車いすラグビー銅メダル!パラ日本代表・トレーナーが見た舞台裏
東京パラリンピックで銅メダルを獲得した車いすラグビーの日本代表。テレビの前で手に汗握りながら観戦していたという方も多いのでは? 選手たちがどのように試合に臨んで闘ったのかなどの裏話も知りたいですよね。
アスレチックトレーナーの伊佐和敏さん
そこで、今回は車いすが破壊されるほど激しいこのスポーツで、2017年から代表選手を支え続けているアスレチックトレーナーの伊佐和敏さんに競技の魅力、パラリンピックの裏話などお伺いしました。
パラスポーツで唯一接触がゆるされているこの競技。「マーダーボール(殺人球技)」とも称されるコンタクトスポーツでありながら、男女混合、様々な障害の選手がプレーできる競技の魅力と、それを支える、支え手としてのやりがいについて教えてもらいました。
「一言で言えばアスレチックトレーナーの仕事はスポーツ選手が万全の状態で試合や練習に臨めるよう、あらゆるサポートをします。具体的にはケア・コンディショニング、テーピング、ウォームアップやクールダウン、捻挫や突き指などの怪我の処置などです。また、パラスポーツでは選手の生活を介助したりすることもあります」
リオパラリンピックでは選手村のポリクリニック(統合クリニック)勤務をした伊佐さん
「代表に帯同するときは、練習・試合だけでなくとても長い時間を選手と共有することになります。アスレチックトレーナーとして、身体のケアをすることはもちろん、声掛けや気分転換など、メンタル面でも選手の状態を上げられる存在になりたいと思ってますし、それが肉体面でのパフォーマンス改善にもつながります」
「車いすラグビーの特徴であるぶつかり合いの激しさは、競技の魅力の一方で怪我の危険性もはらんでいます。衝撃で言えば、時に交通事故にも劣らないほどですし、衝撃の方向もあらゆる方向なので、専門家としてダメージが加わりやすい選手の首や腰などには、とくに細心の注意を払っています」
選手たちを支えている伊佐さんの手は大きく厚くて安心感がある
「パラ競技の中でも車いすラグビーは男女混合、様々な障害の度合いの選手がいるスポーツです。その多様性が競技としての面白さを深めているのですが、トレーナーとしては、必要とされるケアも様々です。たとえば、私たちはよく患部に触ってみて痛いか聞くのですが、パラ競技では元から感覚が無いがゆえに、怪我をしているのに痛くない部分がでてくる選手もいます。先入観を持たず、その選手ごとに必要なケアを実践していくことが難しさでもあり、やりがいでもあります」
今大会でも銅メダル獲得と、大活躍だった日本代表。日本代表チームの前向きな攻めの姿勢は、大きな感動をもらいました。
「頂点に届かなかった悔しさもありますが、最後まで気持ちを切らさずメダルを取り切った選手たちは本当に素晴らしいですし、僕もスタッフの一員として誇らしく思っています」
しかし、銅メダルを獲得するまでには地元開催などのプレッシャーや大変さもあったと言います。
「東京での地元開催ということで、メンタル面がとても大変でした。僕もスタッフとして2017年から代表に関わっていますが、世界大会での1日2試合など、正直、肉体的にはもっと厳しい大会もありました。ただ、今大会は地元開催ということはもちろん、2018年の世界選手権に優勝していたこともあり、“優勝しかない”と過度に自分を追い込んでしまう選手もいたんです」
2018年世界選手権優勝(※写真提供:(C)JWRF/ABEKEN)
「選手には“応援してくれている人が感動するのはメダルの色ではなく、本気で頑張っている姿”だと、僕自身の素直な気持ちを伝えました。プレッシャーの多くは、過度な期待を自分のなかでつくってしまうことから生まれると思っています。実力は備わっている選手たちなので、自分のプレーに集中してもらえれば、結果はおのずとついてくると思っていました」
そして、準決勝。強敵・英国に惜しくも49対55で敗れてから、銅メダルを取るまでの切り替えというのは大変だったそう。
