名物ドライブイン消滅「名阪国道」の今 Ωカーブの“やばい道”で生まれた文化とは
名阪国道の中間に位置する「名阪上野ドライブイン」が、56年の歴史に幕を閉じます。高速道路と見まがう無料道ですが、カーブが多く自然条件も厳しい名阪国道は交通量が減少していますが、この道で生まれた“文化”は健在です。
ホルモン、伊賀牛丼、デカ盛り唐揚げ…オアシスだったドライブイン閉鎖
三重県亀山市と奈良県天理市を結ぶ名阪国道(国道25号バイパス)の大内IC前で長らく営業を続けていた「名阪上野ドライブイン」が、2022年3月末をもって閉鎖されます。1966(昭和41)年、名阪国道の開通翌年に開業したこのドライブインは、大型車が50台以上駐車でき、トラックドライバーだけでなく、奈良の法隆寺や橿原神宮などへ向かう観光バスの休憩地点としてもお馴染みの場所。客層も家族連れからツーリング客まで様々でした。
名阪国道はカーブが多く、いたるところに注意喚起の看板が立つ(宮武和多哉撮影)。
ドライブイン内に営業していた何軒もの飲食店はそれぞれ固定ファンも多く、閉鎖を前に多くの人々が訪れています。特に敷地の東側にある焼き鳥「おすみ」のホルモン焼き定食は、これを食べるために遠くから来る人もいるほど。その味だけでなく、店の方が「“ほるてい“いっちょ!」と注文を通すと、スマートフォンをいじる暇もなく水(コップの上におしんこ皿が乗っている)→ご飯・汁物→おかずが出てくるという、提供までの驚くべきスピードも風物詩でした。
また隣の中華料理店「太陽」も巨大な唐揚げや山盛りの白飯で知られるほか、本館内のレストランもブランド牛「伊賀牛」を活かしたメニューが多く、広々とした2階の貸切スペースを活用したツアー客の食事提供は、ドライブインの売り上げを長らく支え続けてきました。1階の土産物店も東海圏・関西圏の品が並び、手土産を買い忘れた人々には重宝されたものです。
しかし、コロナ禍でツアーバスそのものの需要が消えたことに加え、施設の老朽化も激しく、ドライブインを運営してきた三交興業(三重交通グループ)は、客足の回復を俟たず閉鎖の決断を下さざるを得ませんでした。
名阪国道は緑の標識が立つ自動車専用道ですが、57年前の開通時から無料で通行できます。このため、約30か所あるICの周辺にもドライブインや道の駅、PA、レストランが多く見られますが、その休憩需要の高さには、名阪国道ならではの“運転の過酷さ”があるかもしれません。
「名阪国道 やばい」←どんだけヤバイのか
名阪国道は、全国の高速道路・自動車専用道の中でも群を抜く死亡事故率の高さで知られます。インターネットのサーチエンジンで「名阪国道」と検索すると、サジェスト(関連キーワード)にかなりの確率で「やばい」と表示されるほど。そこには、“ほぼ高速道路”とは思えない線形と、自然条件の厳しさがあります。
まず、線形でもっとも「やばい」ポイントが、天理東IC〜福住IC間の巨大なΩ字型カーブです。直線で進めば5kmほどの区間ですが、Ω”を描くように、ほぼ倍の距離を回り込んで400mもの高低差を克服しているのです。最小半径150mのカーブが連続するため「急カーブ注意」の看板が何枚も立っているほか、勾配も自動車専用道路の最大値に近い6%に及ぶため、1台のスリップが数台を巻き込む事故もしばしば発生しています。
そして奈良・三重県境の山岳地帯は天気が急変しやすいことでも知られ、片側で晴れていても片側で曇り、積乱雲が溜まった山あいはゲリラ豪雨、という事態もよく起こります。
ツアー拠点でもあった名阪上野ドライブイン。「ドライブインお別れツアー」も組まれている(宮武和多哉撮影)。
筆者(宮武和多哉:旅行・乗り物ライター)も業務の関係で、鉄管などの“長モノ”や建築資材を軽トラック・ワゴン車に積んで名阪国道を走る機会がよくありましたが、Ωカーブのはるか向こうに濃い雨雲が見え、すぐに前が見えないほどの土砂降り+道路を覆うような雨水が坂の上から流れ落ちてきた時の恐怖感は、忘れがたいものがあります。濃霧に見舞われ、辛うじてドライブインに駆け込んだことも一度や二度ではなく、冬場には路面凍結の可能性に対し、天気予報・交通情報を疑ってかかる慎重さが必要です。
沿道のドライブインやPAなどは、このように精神的なストレスを強いられるドライバーの「駆け込み寺」的な役割も果たしてきました。しかし、上り線は2012(平成24)年に五月橋SAが閉鎖され、さらに今回、名阪上野ドライブインが閉鎖されることで、針IC前の「針テラス(道の駅針T・R・S)」と伊賀IC前の「道の駅いが」まで約40kmのあいだ、大きな休憩施設がなくなります。名阪国道のちょうど中間に位置する名阪上野ドライブインの敷地も、休憩地点として活用されてほしいものです。
衰退?名阪国道、沿道の賑わいは健在!
名阪国道は三重県四日市、津などの工場地帯と大阪を最短距離で結び、東海圏・近畿圏の双方へ商品の出荷が可能とあって、道路の開通後は伊賀周辺に次々と工場が進出しました。いまや三重県伊賀市には「LIXIL」「パナソニック」「プリマハム」「常盤薬品」などの大手工場が林立し、これらの工場に1万人以上が雇用されているとも言われています。
一方、2008(平成20)に新名神高速(亀山JCTー草津田上JCT)が開通し、その後も三重や大阪で整備が進むにつれ、名阪国道の交通量は減少しています。新名神は有料ですが、いわゆる“働き方改革“によりトラックドライバーの拘束時間が制限され、通行料を負担する荷主も増加しました。また現在、滋賀県や三重県の自治体が、名神・新名神・名阪国道を連絡する「名神名阪連絡道路」建設に向けた動きに力を入れており、抜本的な対策が難しい名阪国道の存在価値は相対的に薄まりつつあります。
名阪上野ドライブインも、テナント入居していたマクドナルドや回転寿司店が撤退を余儀なくされ、2012年には施設をリニューアルするなどの対抗策を取ってきましたが、交通量の減少、移動ルートとしての名阪国道の衰退を避けることはできず、そこへコロナが追い打ちをかけた形になりました。
名阪国道は大型車の多さで知られる(画像:北勢国道事務所)。
そうはいっても、名阪国道沿いの「針テラス」「名阪関ドライブイン」「伊賀上野ドライブイン」などは、周囲に商業施設が少ないこともあって、相変わらず賑わいを見せています。ほとんどの店が廃墟となった伊賀上野PAの隣で、ひっそりと営業を続けるどて焼き「味のお福」にできる行列も、昔と変わりありません。
名阪上野ドライブインに入居していた店舗の中でも「おすみ」「太陽」は移転が決定しており、今後とも営業を続けるそうです。ほかのICの前にも、昔ながらの飲食店が数多く営業しています。全線で通行料が無料なので、こまめに降りて食べ歩くのも良いでしょう。ただし、ドライバーのあいだで熱烈に支持されるこれらのお店は、高確率でご飯の“盛り“が目を剥くような量ですから、食べに行くならガソリン・タイヤとともに胃袋のチェックも忘れずに。