180度旋回するターンなど、意外性のあるコースが魅力の「FUJIYAMA」

「発射1.56秒で時速180km!天井知らずのスピードキング!」
 そんなキャッチで人気の、「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)の絶叫マシン「ド・ドドンパ」。8月20日、過去の利用客4人の首や胸の骨が折れる事故があったと山梨県が発表した。

 その後も利用者から、骨折などのケガの申し出が相次ぐ事態になっている。

「ド・ドドンパは圧縮した空気を一気に放出させる『エアランチ方式』を用いて、発車後、一瞬で最高時速に達します。この方式は世界で2機しか採用しておらず、加速度はド・ドドンパが世界一です」

 そう語るのは、国内外で350を超える機種に乗り、ド・ドドンパにも20回以上乗ったジェットコースターマニアのらぐす氏(ハンドルネーム)だ。

「『ヘッドレスト部分に頭をつけるように』という係員の指示に従ってさえいれば、非常に楽しいコースターなんですが、仮に前屈みの状態で加速が始まれば、すさまじい勢いで頭をシートに打ちつけられるはずです」(同前)

 競争の激しい絶叫マシン業界で、多くの遊園地がアピールしているのが「速度」と「Gの大きさ」だ。

「G」とは重力加速度のことで、5Gでは体重60kgの人ならば体重の5倍、じつに300kgの力が体にかかる。ちなみにスペースシャトルの打ち上げでかかる力は3Gだ。

 国内の人気マシンを、Gの大きさで並べると、ド・ドドンパの最高速度は日本一だが、Gは3.75と、国内でも上位ではない。

「今回の事故で報告されているのは骨折などですが、脊髄や脳、神経にも影響を及ぼしているのではないかと危惧しています」

 そう警鐘を鳴らすのは、亀田総合病院脳神経内科部長の福武敏夫氏だ。

「急にスピードが加わったり、ひねるようにカーブしたりしたときに、利用者の脳や頸部に大きな負担がかかる可能性があります。スピードが速い、Gが大きいから “即、危ない” ということではないですが、業界がスピードやスリルをいたずらに追求することには疑問を感じます」

 ある遊園地関係者が語る。

「我々も、宣伝ではアトラクションの過激さを強調していますが、実際は世界観や乗り方などを “演出” し、いかに速く感じさせるかが腕の見せどころなんです。物理的な過激さを追求しすぎると、今回のように安全性が犠牲になるケースも出てきますよね」

 本誌は、マシンを設置している20の遊園地に、今回と同様の事故が起きたことはないのか、質問状を送った。

 回答なしやノーコメントがほとんどだったが、「利用客の骨折や、脳や脊髄などに障害を与える事故はありません」(よみうりランド)、「そのような事例はありません」(浜名湖パルパル)、「記録を5年程度遡ってみましたが、見受けられませんでした」(東京ドームシティアトラクションズ)と、調査のうえ “事故ゼロ” としっかり回答した園も3つあった。

 これまで富士急ハイランドは、速度などが “世界一” の絶叫マシンを揃えていることが売りだった。今回の事故を受け、今後の運営方針について同社に聞くと、「現在は事故の原因を調査中です。8月中に、経過を公表する予定です」との回答があった。

 遊園地の花形である絶叫マシン。再び心おきなく楽しめる日が来ることを願うばかりだ。