写真・AP/アフロ

 日本時間7月5日、エンゼルス大谷翔平が、今季31号となる本塁打を放った。これで松井秀喜氏が持っていた日本人メジャー最多本塁打記録に並んだが、松井氏の記録はシーズン終了時点のもの。対する大谷は162試合中83試合めでの達成だけに、夢の50本塁打への期待は高まるばかりだ。

 しかし「本塁打量産は当然のこと。それは大谷が残している数字に表われています」と語るのは、日米球界のデータに詳しいスポーツライターの広尾晃氏である。

「メジャーではこの数年、ゴロ打ちを避け、打球に角度をつけて打ち上げることを推奨する打撃理論が主流となり、それが本塁打の量産を生んだといわれています。これが『フライボール革命』なんですが、むやみに振り回すのではなく、バットの真芯でボールをとらえて理想の角度(バレルゾーン)でボールを遠くに飛ばすことです。

 また、MLBの公式サイトの記録欄は『STATCAST』というサイトにリンクしていますが、そこに『Brls/BEE』という項目があります。これはバットにボールが当たってインプレーになった打球(BEE)のうち、何%が本塁打になるための理想の角度(Brls=バレルゾーン)だったかという比率です。

 この項目で大谷は25.9%と両リーグ通じてトップの数字を残しています。2位がナ・リーグのタティースJr(パドレス)の22.0%。また、ア・リーグで大谷と本塁打王を争うゲレーロJr(ブルージェイズ)は、16.8%と大きく差をつけられています」

 今季の大谷の打撃フォームは、打ち上げているようなアッパースイングに見えるが、これはフライボール革命に適合させた打ち方だったのだ。「すごい数字はこれだけではありません」と広尾氏は続ける。

「『Exit Velocity』という項目がありますが、これはバットにボールが当たった瞬間の打球速度ですが、これも191.5kmとアーロン・ジャッジ(ヤンキース)と並んで全体の1位なんです。ということは、大谷はフライボール革命の核心とも言えるバレルゾーンで打球をとらええる技術がメジャーで最も優れていて、しかも、バットスピードもメジャートップなのです。本塁打を打つ技術でもパワーでも、大谷はメジャーでも飛び抜けた存在ということ。だからこそ本塁打争いでトップを走ることは、当たり前のことなんです」

 では、米国の専門家は現在の大谷をどう見ているのか。ドジャース、メッツでブルペンコーチ、2007年から2008年までオリックスの打撃コーチを務めたジョン・ディーバス氏が語る。

「多くの人がそうだったように、彼が二刀流でメジャーにやってきたとき、私も懐疑的だった。だが実際に見て、とんでもない間違いだったことに気づいた。メジャーには何年かに一度、とんでもない選手が出てくる。イチローもそうだし、トラウトもそう。大谷のプレーを見て、そういった選手の一人だとわかったよ」

 ディーバス氏がとくに注目するのがスイングだ。

「彼のスイングにはまったく無駄がない。そして目と手の連携がとても優れているのだと思う。そういった選手が特別になるし、たくさん振って作り上げたスイングだとわかるね。ここまで活躍すると、当然警戒は強まるだろう。大谷の弱点について、日本のチームはメジャーが持っていない情報を持っているのではないかと思う。メジャーの球団の中には、日本からそんな情報を入手したいと本気で思っているチームもあるのではないかと思うね(笑)」

 話は今季のMVPにも及んだ。

「メジャーでは、投手がMVPに選ばれるべきではないといわれる。その理由を野手たちは、投手は5日に一度しか試合に出ないからだという。逆に投手たちは、チーム内での投手の重要性は大きいと主張する。大谷が投手として好投を続け、DHとして活躍を続けたら、MVPに選ばれないのはおかしい。打者としての活躍だけでもMVPだと言えるのに、5日に一度投手としての活躍が加わるのだ。それより価値のある選手はいるのだろうか。大谷の価値をもっと高めようと思ったら、あとは何をすればいい? バスの運転手くらいじゃないか?(笑)。それくらいすごいことを大谷はやっているよ」

 奇しくも31号を放った7月5日は、27歳の誕生日の前日。夢のホームラン王、ア・リーグMVPも現実味を帯びてきた。