プロのコンテンツクリエイターはお金がかかる。ハイエンドのカメラとそれに付随する機材だけでなく、高画質の映像を扱える十分な処理能力をもつ強力なコンピューターも必要だ。

「アップルの「Mac Studio」は小型ながらも高性能、5Kディスプレイ「Studio Display」と合わせて使いたい:製品レビュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

最近の熱心なMacユーザーの選択肢は、オールインワンの「24インチiMac」(1,299ドル、日本では15万4,800円から)か小型の「Mac mini」($699ドル、日本では79,800円)、あるいは信じられないほど高額な「Mac Pro」(6,000ドル、日本では65万9,780円から)である。そこに「Mac Studio」が登場したことで、これらの中間に位置するほぼ完璧な選択肢が誕生したわけだ。

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Mac Studioのプロセッサーは「M1 Max」か「M1 Ultra」を選ぶことができる。アップルのより低価格なデスクトップMacよりずっと強力で、高額なMac Proの性能をもしのぐ。Mac Studioの価格は2,000ドルから(日本では24万9,800円から)と決して「低価格」とは言えないが、これほどパワフルかつ小型の製品を同じ価格帯で見つけることは難しいだろう。

これはMac Studioのレビューだが、アップルの新しい外付けディスプレイである「Studio Display」についても触れたい。アップル製品の強みを最大限に引き出すためにも、このふたつの製品を組み合わせて使うことが推奨されているからだ。とはいえ、Mac Studioはほかのどのディスプレイでも使うことができるし、Studio Displayもほとんどのコンピューターと接続可能だ(ただし、Windows PCでは制限される機能もある)。

小型で強力なデスクトップコンピューター

Mac Studioは中身がギッシリと詰まっている。重さは6ポンド(約2.7kg)ほどで、愛犬のチワワよりも重い。動画の撮影を手伝いに来た編集部のエディターは、この製品をひと目見て「これがMac Studio!?」と驚いていた。意外と大きいのである。

Mac miniと比べると、Mac Studioは2インチ(約5cm)以上も分厚く、3ポンド(約1.4kg)ほど重い。幅はMac miniと同じ7.7 インチ(約19.7cm)に抑えられていることから、置く場所の面積はそう変わらない。少々縦方向に空間が必要なだけだ。ありがたいことに、Mac StudioはStudio Displayの下部にぴったりと収まる。

PHOTOGRAPH: APPLE

この銀色のマシンがこれほど大きい理由は、いくつかある。Mac Studioは本当にアップル製かと疑いたくなるほど多くのポートを搭載しているのだ。

前面にはUSB Type-Cのポートが2つとSDカードスロット、背面にはThunderbolt 4のポートが4つ、HDMIポートが1つ、 USB Type-Aのポートが2つ、ヘッドフォンジャックが1つ、10ギガビットイーサネット対応のポートが1つ、それから内蔵スピーカーと電源ケーブルの接続口がある。ポートは充実していて非常にありがたい。これまでのようにアダプターを使う必要がないのはうれしい限りだ。

ただ、願わくば、もう少し本体が滑らないようにしてほしかった。Mac Studioの底面にはプラスチックの非常に薄いリングが付いているものの、ガラス製のデスクの上に置いて何かを接続したり、取り外したりするときに動き回ってしまうことがあるのだ。

ケーブル類は多少は力を入れないときちんとはまらないので、机からすべり落ちないように片手で本体をたびたび押さえなければならなかった。とはいえ、これはささいな問題だろう。

PHOTOGRAPH: APPLE

Mac Pro並みのパフォーマンス

さて、ここで少し数字の話をするが許してほしい。プロセッサーは「M1 Max」と「M1 Ultra」のどちらかを選べることを覚えているだろうか。アップルによるとM1 Maxは、Mac Proと比べてCPU性能が最大50%向上し、GPU性能は3倍以上も高速になる。

M1 Ultraは2つのM1 Maxチップを融合したもので、Mac Proと比べてCPU性能は最大90%向上し、GPU性能は80%以上高速になるという。どちらのチップを搭載したモデルでも、ストレージは8TBまで増設することが可能だ。

Mac Proはモジュール化を実現していることは確かだが、Mac Studioが発売されたいま、Mac Proの存在感は薄れていないだろうか?