「本気で頂点を目指していただけに、準決勝で負けたあとのバスはシーンと無言。心配したところもありました。ただ、競技終了しバスを降りたあとは割と自由行動だったそれまでとは違い、バスを降りてすぐ池透暢主将が選手だけでのミーティングを呼びかけたんです。これで、雰囲気が前向きにガラっと変わりました。次の1試合に向けて全力を尽くす。絶対にメダルを取るんだ! というモチベーションが生まれたので、スタッフとしては、最後は背中を押すだけという感じでした」
「パラリンピックが終わって間もないですが、3年後のパリ2024パラリンピックで車いすラグビーの金メダルを取りたいです。世界一に向けて足りなかった部分をチーム全体で整理して、一丸となって目標に向かって進んでいきたいですし、まだまだ伸びしろがあると思っています。自身が幼少期から水泳選手としてトップを目指していて、トレーナーになってからはチームとしてトップを目指したいと思ってやってきたので、その目標は変わることなく持っています」
「また、個人の目標としてはさらに多くのスポーツや、国のアスリートにも関わっていきたいですね。たとえば、ワールドゲームズというオリンピックに含まれていない競技の世界大会に関わった経験があるのですが、2024年のパリオリンピックではそのなかのダンスが競技として採用されます。僕自身、様々な競技や国の選手に関わってきた経験があるので、力を生かせる場があれば、日本という枠にこだわらず挑戦を続けていきたいです!」
<撮影/鈴木大喜 取材・文/ESSEonline編集部>
1978年生まれ。車いすラグビー日本代表チームトレーナー、イサ・スポーツ・カイロプラクティック代表。12年取り組んだ水泳の経験を経て、トレーナーを志す。米大学でアスレチックトレーナーやカイロプラクティックの資格を取得。国内外問わず活動の幅を広げている。車いすラグビー日本代表には2017年より加わり、2018年の世界選手権優勝、2021年東京パラリンピックの銅メダル獲得などをスタッフとして支えた。
アスレチックトレーナーの伊佐和敏さん
そこで、今回は車いすが破壊されるほど激しいこのスポーツで、2017年から代表選手を支え続けているアスレチックトレーナーの伊佐和敏さんに競技の魅力、パラリンピックの裏話などお伺いしました。
男女混合!車いすラグビーの大変さ
パラスポーツで唯一接触がゆるされているこの競技。「マーダーボール(殺人球技)」とも称されるコンタクトスポーツでありながら、男女混合、様々な障害の選手がプレーできる競技の魅力と、それを支える、支え手としてのやりがいについて教えてもらいました。
●アスレチックトレーナーとは?
「一言で言えばアスレチックトレーナーの仕事はスポーツ選手が万全の状態で試合や練習に臨めるよう、あらゆるサポートをします。具体的にはケア・コンディショニング、テーピング、ウォームアップやクールダウン、捻挫や突き指などの怪我の処置などです。また、パラスポーツでは選手の生活を介助したりすることもあります」
リオパラリンピックでは選手村のポリクリニック(統合クリニック)勤務をした伊佐さん
「代表に帯同するときは、練習・試合だけでなくとても長い時間を選手と共有することになります。アスレチックトレーナーとして、身体のケアをすることはもちろん、声掛けや気分転換など、メンタル面でも選手の状態を上げられる存在になりたいと思ってますし、それが肉体面でのパフォーマンス改善にもつながります」
●支え手から見た、車いすラグビーの魅力
「車いすラグビーの特徴であるぶつかり合いの激しさは、競技の魅力の一方で怪我の危険性もはらんでいます。衝撃で言えば、時に交通事故にも劣らないほどですし、衝撃の方向もあらゆる方向なので、専門家としてダメージが加わりやすい選手の首や腰などには、とくに細心の注意を払っています」
選手たちを支えている伊佐さんの手は大きく厚くて安心感がある
