GoProの新製品「HERO10 Black」の最も素晴らしいところは、こうして「存在していること」かもしれない。なにしろ、業界全体でサプライチェーンが“崩壊”して倉庫にトラックの列ができるような状況を生み出したチップ不足の真っただなかにおいて、GoProは新しいプロセッサーを積んだ新モデルをリリースしたのである。

「GoProの「HERO10 Black」は、高性能チップのおかげで大きな進化を遂げている:製品レヴュー」の写真・リンク付きの記事はこちら

それに強力なプロセッサーを搭載したことで、既存のイメージセンサーからさらなる性能を絞り出している点も素晴らしい。HERO10の動画記録性能は大幅に向上しており、4K画質なら120フレーム/秒、5.3K動画では60フレーム/秒で撮影できるようになった。

また、ユーザーインターフェースはきびきびと動くようになり、起動時間も短くなっている。メニュー画面の反応もよくなった。さらに新しいプロセッサーのおかげで、撮影した動画から高解像度の静止画を切り出せるようにもなっている。

高性能なプロセッサーの恩恵

HERO10 Blackは、外見上は旧モデルの「HERO9 Black」と区別がつかない。異なる点は新しい青いロゴくらいだ。筐体やディスプレイ、レンズ、そしてイメージセンサーは同じである。重量は、わずかに(3%)軽くなった。これはいいことである。

スペックだけを見ると、HERO10は少し残念な製品に思えるかもしれない。だが、GoProの新しいプロセッサー「GP2」のおかげで、HERO10の性能は大幅に向上した。それだけでも十分に買い換える価値はある。

この新しいプロセッサーであるGP2は、GoProのプロセッサーとしては4年以上前に発売された「HERO6」以来の刷新となる。処理能力が向上したことで、HERO10はHERO9と同じイメージセンサーでありながらより多くの処理を実行できる。

さらにHERO10では、5.3Kと4Kの動画のフレームレートが高くなったことに加えて、1,080pの動画を270フレーム/秒で撮影できるようにもなった。このためスローモーション動画も非常にきれいだ。

GoProの手ぶれ補正機能の最新版となる「Hypersmooth 4.0」も、この新しいプロセッサーで動作している。この電子式手ぶれ補正システムは、GoProを競合する製品とは別格の存在にしている重要な要素のひとつである。そして、HEROシリーズがずっと『WIRED』US版が高く評価するアクションカメラである理由の大きな位置を占めている。

動画の手ぶれを補正するために、Hypersmoothではフレームの端をわずかにトリミングする手法をとっている。このため、従来は5.3K動画の撮影には対応していなかった。これに対してHERO10では、5.3K動画の撮影にも使用できる。つまり、5.3Kで高解像度の動画を撮影してトリミング加工によって手ぶれを除去し、最終的に4K画質の動画を得られるというわけだ。

この理由だけでも、仕事で一人称視点のアクションシーンを撮影しているプロのカメラマンは、HERO10に買い換える価値がある。Hypersmoothは、いまや4Kの60フレーム/秒動画と、1,080pの120フレーム/秒の動画でも動作するようになっている。

ほかにもHypersmoothには注目すべき改良点がある。それは水平の維持だ。HERO10では、撮影したデータを補正できる水平維持の傾きが最大45度になった(HERO9では最大27度だった)。残念なことにこの機能は5.3K動画の撮影には対応していないが、4Kの60フレーム/秒動画では使うことができる。

注目すべき新機能

Hypersmooth 4.0の進化は確かに素晴らしい。だが、はるかに役立つと思ったのは新しいローカルトーンマッピングのアルゴリズムで、これが写真だけでなく動画でも利用できるようになったのだ。ローカルトーンマッピングによって細部が不明瞭な領域のコントラストが強調され、細部の印象を高められる。

その典型的な例は、髪の毛と草だ。どちらも動画では色が落ちてくすんだ感じになるが、ローカルトーンマッピングを利用してHERO10で撮影したところ、HERO9で撮影した場合と比べて動く草の動画の質感は劇的にアップした。

HERO10で大きく改良されたもうひとつのポイントは、動画のノイズ低減である。これまでのGoProでは、コントラストが高い状況や照度の低い場合、粒状性と鮮明度を落とすことで動画のうつりを改善していた。そのシステムが、新しいチップで動作する新しいアルゴリズムのおかげで進化した。

