熱気に包まれる会場。沸き起こる大歓声。白熱する実況。ひとたびレースがスタートすれば、観客はまるで魔法をかけられたように、コースから目が離せなくなる。そして、ターフで生まれるドラマに心を躍らせた。

そう、我々は魅了されているのだ。『ウマ娘 プリティーダービー』に――。

ゲームが話題の『ウマ娘 プリティーダービー』


ゲームの開発期間を陰で支えた「ぱかチューブっ!」

『ウマ娘 プリティーダービー(以下、ウマ娘)』は、Cygamesが手がけるクロスメディアコンテンツ。ウマの耳と尻尾、そして超人的な身体能力を持つ「ウマ娘」たちは、「トゥインクル・シリーズ」と呼ばれるレースでの勝利を目指す。2021年2月24日にリリースされたゲームは、4月8日に早くも500万ダウンロードを突破した。

2021年1月からはTVアニメ2期『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』を放送。「週刊ヤングジャンプ」では、ウマ娘のオグリキャップにフォーカスしたコミカライズ作品『ウマ娘 シンデレラグレイ』を連載中だ。

まさに、いま最も勢いに乗っていると言っても過言ではない『ウマ娘』のクロスメディア。そのなかでも、長期にわたりファンを魅了し続けているメディアがあった。『ウマ娘』の公式YouTubeチャンネル「ぱかチューブっ!」だ。

ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』は、2018年3月25日に事前登録が開始された。リリース日が2021年2月24日であることを考えると、事前登録からリリースまでの期間はおよそ3年。決して短い時間ではないだろう。

その3年間、ゲームのリリースを待ちわびるファンを楽しませてきたのが「ぱかチューブっ!」である。ゲーム『ウマ娘』の事前登録開始と同じ3月25日にスタートした「ぱかチューブっ!」では、ウマ娘のゴールドシップが、さまざまなゲームの実況をしたり、日本ダービーの解説をしたりと、いくつもの企画動画にチャレンジする。

今回、Cygamesの協力のもと、「ぱかチューブっ!」で奮闘してきたゴールドシップとのコンタクトに成功したので、本人に直接「ぱかチューブっ!」の話を聞いてみた。



2018年3月25日に公開された第1回の「ぱかチューブっ!」動画

宣伝担当(自称)ウマ娘として、YouTubeで魅力を発信

「ピスピース! ゴールドシップちゃんだゾ☆ ゴルシでもシップでも世界のドロップキックマスターでも、好きなように呼びやがれ! 今日は『ウマ娘』宣伝担当(自称)として、インタビューにゴルッと答えちゃうぜ〜!」

ゴールドシップは、美しい銀髪と抜群のプロポーション、そして神々しいまでの美貌を持つウマ娘。しかし、その見た目に反し、毒舌で乱暴、よくわからないテンションで相手を煙に巻く飄々とした性格の持ち主だ。なお、ゲーム『ウマ娘』でゴールドシップは、レースに勝利するとうれしそうにドロップキックをかましてくる。

インタビューに応じてくれたゴールドシップ。『ウマ娘』の宣伝担当(自称)として率先して作品をPRする










ゲームで1着を取ると、手を振りながらうれしそうに近づいてきて、そこからドロップキック!


『ウマ娘』の宣伝担当(自称)として「ぱかチューブっ!」での活動を行ってきたゴールドシップだが、そもそもなぜYouTubeで動画を公開しようと考えたのだろう。まずは「ぱかチューブっ!」開始のきっかけを聞いてみた。

「忘れもしねぇ、アレはアタシに自我が芽生える前……とかではねーけど、なんかYouTuberってのが流行ってるって聞いてよー。どいつもこいつもおもしろそーなことやってんじゃん? で、おもしれぇことはやったほうが当然おもしれぇじゃん? 何かを始める理由なんざ、それで十分ってワケさ……。フッ」

好奇心旺盛なゴールドシップは、YouTuberの活動に興味を示し、自分もやってみたと話す。

なお、ゴールドシップは型破りな発言をするタイプなので、保険のために、自称ではないCygamesの宣伝担当にも聞いたところ、「ぱかチューブっ!」は、TVアニメ第1期が始まる直前に行われた施策の1つだと話していた。

ゴルシの! いきなり過去動画編!

