モビルスーツ搭載の宇宙戦艦?『ガンダム』世界の軍艦を分類したら現実的だった
軍艦には「航空母艦」「駆逐艦」など数多くの艦種が存在します。人気アニメ『機動戦士ガンダム』にも数多くの“宇宙艦艇”が登場し、現実の艦種に即した設定がなされていますが、具体的な基準は不明。なので、考察してみました。
現実世界と同様に「強襲揚陸艦」や「空母」も登場
アニメ『機動戦士ガンダム』には、様々な架空の宇宙艦艇が登場します。こうした艦艇は現実の軍艦と同じように、設定上は用途に応じて艦種ごとに分類されています。たとえば地球連邦軍のペガサス級は「強襲揚陸艦」、ジオン公国軍のムサイ級は「軽巡洋艦」といった具合です。
しかし、その艦種ごとの区分けの基準はどこにあるのか、いまいち曖昧です。そこで、筆者(安藤昌季:乗りものライター)が、主な軍艦について、代表的な艦名を挙げながら運用もふくめ、非公式に考察してみます。
アメリカ、イギリス、フランスの各国軍艦からなる空母艦隊。空母だけでなく揚陸艦や巡洋艦、駆逐艦、フリゲートとバラエティに富んでいる(画像:アメリカ海軍)
そもそもジオンには、チベ級「重巡洋艦」や、ザンジバル級「機動巡洋艦」、ズワール級「高速巡洋艦」などが存在します。一方の地球連邦が保有するサラミス級は「宇宙巡洋艦」であり、ジオンのような区別はありません。しかし、小説版にはコーラル級重巡洋艦が登場するほか、続編の『Zガンダム』にはアレキサンドリア級重巡洋艦が登場するので、両軍ともに重巡という概念があることがわかります。
それよりも大きい艦となると、連邦のマゼラン級、ジオンのグワジン級が「戦艦」として存在しており、最大級の宇宙戦闘艦艇となっています。
「空母」もしっかり用意されており、ジオン側ではドロス級という、モビルスーツを100機以上搭載するものが、宇宙要塞として描かれています。
地味な支援用の「輸送艦」「補給艦」も
地球連邦側にも空母はありますが、ジオンとは大きく異なります。アニメ本編には登場しないメカをまとめたMSV(モビルスーツバリエーション)においては、マゼラン級戦艦を改装したトラファルガ級全通甲板型支援巡洋艦というものがあり、空間戦闘機「トマホーク」12機、あるいは宇宙突撃艇「パブリク」6機を搭載可能とされていますが、これが改装されて、小説版の戦闘機60機を搭載する「宇宙空母トラファルガ」となったのだと筆者は考えます。また、詳細不明ですが、ノースポール級空母というものも存在するようです。
2000年代に発表された新設定のMSV-R(モビルスーツバリエーションアール)には、1年戦争直後に完成したとされるネルソン級軽空母というものも用意されています。これはサラミス級を改装し、6機程度のモビルスーツ、あるいは宇宙戦闘機を搭載可能といいますが、砲撃戦能力を残しており、航空巡洋艦的な艦型です。そのほかにも、コロンブス級輸送艦を改装した、アンティータム級補助空母という艦型があり、こちらも宇宙戦闘機やモビルスーツを搭載したようです。
軽巡? それとも重巡? 宇宙艦艇の基準はどこにあるのか(イラストレーター:亜浪作成)
モビルスーツ運用能力を持ち、地球の大気圏内での飛行能力を保持する艦種は、地球連邦ではペガサス級「強襲揚陸艦」、ジオンではザンジバル級「機動巡洋艦」があります。また、小型艦艇として、ジオンはガガウル級「駆逐艦」を、地球連邦はレパント級「ミサイルフリゲート艦」を保有しています。
SF的世界観を大切にした作品なので、補給を支える軍艦もしっかり設定されています。地球連邦がコロンブス級「輸送艦」で、ジオンはパプア級「補給艦」となっていました。
このように、地球連邦とジオンでは役割が重なる艦艇でも、微妙に艦種の呼び名が異なることから、艦種を決める基準も若干違うと思われます。
ガンダム世界の「軽巡洋艦」と「重巡洋艦」違いは?
