東京2020パラリンピックの開閉会式でもファッショナブルなアイテムとしての注目が集まった義肢。義手や義足と呼ばれる人工の手足である義肢は、機能性はもちろんのことファッションアイテムとしても進化を遂げているそうです。

義肢を使うことで開けた未来の可能性

今回はさまざまな義肢を製作している臼井二美男さんと、自身も義足ユーザーとして新たな可能性を発信するイラストレーターの須川まきこさんにお話を伺いました。 

●オシャレを楽しむ「デザイン義足」の誕生

義足といっても、じつは何種類もパターンがあるのをご存じですか? 日常生活に使用する“一般的な義足”も、年齢や切断部によって装着するものが異なり、そのほかにもスポーツ義足のような“特殊な義足”に分類されるものまで幅広く存在しています。

今回取材で訪れた「鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター」ではこれまでに多様な義手・義足を数多く製作。最近では、今までの歩くための義足に加えて、色鮮やかにデコレーションされている「デザイン義足」と呼ばれるファッションを楽しむものも多く登場しています。

義足のなかには、臼井さんが製作し、義肢装具サポートセンターの職員が手作業でひとつずつデコレーションしていった“世界にたったひとつ”のデザイン義足もあるそう。

臼井さんは義足をつくる理由を「じっとこもっていると気分も下がるし、免疫力とかもやっぱり落ちてしまう。足を失うと最初は誰しもそうなりがちなんだけど、ヒールがはけるおしゃれなものとか、(義足自体が)きれいでテンションが上がるものをつくれば、出かけたくなるし、自分の体に自信を取り戻せるようになると思う」と語ってくれました。

●自分は特別ではない。可能性を決めるのは自分自身

そして、今回お話を伺ったイラストレーターの須川さんもデザイン義足でおしゃれを楽しんでいる一人。

「最初に義足ファッションに興味を持ったのは病気で足を切断した15年ほど前に、パラリンピアンの大西瞳さんがミニスカートで街を歩ける義足をつくる企画をTVで見たことです。それが自分にはめっちゃ新鮮で…歩くためだけじゃなくて、義足で楽しんでええんや! と。これからの楽しみを探していた時期だったので、私にもこれをつくってほしい! って思い、すぐ関西から東京の義肢装具士臼井さんのところに駆けつけ、今に続くご縁が始まりました」

「義足をつくってもらって、臼井さんの陸上クラブにふらっと連れて行ってもらったんです。クラブでは老若男女がみんなタイムやら、コツやら一生懸命、楽しそうに陸上に取り組んでいました。それこそ、パッと外から見ると誰が義足か義足でないか分からないくらいの感じなんです。そこで感じたのは、自分は特別じゃないんだってことです。障害の有無とか、なにができないとか決めているのはいつも自分自身」

「義足でスポーツでもなんでもできるし、そんならファッションでもみんながもっと楽しめるようになったらええやんと思ったんですよね。もちろん、陸上クラブで走ることも挑戦し続けています」

●義足でファッションを最大限楽しむ!

義足ファッションも、義足のうえからシリコン製のカバーをつける「リアルコスメチック義足」の登場で、ミニスカートやハイヒールも履けるようになり、自身の好みの柄やクリスタルで装飾できる義足など、楽しみ方の選択はどんどん広がっているそう。

「服と自然に調和するものから、主張の強いものまで、近年、選択肢が大きく広がりました。私がイラストレーターということもあって、義足の柄とかを考えるのはとても楽しいです。一緒につくる義肢装具士の臼井さんは義足の技術はもちろん、美術部出身で美的センスもとても良いんですよね」

義足の女性たちがモデルを務めるファッションショー。このファッションショーは臼井さんが「多くの義足の可能性を知ってもらう機会にしてもらいたい」と企画をし、須川さんも参加しています。

「最初のきっかけから分かるように、義足のファッションにはずっと興味を持っていて10年ほど前から、臼井さんとの企画で少しずつファッションショーなどもやるようになりました。ショーを始めた当初は義足をむき出しにすることに抵抗感がある人も多く、義足はあくまでかくすものと扱われることも多かった印象です」

「それが、義足の進化と東京2020パラリンピックの誘致などで世間の目も変わってきて、より誇らしく、自身を表現できるようになりました。それは私たちが続けてよかったなって思うことのひとつです。小さな規模からスタートしたものが、私たちが主役のショーができるようになって…2020年には無観客オンラインファッションショーとして高輪ゲートウェイで大々的に行い、いよいよ時代が追いついてきたなと思いました(笑)」

臼井さんとカメラマンの越智貴雄さんが取り組む「切断ヴィーナス」プロジェクトでは、義足で輝く女性たちの魅力をファッションショーや写真集などで発信。11月1日には2冊目となる写真集も発売しました。

この写真集には須川さんのほかにも、東京2020パラリンピックの陸上競技に出場した前川楓さんや東京2020オリンピック閉会式と東京2020パラリンピック開会式に出演したファッションモデルの海音さんなど、さまざまな義足や義手を使用している女性モデル27名が登場。義足や義手をファッションツールとして楽しんでいるシーンがたくさん映し出されています。

●新しいきっかけ・感動をつくる活動を

最後に臼井さん・須川さんお二方に今後の夢をそれぞれお聞きしました。
「10年ほど前に行ったドイツでの体験が忘れられないんです。どこに行っても、バスとか公共交通機関が義足・車いすユーザーに使いやすく、普通の市民との境がありませんでした。自然な共存関係がとても心地よく、義足ユーザーがまだ特別な存在の日本との違いを強く感じました。義足だけが進化しても、人の意識や社会、建造物が変わっていかないとこうしたバリアフリーの社会は実現できないと思うんです」(須川さん)

「人間誰しもが老いて行くし、これからは超高齢化社会です。今はなんでもできる人達が、いつ不自由な思いをするかは分かりません。家族や愛する人を思うように、誰しもが義足や、バリアフリーのことを思い、社会が変わって行ってほしい。私たちの活動が、そんなことを想像するきっかけになればいいなと思っているんです」(須川さん)