(写真=shin28/stock.adobe.com)

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次期大統領選を半年後に控えた韓国で、最高裁による三菱重工関連会社への差し押さえ承認決定や「旭日旗」騒動など、「日韓関係の歩み寄りはやはり難しい」と痛感する出来事が立て続けに報じられている。新政権発足を機に、「戦後最悪の関係」と評されるまで冷え込んだ日韓関係が改善される見込みはあるのだろうか。

■徴用工問題で浮彫りになった「消極的な姿勢」

ことの発端は2018年にさかのぼる。「戦時中に三菱重工の軍事工場で過酷な労働を強制された」という韓国人女性らの訴えに対し、大法院は三菱重工におよそ8億5,000万ウォン(約8,031万円)の賠償金の支払いを命じた。そして3年が経過した現在、韓国企業が同社に支払う商品の代金を差し押さえ、賠償に充てることを認める決定を下したのだ。同社に対しては、すでに韓国内の資産を差し押さえる決定が出されており、今回の決定は追加の差し押さえとなる。

しかし、韓国企業による支払先が正確には三菱重工ではなく関連会社であることが発覚したため、実際には商品代金の差し押さえは無効になる可能性が高い。

これに対し日本政府は、徴用工問題が1965年の日韓請求権協定に基づいてすでに解決済みであることを理由に、韓国側の判決が国際法に違反する行為であると指摘した。今回の差し押さえを認める決定について「現金化されれば日韓関係に深刻な影響を与える」とし、韓国側に明確な解決策を示すよう求めている。

■文在寅政権、任期最後の演説でも煮え切らず

この騒動で浮彫になったのは、文在寅政権の煮え切らない態度である。文大統領自身は新年の記者会見で、日本企業に韓国内の資産を売却させ賠償に充てることに対して「両国の関係に望ましくない」との意思を示した。さらに、元慰安婦訴訟問題についても初めて言及するなど、緩和路線に切り替えているものの、事態は一向に進展していない。

8月15日に実施された任期最後の演説も、「是正を必要とする歴史的な問題については、普遍的な価値観と国際社会の基準に一致する行動と実践を通じ解決する」と抽象的な記述に留まった。任期完了が目前に迫っていることから、「日韓関係の改善を諦めたのではないか」との見方も強まっている。

内部では、積極的な解決策の策定を促すハト派と「日本に対する妥協」を拒絶するタカ派の間で、意見が分断されているという。

■相次ぐ日本ボイコット 車やビールは売上増加

文在寅政権の対日関係改善に対する消極的な姿勢は、国民間の反日ムードにも反映している。インターネットやSNS、メディアを介して反日言動が拡散し、国民の感情を左右しているという。

最近では、東京五輪の新種目「スポーツクライミング」のボルダリング決勝戦で使用された第三課題が「旭日旗」を連想させるとして、韓国民間で議論を巻き起こした。「iPhone12」の動画広告に対しても、同様の「旭日旗」抗議が起きるなど、火種はあちらこちらに分散しているようだ。

2019年、日本の輸出厳格化措置に反発する形で広がった反日不買運動も、依然として終焉を迎える気配はないが、日本車やビールなど嗜好品の売上は回復基調にあるという。

■「韓国のトランプ」?ポスト文在寅も反日

現政権下で進展が期待できない今、2022年3月に予定されている次期政権の行方が注目されているが、文在寅政権時代から引き続き、選挙活動に反日感情が利用されている感が強い。

9月上旬に中部・大田(テジョン)で実施された党員投票で27.4%の支持率を獲得し、第2の有力候補となった李洛淵(イ・ナギョン)前首相は、韓国メディアの元東京特派員という経歴をもつ日本語堪能な知日派として知られていた。

しかし、最近になって有力候補の一人である丁世均(チョン・セギュン)前首相がSNSで東京五輪ボイコットについて言及すると、自らも同様のボイコット発言を行うなど、反日路線に転身した。有権者の反日感情をあおり、支持率低下の巻き返しを狙っているようだ。

ちなみに同氏が、2位の座に躍り出たのは、つい最近まで李京畿道知事を追い上げていた最大野党「国民の力」所属の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長が、政治工作主導疑惑などで、失脚したためだ。

とはいうものの、対日強硬派として知られている次期大統領選の最有力候補、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事の発言からは、日韓関係に積極的に取り組む意思が垣間見られる。

7月に日本メディアの取材に応じた李京畿道知事は、「日本を憎んだり日本国民に反感を持ったりしてはいない」「政権対政権ではなく、国民対国民、国家対国家の関係で近づき、提携的関係を築きたい」と述べるなど、政治と国民、国家を別物として捉え、建設的かつ実利的な外交関係を望んでいることを明らかにした。同氏は党員投票で過半数の票を獲得し、2位以下を大きく引き離している。

■「行動と実践」「建設的かつ実利的な外交関係」がカギ?

長年にわたり対立してきた日韓関係を、一夜にして改善する魔法の薬はない。文在寅政権が唱える「行動と実践」が次期政権で実現し、かつ李京畿道知事が理想とする「建設的かつ実利的な外交関係」が確立されれば、両国がお互いに歩み寄るための解決の糸口が見えてくるのかもしれない。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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