ジオンの宇宙艦艇を見ると、「重巡洋艦」と「軽巡洋艦」でしっかり分けられています。歴史上の軍艦では重巡と軽巡は主砲口径、すなわち威力で区別されていました。しかし、ジオンで重巡に分類されるチベ級は、後期型のティベ型で主砲が小型化されているため、主砲口径の違いではないと思われます。
『機動戦士ガンダム』では、宇宙艦艇であっても排水量で重さを表していました。その点を鑑みると、おそらく排水量の違いでしょうか。とはいえ、ムサイ級軽巡が1万3000トン、チベ級重巡が1万6000トンと大差ないため、区別する合理性はあまりないといえるでしょう。
『機動戦士ガンダム』の世界での戦艦と重巡洋艦、軽巡洋艦の違いを推察してみた(イラストレーター:亜浪作成)
そこから推察するに、「重巡」と「軽巡」を分けるのは「排水量のなかで武装に割いた重量の比率」ではないでしょうか。武装が「重い」、すなわち攻撃力を重視した艦型が「重巡」ということです。
実際、ムサイ級軽巡とチベ級重巡を比較すると、主砲は同じ6門ですが、チベ級は大型主砲です。ミサイル発射管はムサイ級が2門、チベ級は12門ですから、武装に割いた重量の比率はチベ級の方が上でしょう。
後期型のチベ級ティベ型重巡は主砲が小型化され、ミサイル発射管も4門に減っていますが、一方でモビルスーツの搭載能力が、チベ級の8〜12機から18機に増えたようです。つまり、宇宙世紀では艦載機運用設備も「武装の重量」に含まれるのでしょう。
なお、地球連邦もアレキサンドリア級重巡は、サラミス級よりも主砲数やモビルスーツ搭載能力で優れているので、ここは同じと考えられます。
船体サイズの大小じゃない!「戦艦」と「重巡洋艦」の違いは?
では、戦艦と重巡洋艦の違いはなんでしょうか。
チベ級重巡は「戦艦として建造されたが、近代化改装を受けて核反応炉とメガ粒子砲を搭載し、重巡に艦種変更された」という設定があります。普通に考えるなら、実体弾の大砲をメガ粒子砲に換装したり、新型機関に換装したりすると、逆に重量は減ると考えられます。
そこから推察すると、排水量で「戦艦」と「巡洋艦」が分けられ、チベ級は排水量が減ったから重巡に変更されたのでしょうか。しかし他方で、ザンジバル級機動巡洋艦は排水量が2万4000トンあります。
つまり排水量基準だと、チベ級は改装前に2万4000トン以上あったことになります。チベ級は前述のとおり1万6000トンのため、戦艦であった改装前には2万4000トン以上あったというのは、やや不自然でしょう。
日本とアメリカが建造した実在の戦艦。上が大和型戦艦で下がアイオワ級戦艦(アメリカ海軍の画像を編集部で加工)
また「戦艦並みのサイズを持つ」ドズル・ザビ座上のムサイ改級「ワルキューレ」は軽巡です。つまり、区分は排水量ではないと考えられます。
そう考えると、戦艦かどうかの基準は恐らく「主砲の攻撃力が一定の基準を満たしているか」ではないでしょうか。前述した地球連邦のトラファルガ級全通甲板型支援巡洋艦も「マゼラン級戦艦の武装を撤去して艦載機運用能力を強化した」という設定の艦艇ですから、攻撃力自体は低下しているといえます。そのため、ここは同一基準なのでしょう。
つまり「チベ級は、新型のグワジン級戦艦並みの攻撃力を持たせるべく、主砲を大型メガ粒子砲に換装したが、それでも基準には届かなかったため、重巡に格下げされた」ということではないでしょうか。
ざっくりと、筆者が持ちうる知識をフル動員して推察してみました。優れた世界観を持つ作品は、現実の歴史と同様、様々な考察を行うことができるのが、また別の楽しみだといえるのでしょう。