その成果が最もよくわかるのは、低照度の動画や、日暮れ、夜間の街を撮影した場合だ。ノイズ低減をHDRトーンマッピングと組み合わせることで、扱いにくい昼間のショット(木漏れ日の差す森の中を歩きながら動画を撮影するような場面)において、同じ状況でHERO9で撮影した場合に比べてはるかにきれいに見えるようになった。

最後に紹介する注目すべき新機能は、新しいレンズカヴァーだ。疎水性と呼ばれる水をはじく特性を備えている。これについては実際に水中で使ってみるまで疑っていたのだが、本当に機能する。

それどころか、GoProを水の近くで使うなら、これが最高の機能かもしれない。レンズの水滴でアクションがぼやけて、動画が台なしになってしまうことがなくなるのだ。

レンズカヴァーが疎水性になり、サーフィンや雪山でのスポーツで大活躍する。水や雪がカメラから流れ落ちるので、水滴でショットがぼやけることがなくなる。PHOTOGRAPH BY GOPRO

一瞬を切り取る素晴らしい方法

GoProはヴィデオカメラとして最もよく知られているだろうが、実はかなり優れた静止画の撮影機能も備えている。

HERO10はHERO9と同じ23.6メガピクセルのイメージセンサーを搭載しているが、HERO9の解像度は最大20メガピクセル止まりだった。今回はHERO10のプロセッサーの処理能力が向上したことで、センサーの能力をフル活用できる最大23メガピクセルまで引き上げることができた。

RAW現像ソフトで並べてみても違いが大きく目立つようなことはなかったが、これは画像を少し小さめにトリミングしても従来と同じ解像度になることを意味する。言い換えるなら、GoProで撮影した画像からポスターをプリントすると、HERO10のほうがHERO9よりもきれいということになる。しかもRAW画像だけでなく、すべての写真モード(バースト、スーパーフォト、ナイトフォト)に適用される。

さらに素晴らしいのは、5.3K動画から19.6メガピクセルの静止画をJPEGで生成できることだ。ほとんどの一般ユーザーにとって(おそらくプロのカメラマンにとっても)、これなら六つ切サイズの写真を簡単にプリントできる十分な大きさとなる。Instagramを使っているなら、そこでも間違いなくきれいに表示されるだろう。

結果的にこうした用途が、個人的にはGoProで最もよく使うようになっている。あるシーンの動画を撮影したあとで、そこから最高の静止画を切り出すのだ。この方法ではRAWファイルは得られないが、たいてい最後には欲しかった一瞬を切り取った写真が手に入る。

HERO10には、ほかにもあると助かるような改良点がいくつかある。まず、フロントディスプレイのフレームレートが高くなった。これはセルフィーをよく撮る人にとって特に役立つ。プレヴュー表示がHERO9のようにワンテンポ遅れることがないからだ。

GoProのサブスクリプションを契約している人なら、自動クラウドバックアップという素晴らしい機能もある。充電するためにHERO10を電源につなぐと、自動的にネットワークに接続してデータのアップロードを開始する。

GoProからスマートフォンへのワイヤレス転送も高速になった。画像と動画を有線接続でスマートフォンに出力できるのも、HERO10での新機能となる。

実際のところ「買い」なのか?

実際に買い換えるべきかどうかは、GoProをどう使っているかによってくる。HERO10は過去にテストした「HERO」シリーズのなかで最も高速でパワフルだが、すでにHERO9をもっているなら、それもまだ十分に高性能だ。

それ以前のモデルをもっていて買い換えを考えているなら、HERO10には間違いなくその価値がある。HERO8を使っている人がHERO10を手に入れれば、かなりの性能と機能の向上が期待できるだろう。

なお、HERO9で使えるアクセサリーはすべてHERO10でも使えるので、お気に入りのサードパーティーのメーカーから新モデル向けの製品が出るまで待つ必要はない。それに、GoProのサブスクリプション(1年50ドル、日本では6,000円)に登録すると、HERO10が100ドル引きの399ドル(同16,000円引きの54,000円)で手に入る。

◎「WIRED」な点
より高速になったプロセッサーで、ほぼすべてのことがスピードアップ。動画のフレームレートが高くなり、スローモーションがよりきれいになった。動画のトーンマッピングで細部の描写が改善し、ノイズ低減と画像の解像度も向上した。5.3K動画から静止画を切り出せる。水をはじくレンズカヴァー。編集用のアプリ「GoPro Quik」が大幅に改良された。

△「TIRED」な点
5.3K動画の編集機能は、依然として高価格帯のスマートフォンには負ける。

※『WIRED』によるガジェットのレヴュー記事はこちら。