「ぱかチューブっ!」でゴールドシップが挑戦した動画を見ると、「ゴルシのお悩み相談室」や「ゴルシ先生の競馬教室」「食リポゴルシちゃん」など、企画が本当に幅広い。これら「ぱかチューブっ!」のネタはすべてゴールドシップが考案したものなのだろうか。

「場合によるなー。いやホラ、アタシってば気紛れ乙女系ウマ娘だろ? 動画にしてぇ企画がボコボコ湧いてくるときもありゃ、ただただ風呂に浮かんでボコボコしていてぇときもある系だろ? ま、そーいうときはスタッフがいろいろ考えてくれてるってワケだ。当然つまんねー企画だったらアタシも現場でボッコボコに言うけどな! ちなみにテーマソングの『ぱかチューブっ!ですが、何か?』はアタシ発案だ! おまけに作詞は、アタシと一心同体っつーか、むしろ同体っつーか、まあそんな深〜い仲のヤツが担当してくれたんだぜ。耳でタコもイカも乱獲できるくらい聴けよな!」

ちゃっかりと曲の宣伝は欠かさない。そのあたりはさすが宣伝担当といったところだろう。

チャンネルにアーカイブされている動画は、かなりバラエティ豊か




2ndイベント限定でCDが販売されたテーマ曲『ぱかチューブっ!ですが、何か?』をいつでも聴けるのは「ぱかチューブっ!」だけ!?

そうして「ぱかチューブっ!」では、斬新なアイデアの企画動画がボコボコと公開されていった。その数は約200。もちろん、動画の数が多ければ、その分苦労も少なくない。

「いろいろあったな〜……。気づいたらけっこー叫んでっから翌日喉がイってて、そのままマックちゃんに声かけたらビビられたり? ラーメン泳いだ翌日はラーメン臭ヤバくて、スぺとオグリから『狩る者』の目で見られたり? スタッフ連中からあれもこれも装備して収録してくれって言われて、なんか最終的に浮き輪つけてたりもしたな〜。そういう涙ぐましい努力と苦労の果てに仕上がっている動画だからよぉ、チケゾー並みに感涙しながら……。グスン! いやフツーに笑って見てほしいけどな、動画は」

企画は、なんとなくゴールドシップらしさを感じるものが多い。食リポと称してラーメンのなかを泳いだり、ファッションリーダーゴルシの回ではスイカを身にまとったり、動画のなかでも自由奔放である。だが、好き勝手やっているように見えて、おもしろさを提供するために、人知れず、大変な思いをしているわけだ。

なお、マックちゃんはウマ娘のメジロマックイーンのこと。スぺはウマ娘のスペシャルウィーク、オグリはウマ娘のオグリキャップのことで、2人とも食欲旺盛なウマ娘である。チケゾーとは、ウイニングチケットのことだろう。涙もろく、素直で元気な性格のウマ娘だ。

スタッフは、技術的な検証(小道具や背景などの制作と実装までのスケジュール)と各動画のネタ出しに毎度骨を折っていたという。開始当初は1つの動画を編集するだけでもかなりの時間を費やし、納得のいく動画ができるまで何度も試行錯誤を繰り返した。

そんな苦労のすえに完成する「ぱかチューブっ!」の動画たち。出演するのは基本的にゴールドシップだが、ほかのウマ娘がゲストとして登場することもある。

「スぺやテイオーとゲームやる回はやっぱ楽しかったよな〜! 一緒にホラゲーやったテイオーのヤツは、ビビりすぎてしばらく歌いながら帰るのがクセになったらしいぜ? あとは、なんか偉い人と『シャドウバース』でバトったのもおもしろかったな〜! …………ん? アタシ、なんかあのとき偉い人にすげー約束してもらわなかったか? んん……? ちっと後で見返してみっか……」



スペシャルウィークとゲーム『空気読み。』をプレイした動画



ウマ娘のトウカイテイオーとホラーゲーム実況にチャレンジすることもあった

ゴールドシップの言う「偉い人」とは、Cygames 専務取締役の木村唯人氏のことだ。対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse(シャドウバース)』で木村氏と対戦したゴールドシップは、独自のデッキ「ゴルシちゃんスペシャル」を木村氏のデッキと交換するなど、“ゴルシ流”の戦略を次々と繰り出すものの、敗北してしまう。しかし、あの手この手で再戦にこぎつけ、強引に勝利をもぎ取る。そして、「ぱかチューブっ!」が有名になったら、Cygamesのほかのゲームタイトルにゴールドシップを出演させてもらう約束を取り付けた。

はたして、ゴールドシップが『Shadowverse』や『グランブルーファンタジー』に登場する日は来るのだろうか……?

