全国で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されました。春は中止や延期が相次いだ運動会も、この秋は無事に開催できた学校も多く、久々に愛用のカメラが活躍したという人もいるでしょう。秋の運動会や行楽シーズンがやってくると欲しくなる便利な高倍率ズームレンズですが、この秋はタムロンが投入した「18-300mm F/3.5-6.3 Di III_A VC VXD(Model B061)」が気になる存在として挙げられます。大浦カメラマンに実力をチェックしてもらいました。

ズーム倍率16.6倍を誇る高倍率ズームレンズ「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD(Model B061)」。ソニーEマウントのほか、富士Xマウントも用意します。希望小売価格は96,800円で、実売価格は82,500円前後です


27〜450mm相当を1本でカバーできる

タムロンは、フィルム時代より高倍率ズームレンズを得意分野のひとつとしているレンズメーカーです。広角から超望遠まで幅広い画角をカバーする高倍率ズームがあれば、レンズ交換の手間を不要とし、いろいろなレンズを持ち歩く必要もありません。デジタルとなってからは、レンズ交換を行わないためイメージセンサーへのホコリの付着も抑えられるメリットも生まれるなど、何かと重宝することが多く人気の高いレンズとなっています。

同社が新たに投入した「18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD(Model B061)」は、APS-Cフォーマットのミラーレスに最適化された高倍率ズーム。フルサイズ判に換算したときの焦点距離は27〜450mm相当で、特に望遠域においては超望遠といわれる画角までをカバーします。ブラブラ歩きのスナップ撮影から、ポートレート、風景、そして運動会をはじめとするスポーツイベントなど、この1本でカバーできると述べてよいでしょう。

付属するフードを装着したところ。ワイド端18mmに最適化されているため、望遠側での撮影はちょっと物足りなく感じます。テレ側にズーミングすると、フードもそれに応じて深くなるズームフードのようなものをそろそろ考えてもいいのではと思えます


何より、その画角領域の広さから、ワイド側では遠近感を強調した広角レンズらしい表現が、テレ側では被写体をぐっと画面に引き寄せ、さらに圧縮効果による迫力ある超望遠レンズならではの表現が一本で手軽に楽しめます。また、最短撮影距離はワイド端18mmで0.15m、テレ端300mmで0.99mを実現しており、被写体を画面のなかに大きく引き寄せることも得意。まさに万能レンズと述べてよいでしょう。

鏡筒は、これまでのAPS-Cフォーマット用デジタル一眼レフ専用高倍率ズームよりもちょっと胴長。参考までに「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO(Model B016)」と比べると、最大径は0.5mmだけ大きいφ75.5mmに収まっていますが、全長は26.1mm長い125.6mm(ソニー用)となります。重量も80g重い620gで、日常的に使うにはちょっと気合がいるかもと思えます。ただし、より高画素のデジタルカメラに最適化されているなど理由はありそうなので、写りと大きさ重さとのトレードオフの結果と述べてよいものなのかもしれません。

ワイド端(18mm)


テレ端(300mm)


ワイド端の18mm時とテレ端の300mm時の鏡筒です。テレ端時は前方にインナー鏡筒が繰り出し、ワイド端時の倍近い長さになります。写真は、ソニーの高性能APS-Cミラーレス「α6600」(ボディ単体モデルの実売価格は17万円前後)を装着しています

鏡筒の右上側面には、ズームロックスイッチ類が備わっています。レンズを下に向けたときなど、不用意な繰り出しを防げます


「高倍率ズームだから写りはそれなりでしょ」は過去のもの

肝心の写りですが、高倍率ズームであることを考慮しても、広角、標準、望遠、超望遠域とも隙を感じさせるところはありません。どの画角でも絞り開放から解像感は高く、コントラストも不足を感じさせません。合焦面のエッジは、時折線の太さが感じられるものの、キレはおおむね良好に感じられます。

画面周辺の写りについても、ワイド端から望遠域まで結像の緩さや色のにじみなどなく、よく写っているなと感じさせます。テレ端の画面周辺部でわずかに解像感の低下が見受けられましたが、狭い画角ならではの被写界深度の浅さによって、さほど気になることはありません。逆光にも比較的強く、ゴーストやフレアの発生もよく抑えているように思えます。ディストーションについては、ワイド端で弱い樽型のゆがみが見られますが、総合的には高倍率ズームとしてこれまで以上の写りといえるものです。