アップルは新しいMac Proの開発に取り組んでいることを示唆しており、2022年末か23年に発表する可能性が高い。それまでパワーユーザーのニーズは、Mac Studioでほぼ満たせるだろう。

今回のレビュー用にアップルから借りたモデルは、M1 Maxを搭載したMac Studio(32コアGPU、64GBのユニファイドメモリー搭載)だった。ストレージのアップグレードを含まない価格は2,599ドル(日本では24万9,800円)となる。

とはいえクリエイティブのプロではないので、毎日の仕事といえばウェブサイトを見たり、文字を打ったり、メールを送るくらいなので、控えめに言ってもMac Studioはオーバースペックである。そこで、Mac Studioをプロの映像制作者に渡して試してもらうことにした。

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今回はシネマカメラのメーカーRED Digital Cinemaのカメラで撮影した複数のRAW素材(圧縮率12:1で約40GB)をFinal Cut Proに取り込み、編集した。最高の解像度で再生できるよう「パフォーマンス優先」ではなく「高品質」に設定しつつ、3Dトラッキングや色補正などを大量に適用している。

すると、M1 Maxは見事にすべての処理をこなした。処理が途切れることも、冷却ファンが起動することもなかったのである。映像制作のプロによると、いつも使っている24,000ドル(約307万円)のMac Proよりも速いという。

この映像制作者は標準的なM1チップを搭載したMacBook Proで作業したこともあるが、性能の限界に突き当たって作業に影響が出ていたという。これに対してMac StudioとM1 Maxの組み合わせなら、作業は滞りなく進められた。

これでもまだどちらのプロセッサーを選ぶべきか迷っている人に、アドバイスをおくろう。ほとんどのパワーユーザーは2,000ドルという価格を含め、M1 Maxで十分に満足できるはずだ。

ただし、ハイレベルなグラフィックスや視覚効果など、膨大な(本当に膨大な)コンピューター処理が必要なコンテンツを扱っている場合、4,000ドル(日本では49万9,800円)のM1 Ultraを選ぶといいかもしれない(自分がどちらにあてはまるかわかるだろう)。それでもMac Proの希望小売価格より、ずっと納得できる金額である。

PHOTOGRAPH: APPLE

美しいディスプレイ

Mac Studioと合わせて使うためにStudio Displayに目を向けるのは自然なことだ。いずれにしてもディスプレイは必要なのである。だが、1,599ドル(日本では19万9,800円から)もするディスプレイは必要だろうか?

必要ない、とは言い切れないかもしれない。本当にいいディスプレイなのだ。27インチは複数のアプリケーションを同時に操作するには十分な大きさで、5K画質の画面は驚くほど鮮明である。

それに、1,200万画素のカメラ(プライバシー保護用のカバーがない点は惜しい)を搭載し、マイクとスピーカーも内蔵している。Mac Studioのスピーカーは本体背面にあるので音声は鈍く聞こえる傾向にある。その点、6つのスピーカーを搭載したStudio Displayならとてもはっきりと聞こえるし、ずっと優秀だ。

Studio Displayには現行モデルのiPadと同じA13 Bionicチップが搭載されている。このチップでウェブカメラの画質が向上するだけでなく、ビデオ通話中にユーザーを自動で追跡して画面内に収めるセンターフレーム機能や、「Hey Siri」と言って音声アシスタント「Siri」を起動する機能が使えるのだ。

Studio Displayを窓際に設置する人は300ドル(日本では43,000円)を上乗せして、Nano-textureガラスにすることをおすすめする。窓が近い日当たりのよい場所にデスクがあるのだが、Nano-textureガラスのStudio Displayを使っている間、光の反射が気になることはなかった。

スタンドは標準設定だと傾きのみ調整できるものだが、傾きと高さを調整できるスタンドに変更するには400ドル(日本では44,000円)の追加料金が必要になることは残念だ。また、決済時にスタンドかVESAマウントアダプターを選択する必要がある。頼むから、ほかのほぼすべての外付けディスプレイのようにどちらも同梱してくれないだろうか。

Mac Studioと同じようにStudio Displayは万人向けではない。ほとんどの人には1,599ドル(日本では19万9,800円)のディスプレイは必要ないだろう。

しかし、とても色の表示が正確で鮮明なディスプレイを求めているが、「Pro Display XDR」に4,999ドル(日本では58万2,780円)も払いたくない人にとっては、いい着地点になる。欠点は、HDR非対応であることからPro Display XDRの均一でニュートラルな色調に比べると色の彩度がやや高く、コントラストが強く見えることだ。

Mac Studioにはパワーユーザー待望の強力な改良が施されていて、価格も高すぎない。標準のチップで満足し、2,000ドル(約24万6,000円)を節約できる可能性もある。そうしたら浮いたお金はStudio Displayに注ぎ込めるはずだ。

◎「WIRED」な点
優秀なパフォーマンス。セットアップが簡単で、比較的小型。ポートが充実している。最大8TBのストレージ(ほかにも複数の選択肢が用意されている)。「Studio Display」のウェブカメラはセンターフレーム機能に対応。オプションのNano-textusガラスは、窓際で作業するなら有能。

△「TIRED」な点
高額。ディスプレイ用のスタンドとVESAマウントアダプターの両方は同梱されておらず、どちらかを選ばなければならない。ウェブカメラにプライバシー保護用のカバーがない。

(WIRED US/Translation by Taeko Adachi/Edit by Nozomi Okuma)

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