男だって“レース下着”の時代!完売続出中、商品化でわかった「男性の美意識の変化」
男性ならブリーフやボクサー。では女性ならレース。それ以外は……なんて考えはもう古いのかもしれない。大手下着メーカー『ワコール』が販売を開始した、“男性用レース下着”が完売続出しているという。女性用のイメージの強いレースで、なぜ作られたのか? 開発者そして男性レース愛用者にも話を聞いた。2022年の新たな下着事情とは―。
【写真】売れに売れた!男性用レース下着、実際に着用するとこんな感じ
男性の「美意識の変化」
レース生地と聞いて、思いつくものはなんだろうか。ドレスやブラウス、スカート、そして下着。これらを着用している人物を思い浮かべると、多くの人がそれは“女性”ではないだろうか。
しかし、そんな“固定観念”は捨ててほしい。大手下着メーカー『ワコール』が発売した男性用のボクサーパンツ。形は一般的なボクサーパンツの形状だ。しかし、その素材には全体にレースが使用されている。“男がレースの下着?”と思う人も少なくないかもしれない。しかし今、これが売れに売れているという。
「12月よりECサイトと3店舗限定で発売開始したところ、当初3か月間の売り上げ目標枚数を10日間で達成しました。現在はほぼ完売状態で、3月末の増産が決定しております」(ワコール広報担当、以下同)
商品名は『レースボクサー』。ワコールの男性インナーブランド『ワコールメン』で展開されている。多様化した現代社会に生まれた男性のレース下着。商品化のきっかけは。
「2年前に顧客アンケートをとった際、お客様がワコールメンに求めるニーズが、女性インナーと同様に上品さ、きれいさ、そして品質のよさなどであることがわかりました。それまでは40〜50歳の男性ビジネスマンを顧客ターゲットと考え、“男らしさ”をコンセプトにしていましたが、実はお客様の求めるニーズとズレているのではと思い始めました。
今までのブランドコンセプトとは違う男性の美意識の変化と、女性インナーで培ってきたノウハウとブランドイメージというワコールの強みを合わせた商品を開発しようとなり、『レースボクサー』が生まれました」
開発スタート時、社内の反応はどうだったのか。
「これまでにない商品なので、まずはサンプルを作成してから社内でヒアリングを実施し、そこでさまざまな意見が出ました。“ワコールメンらしくない”とか“俺ははけない”という意見ももちろんありましたが、大半は面白い商品だという評価でした。
女性は「かわいい」「プレゼントにあげたい」、男性は年齢に関係なく年配の方でも、自分も欲しいという意見が多かったのは印象的でした。そして何よりも、男性の美意識の変化、そして女性が男性に求めるカッコよさが明らかに変わっていると感じました」
実際に売り出した反響は先に記したように完売状態だ。レースを男性用下着に使用することは、“機能”的にどんな意味があるだろうか。
「いちばんは機能ではありませんが、レース素材の持つ上品さ、高級感、透け感が世の男性が知らなかった独特のはき心地やセクシーな着用感を感じることができると思います。
機能面でも、レースの持つ透過性、通気性が全体のムレを軽減します。また生地が薄く、縫い目も少ないのでアウターに響きにくい特徴もあります。そしてレースという繊細な素材感と強い伸度により、独自のフィット感を作っています。使用しているレースは男性向けに、破れを防ぐために強度を高め、独自に開発されたものです」
男性レース下着は2度の“完売”
実はこのレースのボクサーパンツ、“完売”するのは2度目といえる。昨年11月末に、正式な商品化に先立って、クラウドファンディングを行い、そこでも目標金額の10倍が集まる人気ぶりだった。
「第1の目的はテストマーケティングでした。本来クラウドファンディングは商品の製作に共感・支援してくれる方から資金を集めることが目的ですが、私たちの考えている新商品がお客様からどういう支持を受けるのかを事前にリサーチできます。実際に支援実績を受けて、シーズンの生産計画、またサイズやカラー構成に反映させました」
“愛用者”にも話を聞いた。都内在住の会社員、澁木陽太さん(24)は、レースボクサーを着用する。澁木さんは普段よりファッションにジェンダーは意識しておらず、男性用・女性用という衣服の認識ではなく、サイズ的に着用できるものであれば、それは“着られるもの”として見ていたが、「下着においては別だった」という。
「男女の体形差もありますが、自分は女装をしたいわけではないので、男性用の下着を選んでいました。でも女性用の下着と違って男性用はバリエーションや購入する場も限られ、ファッション好きの男性も、“こだわりたくてもそこまで追求できるものが世間で見当たらない”というジレンマが少なからずありました」(澁木さん、以下同)
そんな時、知人女性より、レースを使った男性用下着が発売されることを耳にした。レースやフリルといった素材は、ショーなどに参加する、いわゆるハイファッションのメンズの洋服では時折使われていたが、下着となると未知の素材だった。
「着用前は、レースがかたく、椅子に座ったときなどにごわついたり、違和感がないのかと思っていましたが、素材が柔らかいのでその心配はありませんでした。普段、ボクサーパンツではなく、トランクスをはいている男性であれば多少の締めつけを感じるかもしれませんが、程よいフィット感で細身のパンツにも合わせやすいです」
“境界”はどんどんなくなっている。それは身体の大きさも……。ワコールでは、ウエストが68センチから104センチの人まで対応するボクサーパンツ『パンツホリック』も展開。
そのパンツは、S・M・Lのように、大きさの違いによってサイズが分かれておらず“ワンサイズ”だ。サイズ表記は“S−LL”となっている。この“サイズという境界のなくなった”下着は、“男女兼用”でもある。こちらはパリコレクションにも参加しているファッションブランド『ビューティフルピープル』(以下、BP)とのコラボに至り、2月に発売される。
「BPさんとのコラボ商品は、ジェンダーレスインナー、いわゆるユニセックス商品になります。
BPデザイナーの熊切秀典さんは、男性・女性という性差のないことはもちろん、性別やサイズ、素材、色などファッションにおける既成概念や先入観から着る人を解放する服作りを目指していらっしゃいます。ワコールの『パンツホリック』の考え方に共感いただき、コラボ商品を開発することとなりました。
コラボ商品はオーガニックコットンを使用するとともに、男女兼用でワンサイズにすることで商品数を最小化し、物を作らないことで独自のサスティナビリティを実現していると考えます」(前出・ワコール広報担当)
男性だから○○、女性だから●●。身体が△△だから▲▲……。そんな時代は過ぎ去った。それは、レースにこれだけの世の男性が飛びついたことからも表れているだろう。