ある日、夫が適応障害で休職。本人を苦しめないための周囲の対応とは
最近、よく耳にするようになった「適応障害」。特定のストレス要因により、不眠や抑うつなどさまざまな不調が起き、ときには社会生活を送るのが難しくなってしまうこともある病気です。放っておくと、重度のうつ病など深刻な精神疾患につながる可能性も。新型コロナウイルスにより、旅行や会食など以前はできていたストレス発散もなかなかできない現在、適応障害のリスクが高まっているかもしれません。今回は、適応障害によって夫が休職したという、ESSE読者の小村昌也さん・由紀さん夫妻(仮名)に、病気の発覚から約2か月間の休職、職場復帰までのお話を伺いました。
ある日、夫が適応障害に。妻や職場の人の反応は…?
小村由紀さん(仮名・41歳)の夫の昌也さん(仮名・42歳)が「適応障害」と診断されたのは、2020年の11月下旬。
会社員として働く昌也さんは、もともとメンタルが強くないことを自覚しており、マネジメントのように責任のある立場はできる限り避けてきたといいます。しかし、上司からのすすめもあり、引き受けることに。そうして半年以上が経ったころ、大きなストレスに見舞われました。
●リモートワーク中、同僚が気づいた「異変」
「マネジメント業務自体は上手く行っていたのですが、11月の中旬に担当商品の大きな不具合が発覚し、ネット上で“炎上”してしまいました。
マネジメントをする人間は、なんでも自分でできなければいけないと思っていたので、報告を受けていたのにきちんと対応できなかった自分を責めてしまい、眠れない日が続くようになりました」(昌也さん)
市販の睡眠導入剤などを飲んでも、症状が改善しなかった昌也さん。仕事は続けていたものの、テレワーク中に膝から崩れ、自宅の階段から落ちてしまったことも。なにをしていても、仕事のストレスを忘れることができず、ついには脳みそが鉛のように重くなり、頭がまったく働かなくなる状態にしばしば陥ったといいます。
そんなふうに不調に苦しみながら働く昌也さんの状況に最初に気づいたのは、職場の同僚でした。
「本人もメンタルの不調で休職した経験のある50代の同僚が、チャットや通話のやり取り中に、私の様子がおかしいことに気づいて、上司に報告してくれたんです。すぐに上司がストレス源である仕事を引き受けてくれ、産業医と面談することになりました」
●適応障害の診断を受け、職場へ報告したところ…
産業医のすすめによって、外部の医療機関で「適応障害」の診断を受け、休職することになった昌也さん。「職場への報告」や「休職するかどうか」は、メンタルの病気で悩む人の多くが直面する問題。昌也さんの場合は、どうだったのでしょうか。
「自分の場合は幸いなことに、職場にメンタルの不調や、それによって休職する人への偏見はありませんでした。実際、メンタルの病気で休職した人が、会社から不当な扱いを受けているのを見たことがありません。もし休むことができなかったら、重度のうつ病を引き起こしていたかもしれない、と今は感じます」
職場に信頼できる人がいるかどうかも、安心して休職し、治療に専念するためにはとても重要なこと。昌也さんも今では、メンタルの不安を持つ年下の社員たちのメンターとして、部署を超えて彼らの相談を受けているそうです。こうした支え合いの仕組みが会社にあることも、精神的な問題を抱える人々にとっては大きな救いになるのではないでしょうか。
●適応障害になった夫に対する妻の反応
夫が「適応障害」という診断を受けて休職することになったと聞いたとき、由紀さん自身は「まあ、仕方がない」と感じたそうです。
「病気になるまでストレスを抱えていたと気づかなかったので、申し訳ない気持ちもありました。メンタルの病気は本人にしかわからない面もあるのかなとも思うので、本人が病気を意識しすぎないよう、できるだけいつも通りに接するように。休職に対しては、休めて元気になればいいか! とあまり深刻に考えないようにしていました」(由紀さん)
そして、そういった普段通りの由紀さんの態度が、昌也さんにはありがたかったといいます。
「“大丈夫?”や“元気出して!”など、すごく心配されると、逆にプレッシャーになっていたんじゃないかと思います。人によって違うとは思いますが、私自身はやさしさの塊をぶつけられるのがつらいタイプ。私の病気に興味がないんじゃないか、くらいの妻の反応にかえって助けられました」(昌也さん)
●自分を追い詰める考え方のクセを見直した
11月下旬に休職してからは、何も考えない時間を過ごしたり、自宅の周辺を散歩したりなど、とにかくのんびり過ごしたという昌也さん。また、妻のアドバイスで実家に戻り、学生時代を過ごした地域に足を延ばしたのも、過去の自分を取り戻すいいきっかけになったそうです。
休職中に認知療法を学んだおかげで、自分の考え方のクセを知ることができたのも大きな変化でした。
「『はじめての認知療法』(大野裕、講談社現代新書)という本を産業医にすすめられ、自分を追い詰める考え方のクセに気づきました。そういったネガティブな考えに陥らないように心がけることで、随分気持ちがラクになりました。
以前はマネジメントをする立場なんだから、全部自分でやらなければ、と思っていましたが、復職してからは、以前よりも人に任せることができるようになりました」(昌也さん)
●大きなストレスから身を守るために大切なこと
約2か月間の休職後、充分に回復を実感し、会社や医療機関と相談したうえで、翌年2月上旬に復職した昌也さん。
今は、以前よりもストレスを感じずに仕事ができているといいます。普段からたくさん運動をするようになったことで、仕事を忘れる瞬間をつくれるようになり、それも安心感を持てる一因になっているそうです。
「復職してからも閑職に回されるようなことはなく、新しい仕事にも挑戦させてもらっています。マネジメントの範囲も広がり、一瞬不安が過ぎりましたが、今は以前よりも気持ちに余裕が生まれ、追い込まれることはなくなりました」(昌也さん)
だれしもがなる可能性のある、適応障害。大きなストレスから身を守るためには、昌也さんのように自分の考え方のクセを見直してみるのも大切なのかもしれません。
※心身の異常が強く生活に支障がある場合は、自己判断はせず適切な医療機関を受診するようにしてください。
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