「ムリヤ」より巨大!? もう一つの世界最大飛行機「ロック」とは 規格外の“双頭竜”なぜ誕生?
ウクライナ危機で破壊されたアントノフAn-225「ムリヤ」は「世界最大かつ世界唯一の飛行機」として知られていますが、実は同じ称号をもつ飛行機がもう1種あります。「ロック」と呼ばれるこの機、どういうものなのでしょうか。
世界中の航空ファンに衝撃 ギネス記録保持機「An-225」の破壊
ロシアのウクライナ侵攻により、ウクライナのアントノフ設計局が手掛けた(製造はソ連時代)1機のみの「世界最大の飛行機」、An-225「ムリヤ」が破壊されたと報じられました。航空ファンとしては涙なしにこのニュースを聞くことはできませんでしたが、一方で、世界にはAn-225のような際立った活躍こそしていないものの、もう一つ「たった1機しかない世界最大の巨人機」がまだ残されています。
世界最大級の飛行機ストラトローンチ「ロック」(画像:Stratolaunch公式Twitter)。
An-225破壊の衝撃が世界を駆け巡ったのは2月末。インターネットで流れた動画には、キエフ近郊のホストメル基地にある屋根付き整備場のなかで、機首は地面に落ち右主翼や胴体が大破し、左主翼はかろうじて原形を留めた、見るも無残なAn-225が映っていました。一方でウクライナ政府は、An-225を復活させるとTwitterで明言しています。筆者としても、同機の復活を願わずにはいられません。
そのようなAn-225は巨大なだけに、大きさにまつわるギネス記録も多数持っています。もっと有名な記録は最大離陸重量。640tで、「世界一重い航空機」です。ほかにも、たとえば2009年8月に独フランクフルト・ハーン空港で187.6tのプラント用発電機を積載し、「最も重い航空貨物を積んだ記録」を打ち立てたことでも知られています。
ただ、その一方で、巨大さを示す指標のなかには、他の航空機がAn-225を上回るものもあります。たとえば横幅です。An-225の全幅は88.4m、これは1947年にただ一度だけ飛んだ飛行艇「H-4ハーキュリーズ」の97.51mに及びませんでした。
そして、今ではH-4より横に長い巨人機がアメリカに存在します。それが、ストラトローンチの「ロック(Roc)」です。
「ロック」はどのような機体なのか?
「ロック」は全複合材製でエンジン数はAn-225と同じく6基。全長は72.54mとAn-225に及びませんが、横幅は117.35mで世界最大です。また大きさもさることながら特徴的なのは、胴体がふたつに分かれた「双胴機」のスタイルであること。まさにそのルックスは「超巨大双頭竜」といえるでしょう。
この機は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
飛行艇「H-4ハーキュリーズ」(画像:サンディエゴ航空宇宙博物館)
「ロック」の誕生には、H-4に大富豪ハワード・ヒューズ氏がいたように、ストラトローンチのそもそもの設立には、マイクロソフトの共同創業者で億万長者、そして生前は宇宙に魅せられていたポール・アレン氏が関わっています。
「ロック」は当初、宇宙空間の低軌道へロケットを打ち上げるために開発されました。双胴機となったのは、2本の胴体のあいだにロケットをセットし「空飛ぶ発射台」とするためです。なお、今は無人極超音速機試験機の発射がミッションに挙げられています。
「ロック」の初飛行は2019年4月13日。2回目のフライトは少し空き2021年4月29日に実施されました。2022年に入り、1月16日と2月24日に立て続けに3、4回目のフライトを行い、3回目のフライトでは過去最大の高度7162.8mを記録し、一番高く上昇しています。
巨大モンスター機「ロック」日本には来そうにないワケ
一方で「ロック」は米・カリフォルニア州のモハーヴェ航空宇宙港に定置され、フライトも同地を発着するものに限られています。今後モハーヴェ以外の地へ飛び新ミッションを展開するのかなど、その未来はまったく不透明といえるでしょう。また貨物室もないため、用途はかなり限定されます。そのことから今後フライトしたとしても、その姿を日本で見かける機会は限りなくゼロに近いと見られます。
アントノフAn-225「ムリヤ」(画像:Antonov Company)。
なお、An-225「ムリヤ」は、これまでに数度日本へ飛来。2011(平成23)年の東日本大震災の際には、その巨体に救援物資を積み込み成田空港にやってきました。巨人機それ自体も人を惹きつけてやみませんが、とくにAn-225が多くの航空ファンに愛されたのは、今までのその“巨大なヒーロー”のような働きぶりも一因だったことは間違いありません。
航空ファンの「ムリヤ(ウクライナ語で「夢」「希望」の意味)」が壊れないよう、An-225の復活、そして「ロック」の活躍、双方を祈りたいものです。