Cygames 専務取締役の木村唯人氏と対戦型オンライントレーディングカードゲーム『Shadowverse』で対戦

あの手この手で再戦にこぎつけたゴールドシップ。再び木村氏と『Shadowverse』で勝負

「『メカ・ダービー』実況企画はアタシもおもしろかったからまたやりてぇなー。あとは『ぴすラジッ!』のゲスト回みてぇな感じで、ほかのウマ娘たちとトークすんのも楽しそうだ。おっと、MCの座は譲らねぇぜ!!」

楽しそうに過去動画を振り返るゴールドシップ。自称宣伝担当として、これまでの「ぱかチューブっ!」での自分に点数をつけてもらった。

「564万点!! それ以外の選択肢はねぇ!! ……って、アタシと仲良しのヤツも言ってたぜ。じゃ、いいチャンネルになったってことだな!」



「タミヤ ロボクラフトシリーズ メカ・ダービー」で勝負した「ぱかチューブっ!杯」では、ゴルシの愛機がずきゅんどきゅん走り出した



ラジオスタイルで行われた「ぴすラジッ!」では、ゲストにほかのウマ娘が登場することも



より自由に! ゲームリリースの遅れでチャンネルは路線を変更

ゴールドシップが564万点と評価するYouTubeチャンネル「ぱかチューブっ!」。バラエティ豊かな動画が数多く公開されているが、元々は『ウマ娘』のPRとしてスタートした。そのため、チャンネル開設当初は、ゲームやイベントなどクロスメディア展開の最新情報を中心に届けていく予定だったそう。

だが、ゲームのリリースが延びたことで、チャンネルは大きく路線を変更。自由奔放なゴールドシップの魅力を存分に堪能できる動画が生まれていくことになる。もちろん、ゴールドシップ本人は最初から「とにかくおもしろいチャンネルにしたい」と意気込んでいた様子だ。

「そりゃお前、おもしれぇことしたくて始めたチャンネルだっつーのに、おもしろくなかったら意味ねーからさ。つーか、おもしろくねぇとアタシのやる気が絶々々々々々不調になって、たづなさんとラーメン100杯食っても戻んねぇから、『おもしれぇことだけやりまくる!』。まずはこれだったなー。あとまあ『宣伝担当』つって始めたけどよ、なんか途中で、まーいろいろ……、いろいろいろいろあって『つーか、宣伝すること、さほどなくね?』ってなったから、いっそ自由におもしれぇことしてやったぜ!」

ゲーム開発の遅れがゴールドシップの自由な企画を後押しした。もしスムーズにゲームがリリースされていたら、ゴールドシップの企画動画はなかったかもしれない。むしろ、開発期間が延長されたことで、クオリティが向上したゲームだけでなく、ゴールドシップの動画まで楽しめたのだから、怪我の功名と言えるのではないだろうか。

「途中とか、『アタシもしかして最初からYouTuberとして生まれてきたのか?』とかも思ったけど、まー出てよかったよな、ゲーム!」

無事にゲームがリリースされたことを喜ぶゴールドシップ。そんなゲーム『ウマ娘』の魅力について、こう話す。

「ゲームの魅力は、やっぱゴルシ様が存在していることだよな〜!! オマエらもうストーリーは一字一句漏らさず見たか? ゴルシちゃんとの激アツスポ根サクセスストーリーはもう体験したか? ん? ……『ゲート難のイベント』? ちょっと何言ってるかわからんでゴルシ」

なお、ゲームがリリースされた現在、当初の目的だった「ゲームやアニメの情報をいち早くユーザーに届ける媒体」としての役割を担うのが、「ぱかチューブっ!」内でライブ配信される「ぱかライブTV」だ。『ウマ娘』のキャストをスタジオに迎え、ゲームやアニメの最新情報を届けている。

キャストのスペシャルライブが行われた「出張版 ぱかライブTV Vol.3」のワンシーン


2021年4月24日には「ぱかライブTV Vol.6」が配信された


正式名称は『“ゴルシちゃんの”ぱかチューブっ!』だっつの!

ゴールドシップが“自由におもしれぇこと”をやり続けた「ぱかチューブっ!」だが、アニメ『うまよん』が始まる2020年7月ごろから、変化が起き始めた。『ウマ娘』公式の宣伝動画ばかり公開されるようになったのだ。

特にアニメ『うまよん』の次回予告では、「ぱかチューブっ!」お決まりのBGMに合わせて、いつもの「ゴルシちゃんのぱかチューブっ!」という合言葉ではなく、「ウマ娘のぱかチューブっ!」という言葉とともに、ウマ娘のスペシャルウィークやトウカイテイオー、ゴールドシチーなどが登場する。

「そりゃ〜、ほかのヤツらもゴルシちゃんとおもしれぇことしたくなったからに決まってんだろ〜〜〜〜!! いやー、人気のアイドルウマ娘ってのはツラいぜ☆ ……ん? なんだスタッフ? 『モデルができて』……? 何ワケわかんねーこと言ってんだオマエ」



