植物性の代替肉は、本物の肉の味や食感を分子レベルで再現しており、タンパク質や脂質などの栄養成分表示の数値も本物の肉とほとんど同じになっています。しかし、一般的なものより高度な栄養分析方法を用いて肉と代替肉を解析した研究により、両者にはそれぞれが持つ栄養的な強みがあることが分かりました。

A metabolomics comparison of plant-based meat and grass-fed meat indicates large nutritional differences despite comparable Nutrition Facts panels | Scientific Reports

https://www.nature.com/articles/s41598-021-93100-3

Lab analysis finds near-meat and meat are not nutritionally equivalent

https://medicalxpress.com/news/2021-07-lab-analysis-near-meat-meat-nutritionally.html

食糧問題や環境への意識の高まりから、Impossible BurgerやBeyond Burgerといった代替肉が大きな注目を集めており、人々の食卓に並ぶ機会も増えています。

各代替肉のメーカーは、植物由来の原料を可能な限り肉の食味に近づけるため、大豆に含まれるレグヘモグロビンやベリーの色素を使って赤身のような色合いを出したり、メチルセルロースなどの食物繊維を使って肉の線維の食感を出したりと、さまざまな工夫を凝らしています。また、大豆やエンドウ豆などの植物性タンパク質を添加したり、ビタミン類やミネラルを強化したりして、栄養面で本物の肉と遜色ないようにしているものも多いとのこと。



こうして作られた代替肉の栄養が、本当に実物の肉と同じなのかを調べるため、デューク大学の生理学者であるStephan van Vliet氏らの研究チームは、人気のある植物性の代替肉18種類とアメリカの牧場で牧草を食べて育った牛肉のサンプル18個を詳細に分析する研究を行いました。

van Vliet氏ら用いたのは、生物の細胞の活動によって生成される代謝物質を網羅的に調べる「メタボロミクス」という分析手法です。人間の血液中に含まれる代謝物質の約半分は食べ物に由来すると考えられており、それらはエネルギーの変換や細胞間のコミュニケーションなど、人が生きるのに重要な役割を担っています。

研究チームが、メタボミクスを使って合計36種類のサンプルを調べた結果、牛肉と代替肉とでは分析対象となった190の代謝物質のうち171種類で大きな違いがあることが分かりました。具体的には、牛肉に含まれる22の代謝物質が代替肉に含まれていなかった一方で、代替肉には牛肉にはない31の代謝物質が含まれていたとのこと。また、両方に含まれているものの、牛肉の方が圧倒的に豊富な栄養は51種類、逆に代替肉の方が豊富な栄養は67種類でした。

本物の牛肉にしか含まれていない栄養素のうち代表的なものは、抗酸化物質のアラントイン・アンセリン・システアミンや、不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)などです。



反対に、抗酸化物質である3-ヒドロキシアントラニル酸やいわゆるビタミンCと呼ばれるアスコルビン酸、抗がん作用があるとの研究結果が報告されているβ-シトステロールやカンペステロールなどは、代替肉にのみ含まれていました。

van Vliet氏は、「消費者にとって重要なのは、動物性にせよ植物性にせよ、それらの食品を『置き換えることができるもの』だと見なすべきではないという点です。つまり、どちらかがどちらかより優れているというものではありません。植物性食品と動物性食品は、それぞれ異なる栄養素を提供するため、お互いを補完する関係にあります」と述べて、バランスのよい食事の重要性を強調しました。