電動化を進める自動車メーカーがまさかの撤退

 電動フォーミュラカーの国際シリーズとして、2014年9月にスタートしたフォーミュラE。開幕当初はアウディとルノーがカスタマーサポートを行っていた程度だったが、環境対策の一環として、世界各国で電気自動車の普及が推し進められたことが追い風となったのだろう。

 アウディ、ルノーがワークス活動を開始したほか、PSAグループのDS、ジャガー、BMWが参入。さらに2018年-2019年の第5シーズンからはニッサン、2019年-2020年の第6シーズンからはメルセデス、ポルシェが参戦を開始するなど活況を迎えていた。

 加えて2020年-2021年の第7シーズンからは国際シリーズから世界選手権に昇格するなど、文字どおり、フォーミュラEは電動シングルシーターの最高峰シリーズとなったが、新型コロナウイルスの影響でいまだ開幕を果たせていない。当初、2021年1月16日〜17日のチリ戦で開幕する予定だったが延期となり、2021年2月26日〜27日のサウジアラビアで開幕することとなった。

 まさに暗雲が立ち込めつつあるフォーミュラEだが、これに先立ち2020年11月30日にアウディが第7シーズン限りでフォーミュラEにおけるワークス活動の終了を発表した。さらに2020年12月3日にはBMWも2020年-2021年の第7シーズンを最後にフォーミュラEへの参戦終了を発表している。

 世界中で電気自動車の推進が進んでいるだけに、フォーミュラEも発展がするかのように思われていたのだが、電気自動車に力を注いでいたメーカーが相次いで撤退を発表。その理由について、アウディはフォーミュラEに代わって新たにEVカーでのダカールラリー参戦を開始するとのこと。

「今後も国際的なトップレベルのモータースポーツを舞台に私たちのロードカーのために革新的な技術を開発していきたい。世界でもっとも過酷なラリーは完璧な舞台だ」と取締役会長、マーカス・デュースマンが語る。これに加えてアウディはLMDhプラットフォームを使用したスポーツカーレースへの準備を進めていくようで、新たなフィールドにチャレンジするようだ。

 一方、BMWは「フォーミュラEの環境から市販車への技術転用の機会を使い切った」とのこと。つまり、ドライブトレインの技術開発の終了が撤退の理由で、今後はeモビリティの分野にシフトしていくという。

 まさにフォーミュラEにとっては衝撃のニュースとなったが、これは氷山の一角で、今後は自動車メーカーの“フォーミュラE離れ”が進んでいくに違いない。

じつは技術的に得るものがない!

 その理由としてあげられるのが、技術的なチャレンジが少ないことで、フォーミュラEでは開発コストを抑制すべく、多くのユニットでワンメイクコントロールを採用。しかも、その技術は古く、某自動車メーカーのエンジニアは「10年前の技術でフォーミュラEからは学ぶことはない」と語るように関心を示さなかった。一度はチャレンジしたBMWが、すぐに撤退した理由もそこにある。

 またフォーミュラEが衰退する可能性がある理由としては、ほかのカテゴリーもEV化が進んできたこと。アウディがターゲットにしたようにダカールラリーもEVカーに門戸を解放。もともとラリーシーンで黄金期を築いた経験を持つアウディにとっては魅力的なフィールドで、より過酷かつ自由度の高い環境で電動パワートレインとバッテリーの開発を行うと同時に、より市販モデルに近いカテゴリーでプロモーションおよびマーケティングを実施してくことを優先しても不思議ではない。

 現在、FIAでは「FIAエレクトリックGT競技会」および「FIAエレクトリック・ツーリング競技会」の技術委員会を立ち上げて、新カテゴリー設立の準備を進めているだけに、電動マシンのモータースポーツカテゴリーが増えてくれば、自動車メーカーは自社ブランドのマーケティングに合わせて新たなフィールドにチャレンジするに違いない。

 もはや“電動フォーミュラレース”だけでは自動車メーカーの誘致を期待できない状態となっているだけに、今後は電動パワートレインを供給するアウディのように、フォーミュラEでの自動車メーカーの活動はカスタマーサポートに留まっていくことだろう。