TVアニメ『うまよん』の次回予告は、「ぱかチューブっ!」のテイストで行われた

そして、『うまよん』が放送を終えると、続けて2021年1月から放送されたTVアニメ2期『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』のティザーPVやキャスト動画が「ぱかチューブっ!」で公開。ゲーム『ウマ娘 』がリリースされると、ゲーム初心者向け講座「サクラバクシンオーのバクシン!お悩み相談!」や、ゲームで育成できるウマ娘を紹介する「トレセン学園生徒紹介」の動画が公開されるようになる。



「サクラバクシンオーのバクシン!お悩み相談!」では、ゲーム『ウマ娘』の初心者向け講座を実施



「トレセン学園生徒紹介」では、ゲームで育成できるウマ娘を紹介

「サクラバクシンオーのバクシン!お悩み相談!」や「トレセン学園生徒紹介」などは、ゲーム『ウマ娘』を楽しむためのコンテンツであり、チャンネル開設当初の目的には合致している。ゲームがリリースされたのだから、その情報発信に力を入れることは当然だろう。だが、これまで「ぱかチューブっ!」のメインコンテンツだったゴールドシップの動画が長い間更新されないことに対して、さみしさを覚える。「いつになったら最新ゴルシ動画が公開されるのだろう」と心待ちにしていたファンも多いはずだ。

もう「ぱかチューブっ!」でゴールドシップには出会えないのだろうか……。ゴールドシップが作り上げてきた「ぱかチューブっ!」は、このまま公式に乗っ取られてしまうのだろうか。そんな不安を言葉にすると、ゴールドシップは激昂した。

「んだとコラァアアアアアア!? いいか、この際だから言っておくがなぁ! 『ぱかチューブっ!』はあくまで略称!! 正式名称は『“ゴルシちゃんの”ぱかチューブっ!』だっつの! 動画でもそう言ってんだろがぁ! まー、おもしれぇんならほかの連中ともいろいろやるけどよ、ウマ娘宣伝担当(自称)にして『ぱかチューブっ!』の主はあ・く・ま・で! このゴルシちゃんだぁぁぁぁーーー!」

ゴルシちゃん大噴火である。そう。「ぱかチューブっ!」では、ゴールドシップが主役。今後の「ぱかチューブっ!」でも、きっと活躍してくれるはずだ。

これからもおもしろいことを――。エデンへの道は続く

ところで、ゴールドシップが動画の開始時にいつも言っている「ピスピース!」のあいさつ。これはどのような経緯で決まったのか聞いてみると、予想だにしていない答えが返ってきた。

「ハァァァァン……? さてはオメー、知らねぇな? ゴルシちゃんと今はなき第8の海域・ピスピス海であった偉大なる戦いの数々を……。しゃーねぇ、伝道者マル老亡き今、アタシがすべてを語ってやるよ。いいか? 始まりは、そう、アタシが海辺で黄金の ――(中略)―― つーことで、古代ゴルップ語で『これは終わりなどではない、始まりだ』がいろいろ訛って、今の『ピスピース!』になったわけだな。わかったか?」

「ピスピース!」の語源はよくわからなかったが、今回のインタビューでゴールドシップがおもしろさを追求する生粋のエンターテイナーだということは、改めてよくわかった。きっと宣伝担当(自称)ウマ娘として、これからも我々にエンターテインメントを提供してくれるに違いない。

「ま、これからもおもしれぇことならなんでもやっていきてぇよなー! アタシもスタッフもいろいろやりてぇことはあるんだ! オマエらも楽しみにしててくれよな」

実際、ゲームがリリースされてから、「ぱかチューブっ!」の過去動画は再生数を伸ばしている。4月13日には、「ぱかチューブっ!」のチャンネル登録者数が40万人を突破した。もちろん「サクラバクシンオーのバクシン!お悩み相談!」などゲーム関連コンテンツの影響もあるだろうが、ゲームでゴールドシップのトリッキーさに魅了されてファンになった人が、ゴールドシップの過去動画も楽しんでいるのだろう。

自称ではない公式の宣伝担当も、「ファンの期待に応えられるようなチャンネルを目指していきたい」と話す。

ポジティブな2人の宣伝担当の言葉を聞くと、これからの「ぱかチューブっ!」に期待しないわけにはいかない。なにより、気まぐれなゴールドシップのことである。新たなネタを思いついたら、案外すぐYouTubeにその姿を現すのではないだろうか。

と、そんなことを考えているうちに、ゴールドシップが謎の予告動画を公開した。どうやら、2021年のゴールデンウィークに何かを企んでいるらしい。これはますます目が離せない。



4月24日に公開された「ゴルシウィーク」の予告動画

(c) Cygames, Inc.