AFについては、カメラの機能に依存する部分もありますが、リニアモーターによる動作は高速で静か。フォーカスエリアと重なったところに正確にピントを合わせるとともに、コンティニュアスAFではしっかりと被写体を捕捉し続けます。光学式の手ブレ補正機構も搭載しており、超望遠域でも安心して撮影に臨めます。さらに、レンズは防塵防滴構造を採用するなど、写り以外の部分でも隙を感じさせません。

18-300mm F/3.5-6.3 Di III-A VC VXD、ズバリ“使える”高倍率ズームと述べてよいでしょう。万能なレンズとしてこの1本のみを使うだけでなく、望遠ズームの代わりに標準ズームとともにこのレンズを使用するという贅沢な使い方にも対応できそうです。マウントはソニーEマウントのほか、待望の富士フイルムXマウントも投入されますので、Xシリーズのユーザーも大いに注目する価値はあると思います。

ワイド端(18mm)


テレ端(300mm)


対角線画角はワイド端18mmで77.24°、テレ端300mmで5.30°。ズーム倍率16.67倍の画角の違いは圧倒的であることが分かります 共通データ:ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf8.0)・WBオート・ISO100・JPEG

ワイド端18mmでの撮影です。太陽光がやや弱いこともありますが、目立ったフレアやゴーストの発生は見受けられません。多くの光学レンズを採用する高倍率ズームは逆光に弱いイメージがありますが、本レンズを見る限りそれは杞憂といえます ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf4.5・1/3200秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離18mm


高倍率ズームらしからぬ繊細な描写です。合焦している部分の葉脈など鮮明で、解像感も高く感じられます。AFも速く、狙った位置に速やかに、かつ音もなく合焦します ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf8.0・1/250秒)・WBオート・ISO640・JPEG・焦点距離158mm


焦点距離74mmで撮影。絞りはF8としています。ピントの合った部分の解像感は高倍率ズームとしては文句の付けどころがありません。エッジのキレのよさはハイエンドの標準ズームに迫るものです ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf8.0・1/400秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離74mm


こちらは焦点距離41mm、フルサイズ判換算で61.5mm相当の画角となります。注目は画面周辺のエッジ。等倍に拡大してチェックしても色付きのようなものは見受けられません。小さく写るヒコーキもよく結像しています ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf8.0・1/640秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離41mm


作例の撮影は秋の長雨の間を縫って、なるべく天候の良い日を選んで行いました。この写真もそのような条件で撮影したもの。コントラストが高く、クリアでヌケのよい写りの写真となりました ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf5.6・1/1250秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離18mm


動き物は撮るのが楽しい被写体のひとつです。コンティニュアスAFで撮影していますが、フォーカスフレームと重なった被写体をしっかりと捕捉しており、シャープネスの高い写真となりました ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf6.3・1/4000秒)・WBオート・ISO250・JPEG・焦点距離227mm


ワイド端18mmでの撮影です。もともとワイド端は弱いディストーションが見受けられますが、このような撮影条件では強調されるようです。Adobe Photoshopなどを使った補正前提で撮影するとよいでしょう ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf8.0・1/500秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離18mm


焦点距離40mm、絞りf8での前ボケの様子。ナチュラルなボケ味で、前ボケとしては違和感のないものとしています。ディストーションもなく、見た目に自然な仕上がりです ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf8.0・1/250秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離40mm


こちらは反対にカメラに近いほうにある被写体にピントを合わせています。絞りはF4.5。背景ボケは柔らかく、高倍率ズームのボケとしては嫌味のないものです。ピントの合った部分の解像感も高く思えます ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf4.5・1/640秒)・WBオート・ISO100・JPEG・焦点距離40mm


圧縮効果を生かした作例です。小型の船舶が密になっているように写真では見えます。望遠レンズ特有の写りも、高倍率ズームなら簡単に楽しめます。ピントの合っている部分の解像感も高く、撮るのが楽しいレンズに思えます ソニーα6600・絞り優先AE(絞りf11・1/320秒)・WBオート・ISO160・JPEG・焦点距離175mm


著者 : 大浦タケシ おおうらたけし 宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌カメラマンやデザイン企画会社を経てフォトグラファーとして独立。以後、カメラ誌および一般紙、Web媒体を中心に多方面で活動を行う。日本写真家協会(JPS)会員。 この著者の記事一覧はこちら