複雑怪奇!「電動キックボード=ほぼ自転車扱い」道交法改正案 “取締りの嵐”再来か
電動キックボードをはじめとする新モビリティを「特定小型原付」に区分するという道交法改正案。ほぼ自転車扱いになる電動キックボードは極めて複雑な存在となり、取締りの嵐が吹き荒れることも懸念されます。
「特定小型原付」は「原付」の仲間
2022年3月に閣議決定された道路交通法改正案は、車種区分に「特定小型原付」を新設し、電動キックボードをはじめ新しく登場するパーソナルモビリティーの交通ルールを定めました。しかしこの特定原付、名前は原付のようで、扱いは自転車のようなもの。一読した国会議員の一人は、こう感想を漏らしました。
「つまり、これはどういう扱いなのか……」
歩行者に交じって大阪の日本橋を走行する電動キックボード。これまで違法だった歩道走行も、道交法改正で一部可能になる(中島みなみ撮影)。
現時点で公道走行ができる車両は「自動車」「原付」「自転車」のいずれかに分類され、走ることができる場所やルールが異なります。大きな違いは動力が人力か、それ以外か。電動アシスト自転車も含めて少しでも人力を使っていれば、部分的に歩道を走ることも可能です。
しかし、今回の改正案は、人力を使っていなくても歩道や自転車道を走ることができることを初めて認めました。それが新設される「特定小型原動機付自転車」です。1960(昭和35)年の公布以来60年以上続く基本方針の大転換。警察庁交通部の話を交えて、施行後の運用について考えます。
現行の道交法で30km/h以下の低速車両は、同じ自転車をベースにしていても、エンジンやモーターの原動機付きと、人力自転車に大別されます。歩道や自転車道(専用レーン含む)を走ることができるのは人力の自転車だけ。原動機付(原付)は走ることはできない、という大原則を貫いていました。
では、そもそも道路交通法で「特定小型」は、どういう扱いなのでしょうか。警察庁交通部はこう答えます。
「人力を使わず原動機で動く乗り物なので、車種区分としては名前の通り『原動機付自転車』です。原動機付自転車の中に従来の『一般原付』と『特定小型原付』があると考えてください」(交通総務課)
しかし、今回の改正案を読むと「特定小型原動機付自転車」は、原動機付きでありながら、自転車のように走ることができます。「原付」との大きな違いは次の通り。
・免許不要(16歳以上)
・ヘルメット不要(努力義務)
・自転車道走行(自転車専用レーン含む)と車道左端を通行
・歩道通行可(自転車通行可の歩道で例外的に)
そのため「特定小型原付」には、車道を走る「一般原付」とは違う規定があります。大きな違いはスピードと大きさです。
・最高速度20km/h
・長さ190cm×幅60cm
大きさの規定は普通自転車並みです。高さ制限がないのも、自転車にと条件を共通にしています。
歩道に「特定小型原付通行可」の補助標識ができる?
特定小型原付は一般原付との速度10km/hの差で、今まで原付では走ることのできなかった通行を可能にしました。ただ、車道から歩道へと車線を変更して走るのは自転車同様に違法(自転車通行可の歩道を除く)で、その対策も盛り込まれています。
「特定小型原付が走ることのできる歩道は、自転車と同じように補助標識で示されます。どの歩道でも走ることができるわけではありません。また、歩道を走れる車両は、最高速度6km/h以下に制御できることが必要で、6km/h以下を歩行者に知らせる表示ができ、標識と車両の条件がそろった場合のみ例外的に通行が可能です」(交通総務課)
現行でも歩道に「自転車通行可」の補助標識が掲げられた区間がありますが、例えば「自転車・特定小型原付通行可」にすることで、誰が見ても特定小型原付が走行できる歩道であることがわかるように運用します。
原付だから「駐禁」 駐車問題の噴出必至
国土交通省では保安基準の検討が続く(中島みなみ撮影)。
車両側の細かい条件は車両の保安基準を定める国土交通省自動車局の「車両安全対策検討会」で検討が続いています。
改正案で示された車両側の条件は、歩道での最高速度6km/hにあわせて最高速度を切り替える制御がされて、そのことが歩行者など他者にわかるように表示できることです。
この表示方法は、たとえば、車両のどこかにウインカーのような表示灯火を取り付けて、点滅させて走行モードを知らせる手法です。
走行モードの切り替えを表示させる装置はすでに、ナンバープレートを隠す「モビチェン」がグラフィット(和歌山市)から発表されています。ペダル付き電動バイクの法的な扱いを、一般原付から自転車に切り替えるモビチェンは、ブラインドのような仕組みでナンバープレートを隠して、走行モードを他者に知らせます。
ただ、改造防止などを施した仕組みは大がかりでコストがかかります。電動キックボードのような構造が簡単な乗り物では「なるべくコストをかけないようにすべき」という意見から、簡易的な手法で負担を抑えるように配慮されました。
ところが、このコスト減を図る議論はユーザーにとって、必ずしもプラスには働かない可能性があります。改正案では、特定小型原付は条件さえそろえば歩道走行可能なので、原付として取り締まりを受けます。当然、放置駐車の摘発も受けることになります。
もし、ナンバープレートを隠す仕組みの走行モード切替装置を取り付けていれば、道交法の特例で「自転車とみなされる」ため駐車違反にはなりませんが、こうした装置を取り付けないとなれば、電動キックボードの利用が増えるほど“取締りの嵐”という状況も考えられるのです。
スピードメーターも「不要」に結論
思い出されるのは2006(平成18)年、駐車場不足のなかで道交法改正が改正され、バイクの駐車違反の嵐が吹き荒れたことです。原付バイクはその後、大きく需要を落としました。警察庁は取り締まりを厳しくしましたが、駐車監視員制度導入直前まで駐車場法の対象は四輪車だけで、地方自治体の駐車場整備が明確になっていませんでした。
自転車のようで原付という「特定小型原動機付自転車」は、どこに駐車すべきかという議論は、いまだかつてされたことがありません。新しいモビリティも、走ることばかりでなく止める場所を考えなければ一過性のブームに終わりかねないのです。
法的な扱いを変える走行モード切替装置だけでなく、速度を自覚するためにも「スピードメーターを付けるべき」という意見にも、やはりコスト負担から、特定小型原付には不要になりました。保安基準で速度計を義務付けると、高い精度と耐久性が要求されるため、“自転車のような”乗り物には適さないというわけです。また、そもそも、特定小型原付には一般原付にはないスピードリミッターの取り付けが義務付けられるため、メーターまでは不要ということにもなりました。
警察庁は電動キックボード販売事業者やシェアリング事業者に交通安全教育の徹底を求めた(中島みなみ撮影)。
免許保持者との公平性を保つため点数制度は適用されませんが、免許が必要な運転者と同様の注意が必要です。利用者には一方通行の解除、原付バイクに見られる幹線道路などの通行が制限される区間などの走行についても、反則金や命令による講習のなど厳しいペナルティが課されることが、改正案で明確になりました。特定小型原付利用者の混乱を避けるために現状で「自転車を除く」とされる区間では、歩道通行と同じように補助標識に特定小型原付の除外を書き込み、警察庁はなるべく自転車扱いに近づける方向ですが、未成年を含む免許を持たない利用者に、どこまでその配慮が伝わるでしょうか。
複雑な交通ルールをいかに伝えていくのか。改正案では販売事業者やシェアリング事業者が交通安全教育を努力義務で行うことで決着しましたが、国会での議論が待たれます。