コロナ禍でマスクをすることが多くなり、「呼吸がしづらい」「口呼吸になってしまう」といった声が聞かれます。「マスクをしていると呼吸が苦しい人は“しっかり息が吐けていない”証拠です」と指摘するのは、呼吸コンサルタント・アスレティックトレーナーの大貫崇さんです。

その不調は呼吸のせい?体を回復させる「正しい呼吸法」

呼吸がしづらいと、呼吸数が増え、血圧が上がり、交感神経が優位になり、夜眠れなくなる…といった悪循環が起こり、さまざまな心身の不調につながってしまうことも。

●現代人の多くはきちんと息が吐けていない

ふだん当たり前のように行っている呼吸ですが、じつは多くの人が呼吸の問題点を抱えていると大貫さんは言います。

「息を吸う時間が長く、吐き切れていない人がほとんどです。『息を吐いてください』と言われたとき、吐く前に大きく息を吸おうとするのは息を吸いすぎている証拠です。息を吸う時間が長い人は、人間の活動を促進する交感神経が優位になります。すると、心身を休ませる副交感神経は抑制され、いつも緊張している状態に。そうすると体に炎症が起こりやすくなり、痛みも知覚しやすくなるため、頻繁に不調を感じるようになるのです」

●口呼吸は今すぐやめるべき呼吸法

息を吸いすぎているという問題と、もう一つ、悪い呼吸として大貫さんが挙げるのが「口呼吸」です。

「口呼吸は文字通り、鼻から吸うのではなく、口から息を吸うことを指します。口呼吸の悪影響としてまず挙げられるのは、免疫力の低下です。鼻にはほこりやウイルスなどの侵入を防御するフィルター作用がありますが、口呼吸ではその作用が働きません。細菌やウイルスが体内に入りやすくなり、風邪や病気にかかりやすい体質になってしまうのです」

また、口呼吸には鼻腔から分泌される一酸化窒素が体に入らないという問題もあります。

「一酸化窒素には血管拡張作用や、分泌系・免疫系・生殖機能の向上など、人間の健康に必要な役割がたくさんあります。口呼吸を続けていると、一酸化窒素を取り込めず、免疫力や生殖機能の低下に加え、血管拡張作用が起こらないことで、心臓病や脳卒中のリスクも高まってしまうと考えられます」

●正しい舌の位置をチェック

そして、口呼吸の原因ともなりうるので注意したいのが、舌の位置です。

「本来は上顎についているはずの舌の位置が落ちてしまうと、下顎の重みと一緒になって口が開いてしまいます。舌が落ちると気道がふさがれて狭くなるため、いびきや無呼吸など睡眠の質が著しく低下する原因にもなってしまうのです」

●呼吸を変えると体と心が変わる理由

呼吸を人間の本来の「きほんの呼吸」に戻し、息がしっかり吐けるようになると、心身に次のような変化が表れるそうです。

(1) 自律神経が整ってリラックスでき、ストレスが軽減する

(2) ストレスホルモンの過剰な分泌を抑えて、必要な時に分泌できる

(3) 二酸化炭素への耐性がつき集中力がアップする

(4) 一酸化窒素を取り入れて血管が拡張できる

(5) 筋肉への負担がなくなり姿勢がよくなる

(6) 体幹が整い肩こりや腰痛がなくなる

(7) 疲れない体になり普段のパフォーマンスが向上する

●「きほんの呼吸」のポイント

では、次のポイントに沿って、「きほんの呼吸」を実践してみましょう。

(1) 息は鼻の奥から吸って、鼻から吐く

口呼吸はNG。鼻腔(鼻の奥)を使うことで横隔膜が動きやすくなります。口から吐くことはここでは問題ありませんが、口から吸うのは避けてください。

(2) 息を吸う、吐く、止めるの割合は、1:3:1を目安に

吸うのが1だとしたら、吐くのに3〜4倍の時間をかけ、吐き切ったら、吸ったときと同じくらいの時間、何もしない状態に。最初は苦しいかもしれませんが、まずは1:2:1から、慣れてきたら1:3:1へと吐く時間を延ばしていきましょう。

(3) 「きほんの呼吸」はいつでも行える

朝起きたとき、パソコンに向かっていて、ふと呼吸を止めていることに気づいたとき、運動に取り組む前、疲れて帰ってきたとき、寝る前のベッドの中など、いつでもこの呼吸に戻れたら、しめたものです。

●「きほんの呼吸」は日常のさまざまなシーンで使える

眠れないときや、気持ちがしずみがちなときなども、「きほんの呼吸」が役に立ちます。具体的な方法を大貫さんに教えてもらいました。

・寝つきをよくしたいときの呼吸

ベッドの中で肋骨のあたりに手を置き、ひざは立てます。息を吐きながら、1、2、3…と数を数えて10秒吐きます。3秒止めてから、3秒かけて息を吸い、また、1、2、3…と数えながら10秒吐きます。これを繰り返しているうちに、いつの間にか眠っている人も多いです。

ただ頭で数を数えるだけでなく、息を吐く時間を数えるのがポイント。

・前向きな気持ちになりたい

目を閉じ、「きほんの呼吸」をしながら1、2、3…と数を数え続けて、雑念やネガティブな気持ちが浮かんできたら0回に戻って数えなおすチャレンジをしてみましょう。雑念を右から左に流して呼吸に戻れるのが理想。気持ちが流されそうになっても、本来の自分に呼吸で戻ってこれるという体験を繰り返していきましょう。

心身の不調が気になる方は、まず呼吸から見直してみてはいかがでしょうか?