「パラ競技の中でも車いすラグビーは男女混合、様々な障害の度合いの選手がいるスポーツです。その多様性が競技としての面白さを深めているのですが、トレーナーとしては、必要とされるケアも様々です。たとえば、私たちはよく患部に触ってみて痛いか聞くのですが、パラ競技では元から感覚が無いがゆえに、怪我をしているのに痛くない部分がでてくる選手もいます。先入観を持たず、その選手ごとに必要なケアを実践していくことが難しさでもあり、やりがいでもあります」
●地元開催などのプレッシャーで過度に自分を追い込んでしまう選手も…。
今大会でも銅メダル獲得と、大活躍だった日本代表。日本代表チームの前向きな攻めの姿勢は、大きな感動をもらいました。
「頂点に届かなかった悔しさもありますが、最後まで気持ちを切らさずメダルを取り切った選手たちは本当に素晴らしいですし、僕もスタッフの一員として誇らしく思っています」
しかし、銅メダルを獲得するまでには地元開催などのプレッシャーや大変さもあったと言います。
「東京での地元開催ということで、メンタル面がとても大変でした。僕もスタッフとして2017年から代表に関わっていますが、世界大会での1日2試合など、正直、肉体的にはもっと厳しい大会もありました。ただ、今大会は地元開催ということはもちろん、2018年の世界選手権に優勝していたこともあり、“優勝しかない”と過度に自分を追い込んでしまう選手もいたんです」
2018年世界選手権優勝(※写真提供:(C)JWRF/ABEKEN)
「選手には“応援してくれている人が感動するのはメダルの色ではなく、本気で頑張っている姿”だと、僕自身の素直な気持ちを伝えました。プレッシャーの多くは、過度な期待を自分のなかでつくってしまうことから生まれると思っています。実力は備わっている選手たちなので、自分のプレーに集中してもらえれば、結果はおのずとついてくると思っていました」
●準決勝での敗北から一転。全員でつかんだ銅メダル
そして、準決勝。強敵・英国に惜しくも49対55で敗れてから、銅メダルを取るまでの切り替えというのは大変だったそう。
「本気で頂点を目指していただけに、準決勝で負けたあとのバスはシーンと無言。心配したところもありました。ただ、競技終了しバスを降りたあとは割と自由行動だったそれまでとは違い、バスを降りてすぐ池透暢主将が選手だけでのミーティングを呼びかけたんです。これで、雰囲気が前向きにガラっと変わりました。次の1試合に向けて全力を尽くす。絶対にメダルを取るんだ! というモチベーションが生まれたので、スタッフとしては、最後は背中を押すだけという感じでした」
●チームでも個人でも狙うは世界
「パラリンピックが終わって間もないですが、3年後のパリ2024パラリンピックで車いすラグビーの金メダルを取りたいです。世界一に向けて足りなかった部分をチーム全体で整理して、一丸となって目標に向かって進んでいきたいですし、まだまだ伸びしろがあると思っています。自身が幼少期から水泳選手としてトップを目指していて、トレーナーになってからはチームとしてトップを目指したいと思ってやってきたので、その目標は変わることなく持っています」
「また、個人の目標としてはさらに多くのスポーツや、国のアスリートにも関わっていきたいですね。たとえば、ワールドゲームズというオリンピックに含まれていない競技の世界大会に関わった経験があるのですが、2024年のパリオリンピックではそのなかのダンスが競技として採用されます。僕自身、様々な競技や国の選手に関わってきた経験があるので、力を生かせる場があれば、日本という枠にこだわらず挑戦を続けていきたいです!」
<撮影/鈴木大喜 取材・文/ESSEonline編集部>
●【伊佐 和敏(いさ かずとし)さん】
1978年生まれ。車いすラグビー日本代表チームトレーナー、イサ・スポーツ・カイロプラクティック代表。12年取り組んだ水泳の経験を経て、トレーナーを志す。米大学でアスレチックトレーナーやカイロプラクティックの資格を取得。国内外問わず活動の幅を広げている。車いすラグビー日本代表には2017年より加わり、2018年の世界選手権優勝、2021年東京パラリンピックの銅メダル獲得などをスタッフとして支えた。