2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵略。これに対し同国は「国民総動員令」を発令し、18〜60歳男性の出国を禁止しました。これによりウクライナ軍は、どれだけの国民を兵士として動員できるのか検証します。

ウクライナの人口は日本の約3分の1

 ロシアによるウクライナ侵略は長期化の様相を呈しています。これは、ウクライナ国民による頑強な抵抗があってのことですが、それを裏付けるのが、ウクライナのゼレンスキー大統領による「国民総動員令」でしょう。

 ゼレンスキー大統領は「望む国民には武器を渡す」としています。正規軍の15.6%、すでに3万人を超える女性も戦争に参加していることから、「国民総動員令」で明記された18〜60歳の男性以外も、戦闘に参加している可能性は否定できません。

 一方で「NATOが参戦できない以上、ウクライナ単独では勝ち目がない」などの報道も見受けられます。そこで、「国民総動員令」によって、ウクライナはどれだけの数の国民を兵役に就かせることができるのか考えてみました。


大口径機関砲を肩に担いだウクライナ軍の兵士(画像:ウクライナ国防省)。

 ウクライナの人口は2021年現在で4346万6822人。この数は世界の国別人口ランキングでは35位で、196か国の中でも人口大国といえる方にあたります。

 このうち、20〜59歳の男性は1178万3461人です。18歳、19歳、60歳それぞれの年齢別人口は不明ですが、15〜19歳は104万9572人なので、その4割として18歳および19歳は約42万人と推定されます。一方、60〜64歳は122万8744人なので、60歳の人口はその2割として、おおむね24.5万人と仮定します。

 つまり、18〜60歳のウクライナ人男性は1240万人程度という計算になります。とはいえ、この全員を徴兵できるわけではありません。インフラを維持する技術者や、民間の流通に携わる人たちなど、社会維持に必要な民間人は、徴兵すると逆にマイナスになります。また、病気や怪我、体格、国外に脱出したなど、様々な理由で軍役に適さない人もいるでしょう。

 よって、このおよそ1240万という数は「実際に戦える人」ではないということです。では、どの程度が実際に戦えるのでしょうか。ウクライナ国内で主要都市が包囲されているほか、徴兵から除外される条件も不明ですから、正確な人数は算出不能ですが、目安として、戦局が極度に悪化し、総動員をかけた1945(昭和20)年の日本を例として考えてみましょう。

国民皆兵は過去日本でも

 1945(昭和20)年の日本では、現役兵が約224万4000人、召集兵が約350万6000人でした。同年の人口統計では「徴兵された人口は除外」されているため、徴兵された民間人が社会復帰した1950(昭和25)年の、25〜49歳(つまり1945年の20〜44歳)の数を基に考えてみます。

 日本の徴兵制度は20〜40歳が対象でしたが、戦局の悪化で1943(昭和18)年からは19歳と、41〜45歳も対象になりました(志願すれば17歳から入営可能)。なお、体格や病気、障害、長男など、除外制度もありました。


警戒に就くウクライナ軍兵士。軍服や半長靴などが皆バラバラ(画像:ウクライナ国防省)。

 1950(昭和25)年の25〜49歳人口は、1187万9962人。これに1945年当時19歳の推定人口約77.5万人と、同45歳の推定人口34.5万人を加えたおよそ1300万人が「徴兵可能人口」になります。太平洋戦争で戦死された軍人・軍属は230万人ですから、この数字はもっと多いと思われますが、戦死された時期がわからないので、計算には含みません。ひとつの目安とお考えください。

 前述した通り、1945(昭和20)年の召集兵は約350万6000人。なお、これに加えて現役兵約224万4000人も大半が徴兵可能人口に含まれます。ただ、これも46〜65歳の軍人が含まれるため、正確にはわかりません。

 現役兵+召集兵の575万人は、徴兵可能な約1300万人の44.2%ですから、根こそぎ徴兵した場合は、その程度まで動員できると考えられます。

頭数ではロ軍を圧倒し得るウクライナ軍

 ウクライナは敵国と地続きで、国家存亡の危機ですから、日本の現役兵+召集兵と同等の根こそぎ召集を行うと考えられます。

 18〜60歳のウクライナ人男性は、前述したように推定1240万人。この人数には現役兵である約21万人のうち、女性約3万人を除外したおよそ18万人が含まれますから、「ウクライナ人で徴兵できる男性人口」は概ね1225万人ほどいえるでしょう。

 この1225万人を根こそぎ動員(44.2%)すると、約541.5万人の計算となります。これに女性を含む現役兵約21万人と、海外からの義勇兵約2万人を加えた564.5万人が「ウクライナで戦える頭数の大ざっぱな目安」になります。

 もちろん、この約564万人は日本の事例を基にした筆者(安藤昌季:乗りものライター)の推測であり、実数は相当に異なるでしょうが、数百万人が動員できることは間違いないでしょう。


開戦前に「ジャベリン」対戦車ミサイルの扱い方を訓練するウクライナ軍兵士(画像:ウクライナ国防省)。

 ウクライナは、かつては陸軍大国で、1991(平成3)年の独立時には約78万人もの兵力を有していました。2022年現在の60歳は、逆算すると当時の29歳ですから、年長の世代は軍事訓練を受けた人口が多いと考えられ、訓練を全く受けたことがない「単なる民間人を徴兵」するより、有利だと考えられます。

 対するロシア軍は、判明している限りで正規軍19万人+義勇軍1万8000人+シリア民兵4万人で24万8000人です。その約23倍の敵意あるウクライナ国民を、圧倒的小人数で制圧する形だといえます。

高い練度が必要ない個人携行型ミサイル発射機がベスト

 現代戦はハイテク兵器が主役ですから、単なる頭数の比較は意味がないかもしれません。とはいえ、たとえばウクライナでの活躍が報じられる、歩兵ひとりで運用可能な携行型の対戦車ミサイル「ジャベリン」は、2週間で運用方法を習得でき、その命中率は95%にもなるとのこと。ゆえに「武器が行き渡って訓練できる」なら、この人口は一定の脅威になり得ます。

 歩兵が個人で運用できるミサイルでも、飛行機やヘリコプターには一定の脅威ですし、戦車だけでなく、タンクローリーなどの補給車両も破壊できます。NATO(北大西洋条約機構)加盟国は参戦していませんが、ウクライナ軍に偵察情報を提供している模様であり、その点でもウクライナ歩兵が有利だといえるでしょう。襲撃しやすいエリアでロシア軍の補給線を狙うことが可能なため、実際、一部のロシア軍は補給困難に陥っているようです。


開戦前に撮影されたウクライナ軍の女性兵士(画像:ウクライナ国防省)。

 ロシアが属国と見なしているベラルーシに、参戦の圧力をかけたり、核兵器使用をちらつかせて恫喝したりするのは、軍の頭数が足りていない証拠だと、筆者には思えます。

 ゼレンスキー大統領は「脱出用の航空機はいらないので、武器と弾薬が必要」と言っています。実際、数百万人が戦えるなら、頭数としてのNATO参戦は不要でしょう。ただ、これについては前提として「核兵器や生物化学兵器が使われないのであれば」という条件が付きます。

 こうして改めてウクライナの「国民総動員令」を見てみると、西側諸国が歩兵用兵器を中心にウクライナへ武器供与しているのは、軍事的合理性としては的確だと言えるのではないでしょうか。