ロシア軍の各種ヘリコプターがウクライナ軍の対空ミサイルなどによって次々と撃墜されています。そのなかには攻撃ヘリも。戦車や歩兵にとって攻撃ヘリは脅威といわれますが、実情はどうなのでしょうか。

回転翼機のキモでありアキレス腱でもある場所

 ロシアのウクライナ侵攻が長期化するなか、戦闘の様子が両軍の公式WEBサイト以外にもSNSなどにアップされています。そうした状況下、ロシア軍の攻撃ヘリコプターが撃墜される映像が流れてくるなどしていますが、この攻撃ヘリという機種は、いったいどのような能力を備えており、どの程度の運用が限界なのでしょうか。改めて探ってみます。


ロシアのMi-35M攻撃ヘリコプター(画像:ロシアンヘリコプターズ)。

 そもそもヘリコプター自体は、第2次世界大戦末期に実用の域に達した航空機です。ただ、ヘリコプターが軍用として大量に使用され、攻撃用途含めてさらなる発展の契機となったのは、ベトナム戦争だったといえるでしょう。当初、ヘリコプターは「空飛ぶ戦場タクシー」として兵員輸送に用いられましたが、離着陸時は回避行動がとりにくく、しかも低速なので敵の対空砲火でやられるケースが多発しました。

 加えてヘリコプターは、その特徴的な構造ゆえの脆弱性も有していました。固定翼機、いわゆる飛行機は、主翼や尾翼を備えており、エンジン出力だけでなく空気による揚力も活用して空を飛びます。そのため、被弾などにより万一エンジンが停止しても、揚力に関わる翼関係が無傷なら、滑空することで一定程度は飛行できます。

 しかしヘリコプターは、エンジンで回すローター(回転翼)だけで飛ぶ力を生み出しています。それ以外に生み出される揚力や推進力がないため、ローター損壊で回転力が生み出せなくなると墜落しやすいという致命的な弱点を有していました。

 しかも、ローターの回転力で揚力と推進力の両方を生み出しているということは、その羽を音速を超えて回すことができないという弱点もあります。ゆえにヘリコプターには速度の限界があり、現行のヘリコプターのほとんどが、固定翼機(飛行機)よりも飛行速度が遅いのはそのせいだといえます。

 加えて、エンジン出力を回転翼に伝えるためのローターシャフトは、その構造上、壊れないようガッチリ固定したり、または装甲で覆ってしまったりするようなことはほぼ不可能です。回転翼(ローター)も揚力と推進力を生み出すためには、同様に固定や装甲で覆うといったことができません。この脆弱な部分をヘリコプターは有しているため、これらが壊れると、ひとたまりもなく墜落してしまいます。

アメリカが嚆矢となった攻撃ヘリの出自

 ベトナム戦争で、ヘリコプターの損害増大に頭を悩ましたアメリカ軍は、敵の攻撃に対処するため、ヘリコプターに武装を施して攻撃してくる敵に反撃できるようにしましたが、単に兵員輸送用ヘリに武装を搭載しただけでは、戦闘能力に限界があることが判明します。

 そこで、アメリカ軍は戦闘に特化した専用ヘリ、いわゆる「攻撃ヘリ」を開発したのです。こうして誕生したのが、世界初の攻撃ヘリといわれるAH-1「コブラ」でした。


ウクライナ軍の攻撃で不時着したロシア軍のKa-52攻撃ヘリコプター(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 AH-1「コブラ」は攻撃専用のため、速力、機動性、被発見性などの点で汎用ヘリよりも優れていました。以降、地上部隊と密接に連携して戦う攻撃ヘリは、アメリカだけでなく旧ソ連などでも開発されます。また、のちにはミサイルを搭載するようになったことで、対戦車戦闘や対艦戦闘などへも投入されるようになりました。

 また、そのなかで攻撃ヘリは敵の攻撃に耐えられるよう、堅固な防御装甲を備え、機体強度も強化されるようになったほか、たとえ墜落しても乗員の生存性が高くなるように発展しています。

 ただ、それでも前述したように、ヘリコプターとしての構造上の欠点・弱点は攻撃ヘリも有しています。いくら機体そのものの防御力や生残性を高めても、その部分の改善は無理でした。

 このような脆弱性を持つがゆえに、攻撃ヘリが固定翼機の攻撃機などと比べて被害にあいやすいのは当然といえるでしょう。

ウクライナで攻撃ヘリが飛び回れない理由

 ヘリコプターは、垂直離着陸が可能であることから、滑走路を備えた飛行場の必要がないため、車両で移動する整備補給ユニットと組み合わせて、野戦運用しやすいという強みがあります。この長所から地上部隊の進軍にあわせて最前線に投入されやすいのですが、今回のウクライナのように対空戦闘能力が高い場合、大口径機関砲や対空ミサイルの餌食になりやすい軍用機でもあります。


ロシア製の9K338「イグラ-S」個人携行地対空ミサイルを構えるウクライナ軍兵士(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 長・中距離防空を担う地対空ミサイル・システムと、短距離防空を担う対空自走砲や対空火器、さらに近接防空を担う個人携行地対空ミサイルを完備した敵の正規軍との交戦では、まずは砲撃や攻撃機による対地攻撃で地対空ミサイル・システムや対空自走砲、対空火器を無力化。その後が攻撃ヘリの出番となりますが、敵が個人携行地対空ミサイルを潤沢に装備していたら、当初投入される攻撃機に発見・攻撃されずに生き残り、続く攻撃ヘリもその攻撃を受ける覚悟をしなければなりません。

 これがウクライナでロシア軍の攻撃ヘリが苦戦している理由です。兵士ひとりで運搬・射撃が可能な携行型ミサイルの場合、上空からは見つけにくく、神出鬼没の存在です。それでいて脆弱な回転翼部分やエンジンなどに一撃食らったら、ヘリは即墜落してしまいます。

 しかし逆に、ゲリラや反乱軍のように対空兵器をほとんど備えていない敵に対しては、攻撃ヘリは文字通り「低空の殺戮者」となります。つまり「空飛ぶ弱い者いじめ」といったところでしょうか。

ウ軍が現地で行っているかも? な対攻撃ヘリ戦術

 なお、これはあくまで筆者(白石 光:戦史研究家)の推察ですが、もしかしたらウクライナ軍は、携行型ミサイル1基を装備する対空チームを2組セットにして互いに無線通信(スマホや携帯含む)で連携し合い、同一の敵機に対してまず1チームが発射。そのミサイルを見つけて回避機動に入った当該の敵機に、連携している2チーム目が追い打ちをかけるという時間差射撃での運用をしているかもしれません。

 というのも、1発目に対する回避は割と成功しやすいのですが、その無理な回避機動の途中で、さらにもう1発に時間差で狙われると、最初と同じレベルのきつい回避機動に入れないことが多く、被弾する可能性が高くなるからです。それに2チームを1組とすれば、もし1チームが空から発見され攻撃を受けても、もう1チームが掩護することができ、たとえ1チームが失われてしまっても、残る1チームでも戦闘の継続が可能です。

 ロシア軍(旧ソ連軍)は、かつてアフガニスタンのゲリラなどと戦った経験を有しています。しかし、それらとは異なり、ウクライナにはアメリカ製の「スティンガー」に代表される優秀な個人携行地対空ミサイルが西側諸国から供給されているため、今回のウクライナ侵攻で、ロシア軍は攻撃ヘリも含めてかなりの数のヘリコプターを失うことになるかもしれません。

※一部修正しました(3月20日9時50分)。