高回転と低中速、エンジンの両方のメリットを引き出すための機構がある

4ストロークエンジンは「吸気→圧縮→爆発→排気」の4つの行程を繰り返して回転している。ピストンの上下する動きに合わせ、排気バルブや吸気バルブが開いたり閉じたりすることで、空気とガソリンを混ぜた混合ガスを吸い込んだり、爆発した後の燃焼ガスを排出したりしているわけだが、じつは排気行程から吸気行程に移行する際に、吸気バルブと排気バルブの両方が開いている“オーバーラップ”という時間がある。

一般的にはオーバーラップしている時間が長いと「高回転型」になってパワーを稼ぎやすい。ただし回転数が低いときはトルクが低く、未燃焼ガスが多く輩出され、燃費も悪いというデメリットがある。

反対にオーバーラップの時間が短いエンジンは、「低中速が得意」なトルクの太いエンジンになり、燃費や排出ガスの面でも有利。ところが吸排気の慣性を生かしにくいため、高回転まで回りにくく、最高出力の面では不利になる。

これはどちらが優位というものではなく、たとえばスーパースポーツならオーバーラップの多い高回転型に、また街乗り主体のバイクなら中低速のトルクを優先してオーバーラップ量を少なくするなど、使用状況やバイクのキャラクターに合わせて設計するのが一般的だ。スーパースポーツのエンジンをベースに市街地よりのネイキッドを制作する際は、こうしてエンジンのキャラクターをつくり分けているのである。

しかし、スポーツバイクとして考えると“低回転から高回転まで全域で高効率”なのが理想的なはず。そんな矛盾した特性を両立するために生まれたのが「可変バルブタイミング機構」だ。

各社、独自の機構で低回転域と高回転域を切り替える

吸気バルブや排気バルブの開閉は、クランクシャフトからチェーンやギヤを介して駆動される“カムシャフト”によって行われる。そこでエンジンの回転数(回転域)によってカムシャフトの作用角をズラしたり、カム山の形状を切り替えたりすることで、オーバーラップ量も含めたバルブの開閉タイミング類をコントロールするのだ。

じつはこの機構自体は比較的昔から存在し、スポーツ系の四輪車のエンジンにはかなり以前から装備されており、近年は排出ガスや燃費など環境性能の観点から、一般的な乗用車にもかなり普及している。
しかしバイクの場合はスペースに限りがあり、重量増が大きなデメリットにもなるため、装備されるまでに時間がかかった。また、クルマよりも重量の軽いバイクは、レスポンスや過渡特性が重視され、繊細な制御が必要なのも要因だろう。

それでは代表的な3種の可変バルブタイミング機構を見てみよう。

DUCATI DVT

カムシャフトを駆動するプーリーを、ECUが制御する油圧で角度を変えて、バルブタイミングをコントロール。吸気側、排気側の両方のカムを個別に制御するのが特徴。テスタストレッタDVT1262エンジンに装備され、Xディアベルおよびディアベル、2017年~2020年モデルまでのムルティストラーダなどに搭載される

SUZUKI SR-VVT

電気や油圧を使わずにバルブタイミングが変わる、シンプルな純機械式。吸気側のカムシャフトのスプロケットが二重構造になっており、高回転になると遠心力でボールが外側に移動することでスプロケットがズレる。10,000rpmを超えるとオーバーラップが4°分増える。V型4気筒時代のMotoGPマシン「GSV-R」からのフィードバックで、GSX-R1000Rが装備する

BMW シフトカム

吸気側のカムシャフトに部分負荷用カム(低速)と全負荷用カム(高速)のふたつのカム山が並び、回転数やエンジン負荷によってカムシャフトがスライドして切り替わる。吸気バルブの開閉タイミングだけでなく、バルブのリフト量も変化する。最新の1,250cc水平対向2気筒と、S1000RR、M1000RRの並列4気筒などにも装備される

走っていて切り替わっている感覚は皆無

ちなみに走りながら切り替わるタイミングで回転を行き来させてみても、カムが切り変わっている感覚は皆無で、その切り替わりはとてもスムーズだ。これは全車に共通していえること。

かつては高回転・高出力を狙ったスポーツバイクは低回転での扱いやすさが犠牲になり、街乗りやツーリングに適した実用域でトルクがあるバイクはパワーの面で不利なのが当たり前だった。
しかし燃費や排ガスなどの環境性も含め、現代バイクは多様な性能を求められる。可変バルブタイミングは、そこに対応する手段のひとつなので、今後はより多くのバイクに装備される可能性が高い……と思いたい。

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