サスペンションの減衰に、なぜ伸び側と圧側があるのか?【ライドナレッジ024】(ピックアップ)
必要不可欠なのが減衰性能
フワつかないよう押えるのが減衰性能だが、
動きを硬めにするのではなく、柔軟性を高めるのが主な役割。
サスペンションは装着されているスプリングが路面からの衝撃を吸収する、乗り心地を快適にするための装置、というのが基本機能なのはご存じの通り。
しかしスポーツバイクのように、バンクしてコーナリングを楽しむなど操る面白さを求めると、この乗り心地が最優先ではなくなってくる。そしてこのサスペンション機能を左右するのがダンパーとも呼ばれる減衰力装置。
それではなぜ減衰力が必要になるのか、順を追って説明しよう。
まず路面からの突き上げでサスペンションのスプリングが縮んで(撓んで)その衝撃を吸収する。次に縮んだスプリングは伸びて元へ戻ろうとする。ところがスプリングはこの縮んだ後に伸びる動きだけでなくまた縮もうとする動きを伴う性質があるのだ。
たとえば柔らかいベッドの上で勢いよく飛び跳ねると、中のコイルスプリングの反発で何度か跳ね返る、あの動きと同じ理屈。この何度か伸び縮みを繰り返す動きは、もちろん安定性を妨げるので何とか抑え込みたい。ということで開発されたのが、筒の中に往復するピストンを入れオイルで密閉して設けた弁で動作にブレーキをかける、ダンパーと呼ばれる装置。
これが伸び側減衰、この仕組みのおかげでサスペンションはフワフワと落ち着かない動きをせず安定した走行が得られるようになっている。そしてスポーツ性の高いバイクには、伸び側減衰の調整機構も装備されているのが一般的だ。
速いバイクはサスが硬いという神話はとっくに崩れ去っている。
ではそのスポーツ性の高いバイクに装備されている、圧側減衰というのは何のためにあるのだろうか。
これはサスペンションの歴史では、オフロードモデル用のとくに激しい衝撃が加わったときのために開発されたのが最初で、’80年代からとサスペンションが開発されてすぐ実用化された伸び側減衰に較べ、最近になって開発されたもの。
もともとサスペンションの圧縮側の動きは、スプリングにある反発力でほとんど作動を抑えているわけで、基本的に必要とされてこなかった。
それがなぜ必要になってきたかというと、サスペンションが吸収できるエネルギーをより大きな荷重まで対応させようとしただけでなく、さらに追求されたのが路面追従性という性能だ。
コーナリングなど、タイヤのグリップ性能次第なシーンで重要なのが路面追従性という性能。路面の不整も、突き上げる凸方向の動きだけでなく、凹んだ側へ追従する伸びる動きで、スリップしにくいか否かが決まってしまう。つまりタイヤが路面から離れてしまうとスリップするが、路面に接したまま離れなければグリップし続けるからだ。
そしてこの路面追従性を高めるのが、反発力の小さい柔軟なバネ特性のスプリングということになる。この柔らかいスプリングをフワフワさせず、安定した動作とする決め手がダンパーの減衰特性ということなのだ。
このように路面を掴んで放さないサスペンションほど、硬いスプリングではなく柔らかいスプリングで、減衰力を発生するダンパーも硬く抑え込むのではなく、柔軟に速やかに抑え込む特性が必要になってくる。
速いコーナリングなど、サスペンションもダンパーも硬いほうが優位と思いがちだが、実際にはまるで逆という事実はあまり知られていない。
スポーツバイクのサスペンションには、体重や荷重の違いでスプリングが縮む位置を調整するプリロード・アジャスターが必ず装着されている。さらにスポーツ度が高いモデルには伸び側ダンパーのアジャスターも装着されている。オーリンズのように高機能なハイグレードサスには伸び側だけでなく圧縮側もダンパーのアジャスターがある