ウクライナを守る泥 日本を守る砂?「天然の障害」防衛にどう生かす ロシア軍は足取られ
ウクライナに侵攻したロシア軍を阻んだものとして、ウクライナ軍の抵抗のほかにも、泥濘化した大地があるとのこと。日本に置き換えた場合、敵の侵攻を阻むものとして砂浜が同じような効果を期待できそうだといいます。
冬将軍ならぬ泥将軍
2022年2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻を開始しました。当初は短期間で首都キエフを含む大部分がロシアに占領されると思われていたものの、ウクライナ軍と国民による激しい抵抗によって戦争は長期化しています。
ロシア軍の侵攻を阻んだ要因は複数ありますが、そのなかには雪解けによって泥濘化した大地もあるといわれます。この泥濘は非常に厄介なもののようで、タイヤ駆動のトラックや装輪装甲車だけではなく、地上戦力の主役である戦車ですら、はまるものが続出しているといいます。
ロシア軍が遺棄していったT-80戦車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。
これと同じようなことが、つい先日、日本でもありました。3月4日から始まった「令和3年度第31海兵機動展開隊との共同訓練」。この訓練は、陸上自衛隊と沖縄駐留のアメリカ海兵隊との共同訓練として東富士演習場などを舞台に行われたもので、その一環として、アメリカ海兵隊は静岡県沼津市にある今沢海浜訓練場において車両の揚陸訓練を行いました。
その訓練は、アメリカ海軍の汎用揚陸艇(LCU)を用いてJLTVという最新装甲車や、「ハンヴィー」などの汎用車両などを揚陸させるというものだったのですが、ここで数両が柔らかい海砂にタイヤを取られスタックしてしまったのです。
ただ実はこの海岸、過去には自衛隊も車両をスタックさせたことがある厄介な場所でもあります。
キャタピラ駆動の戦闘車両でも安心できないわけ
タイヤ駆動の装輪車が砂浜ではまってしまうのは理解しやすいでしょう。そのために悪路走破性を重視した戦車などは装軌式、いわゆるキャタピラ駆動の足回りになっているといえます。ブルドーザーや油圧ショベルなどの重機も、不整地などで使うことを鑑みて同じような足回りになっています。
ただ、それでも過信は禁物。やはり過去の訓練において陸上自衛隊の水陸機動団が保有する水陸両用車AAV7が別の砂浜で一時的にスタックしたことがありました。それは2020年に行われた北部方面隊演習でのことです。
静岡県の今沢海浜訓練場における上陸訓練で、砂浜にタイヤがはまり行動不能に陥ったアメリカ海兵隊の装輪装甲車JLTV(武若雅哉撮影)。
北海道北部の日本海に面した天塩町に天塩訓練場という場所があります。ここは前出の今沢海浜訓練場と同じように砂浜があるところで、94式水際地雷敷設装置などの訓練を行っています。
ここで着上陸訓練の一環として水陸機動団のAAV7が、沖合から水上航行してきたのち訓練場の砂浜に上陸、指定された通路を曲がる際に“たまたま”脇に落ちていた漁網を踏んでしまったのです。この漁網が古く劣化した物であれば良かったのですが、それなりに新しい物だったのでしょう。回転する履帯に巻き付いた漁網は、一時的にAAV7の動きを止めてしまいました。
その後、AAV7は前後進を繰り返してなんとか漁網を断ち切ることに成功、無事に訓練に復帰しています。
ウクライナに通じる侵攻を阻む方法
こうして見てみると、ウクライナの泥濘によってロシア軍戦闘車両の進撃が遅れているのは、日本防衛という観点から見ても参考になるのではないでしょうか。
日本はウクライナとは異なり、地続きではなく独立した島国であるものの、ゆえに侵攻を企てる相手国の軍隊は、重車両や主要装備を持ち込もうとした場合、必ず日本のいずれかの場所に上陸しなければなりません。ただでさえ、潮流の激しい外洋やスタックしやすい砂浜は天然の障害となっているのに、これに加えて、前出のとおり打ち捨てられた漁網などの人工物に気をつける必要があるのです。
北海道の天塩訓練場の砂浜で漁網を履帯に絡ませてしまった陸上自衛隊の水陸両用車AAV7(武若雅哉撮影)。
ということは、国土を防衛する日本側からすると、専用の障害物だけでなくそれら民生品を組み合わせたハイブリッド障害を作ることで、日本に上陸するハードルをより高くすることができるともいえるでしょう。
自衛隊やアメリカ軍が日本の海岸に上陸する訓練を行う理由の一つは、侵攻してくる敵の立場に立って、日本に上陸するにはどこから攻めれば良いのか、そして、どんな障害だと敵の進撃を足止めするのに効果的なのかを知るためでもあります。
こうした訓練で得られた教訓は、自衛隊員を含む日本人が対着上陸作戦を立案・実施する際に、非常に役に立つといえるでしょう。そういった視点で今回のロシア軍によるウクライナ侵攻を見てみると、また違った戦訓が得られそうです。