一部の免許証などで成人認証ができる自動販売機を除いては、taspoがなければ自動販売機でのタバコ購入ができないことになる。
しかし、販売規制対象は自動販売機での販売のみであり、コンビニなどの対面販売ではtaspoを使う必要がないことから、3月に稼働している宮崎・鹿児島でも普及率は30%前後と低迷しているという。

taspoについてはいくつかの問題が指摘されている。
登録の煩雑さからの、普及率の低さと、それによる自動販売機の売り上げ減少。
未成年への喫煙防止であるならば、そもそも自動販売機でのタバコ販売自体を禁止すべきではないかということ。
そして、個人情報はもちろん、タバコの購入情報などを絡めたプライバシーの問題など。
こうした問題の中で、今回私が注目するのは、対面販売ではtaspoを利用しないという問題である。

どうして対面販売にもtaspo利用を原則としなかったのかと、不思議に思う。
「対面販売であれば、未成年への販売は防げる」などと考えているとしたら、大きな間違いだ。タバコの対面販売の中で最も扱いが多いであろう、コンビニでの販売において、店員はわざわざ未成年らしい客への年齢確認なんかしない。タバコが欲しいと言われれば、売るのが当たり前である。
それは決してバイトにやる気がないという話ではない。未成年者にタバコを売らないことよりも、わざわざ断ったり年齢確認をすることによって起こりうるトラブルを回避することの方が、仕事上、よほど重要だからだ。
ただでさえ陳列や清掃といった基本的な仕事を大量に控えている上、スーパーやデパートと違って人数も必要最小限。そんな中でわざわざ年齢確認などを行って、トラブルを引き起こしたら、とても仕事にならない。
ましてや、タバコを吸いたがるような、血の気が多い未成年客に逆ギレされてケガでを負って働けなくなってしまえば、その間の賃金を得ることができないのみならず、下手をすればそのまま解雇されることすらあり得るのだ。
コンビニは最小限の人数で店を回す以上、治療の間に新しいバイトが入ってしまえば、それでお払い箱である。そのバイトがもしワーキングプアであれば、収入が途切れた時点で首を吊る結果にもなりかねない。
これは決して大げさな例えではなく、非正規労働者に対する社会福祉の貧弱さを考えれば、フリーターはまずは自己防衛に徹しなければならない。そのためには法的に正しいか正しくないかではなく、とにかくその場でのもめ事やケガといったトラブルを徹底的に回避することが第一なのだ。
平成12年に未成年者喫煙禁止法が改正され、未成年が吸うことを知ってタバコを販売した人、すなわち店員にも50万円以下の罰金が科せられるようになったが、必要なのは販売側への罰ではなく、未成年者に販売しないという行為そのものに対する、社会的承認と後ろ盾であるはずだ。

そうした意味で、コンビニでもtaspoが導入されれば、未成年がタバコを買おうとしても「taspoがないから売れない」と断ることができる。店員の個人判断で売らないのではなく、機械的にレジを通すことができないのであれば、店員や業務を守りつつ、未成年へのタバコ販売を減らすことが可能である。もちろん誰かからtaspoを借りたりして購入することは可能だが、それは貸した側に対して罰則を与えればいいだけの話だ。
また、コストについても、現時点でほとんどのコンビニは、何らかのICカードリーダーを設置している事が多く、それを流用することも可能である。少なくとも自動販売機をtaspoに対応させるよりはローコストであろう。
コンビニでtaspoを利用しない理由はどこにもない。本当にtaspo導入の目的が、未成年の喫煙防止なのだとすれば、すべてのタバコ販売の経路でtaspoによるチェックを行うべきである。
しかしそうなっていないというのは、やはりtaspoを全面導入することによって、タバコ自体の売り上げが減ることを恐れているのだろう。それはタバコ産業そのものはもちろん、たばこ税の収入を当てにしている市町村にとっても、タバコの売り上げが減ることはなるべく避けたいはずだ。
未成年にタバコを売ってはいけないという建前と、タバコをどんどん売りたいという本音。そのようなズレが、taspoという存在の中途半端さに表れてしまっていると、私は思う。

赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国画像を見る」

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。