最初は冷却を考えてフォークの前に装着

1969年、ホンダが発表・発売したCB750フォアは量産車で世界初の4気筒、そして装備されていたディスクブレーキも量産車では世界初だった。
しかしディスクローターを締めつけるブレーキキャリパーはいまと違ってフロントフォークの前に装着されていたのだ。

1969年のホンダCB750フォアのデビューは、世界GPマシンでしか見られなかった高度なメカニズムの4気筒エンジンを搭載して、衝撃と共に世界のファンから注目を浴びていた。
しかも200km/hという量産車ではあり得なかった高速からの減速のために、レースでも一部で試験的に採用されはじめたばかりのディスクブレーキを、これも量産車で世界初の装備というセンセーショナルの塊のようなバイクだったのだ。

ディスクブレーキが採用された最大の理由は、それまでのドラムブレーキでは200km/hだとオーバーヒートしてドラム内部のブレーキシューが炭化で効かなくなるリスクを回避するため。というほど、ブレーキといえば放熱が一番の課題で、この世界初のディスクブレーキ装備も、ディスクローターを油圧で挟んで締めつけるブレーキキャリパーが、ブレーキパッドと共に走行風で冷却されるよう、フロントフォークの進行方向で前側に装着されていた。
しかし10年後、レーシングマシンを筆頭に、このブレーキキャリパーはフロントフォークの後ろ側へマウントされることに。それには3つの大きな理由があったのだ。

Honda CB750Four

量産車で世界初の4気筒エンジンを搭載したホンダCB750フォア(1969年)。ディスクブレーキも量産車では初採用。ブレーキキャリパーはフロントフォークの前側に装着していた

Honda CB750F

10年後の1979年、同じホンダのCB750Fではブレーキキャリパーはフロントフォークの後ろ側へ装着されていた

Honda RCB1000(1977年)

レースの世界でも当初はフォークの前側にキャリパーをマウント

Honda NS500(1982年)

世界GPマシンの’80年代~はすべてフォークの後ろ側へマウント

実はディスクブレーキには最初の発熱が大事

ドラムブレーキの時代には、高速域からの制動でオーバーヒートさせないよう、とにかく冷却することを優先。エアスクープといって走行風を導入する大きなエアダクトが装着されたりしていた。
しかし、ディスクブレーキは露出していることもあって冷却には気を遣わなくて良いことがわかってきたのと、実は逆にかけはじめた直後に、摩擦熱で高温になったほうがブレーキのレスポンスも良いなど、新しいノウハウが積み上げられはじめた。雨の日に効きにくいのも、濡れて効かないのではなく温度が上がらないからというのもわかってきた。
ということで、ブレーキキャリパーは冷却を考えるより冷やさないほうが良いため、1976年あたりからフロントフォークの後ろ側へ装着するケースが増えはじめたのだ。

それともうひとつ重要なこと。それはハンドリングへの影響だった。ブレーキのレスポンスと制動効率を狙い、ディスクローターは大径に、そしてブレーキ・キャリパーもパッドを前後に長い摩擦する面積を稼ぐ形状へと進化。そこで問題になったのが、コーナーへ旋回しながら進入する際の運動性だ。
ブレーキキャリパーは、油圧でブレーキパッドをディスクローターへ押しつけるため、強力にかけた際に反力で開いてしまうとそれ以上効かなくなる。これを防ぐにはかなりの剛性が必要で、その結果かなり重量が嵩むことになる。これがフロントフォークの前で大きくなっていけば、ステアリング軸より前側で扇型に動く大きな慣性力となって軽快性を損なう問題が生じるワケだ。

ブレーキキャリパーをフォーク後ろ側へマウントすると、ステアリング軸に近い位置にあるので慣性力の影響をうけにくい

ブレーキレバーを引いても何の手応えもない恐怖!

そしてレースの世界では決定的なコトが起きていた。パワフルなマシンで路面の荒れたコーナーを立ち上がる際、前輪が路面に叩かれて左右へハンドルが取られるシーンの後、次のコーナー手前のブレーキングでライダーがブレーキ・レバーを引いたとき、何の手応えもなくグリップラバーが当たってしまう、つまりノーブレーキ状態でライダーがパニックに陥る事態が頻発したのだ。

これは前輪が左右へ激しく振られた際、ブレーキキャリパー内のパッドを押すピストンが、この振られたアクションで左右へ拡げられてしまうからだ。

もともとパッドとディスクローターとは、ブレーキをかけていないときにわずかな隙間があるだけ。そのため入力した瞬間に、遅れることなくすぐ効きはじめるのだが、この隙間が大きいとレバー操作の1ストロークでは、パッドがディスクローターに当たるまでピストンを押せないことになる。

構造がわかっていれば、何度かレバーを急いで握るポンピングをして通常のブレーキングが可能だが、経験がないとブレーキが故障したと勘違いして故意に転倒するなど、当初はアクシデントに繋がっていた。

これもブレーキキャリパーをフロントフォークの後ろ側に装着することで、左右への振れが小さくなり、パッドが開いてしまう事態を避ける効果が期待できることから、キャリパーは後ろへマウントへほぼ全メーカーが追随した理由でもある。

ちなみに超高速から低速域まで一気にハードブレーキングしたとき、高熱でディスクローターの外周近くと内周との距離差が温度差に直結し、外周ほど熱膨張して中心から外側へ反り返るため、追随したパッドがブレーキを解放した後に冷えてディスクローターが中心位置へ戻る際に内側のパッドを押し戻してしまい、次にブレーキングしようとしたとき、前輪が叩かれたときと同じく隙間が大き過ぎて一回のレバー操作ではノーブレーキ状態に陥りかねない。

これを未然に防ぐため、ディスクローターを内側のハブと分離して、円状のピンを圧入してマウントするフローティングタイプが登場して、ビッグバイクでは大半が採用している。
これはディスクローターが熱で反っても、圧入した円状のピンで内周側で左右へズレて、パッドの位置がセンターから変化しない効果がある。

フローティングローター

ディスクローターとホイール側インナーハブとが、円状のピン圧入でマウントされたフローティングローター。高熱で外周側が反り返っても、インナーハブ側で左右へズレて、ブレーキパッドを中心軸に保つので、冷めてもパッドとローターの隙間が変わらず、ノーブレーキのリスクからライダーを守る

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