石井杏奈、19歳の自分は「いっぱいいっぱいだった」 柄本時生に刺激受ける
女優の石井杏奈が27日、ヒューマントラストシネマ渋谷で行われた主演映画『記憶の技法』(公開中)初日舞台あいさつに来場し、19歳の時の自分を「いっぱいいっぱいだった」と撮影を振り返った。この日は柄本時生、戸田菜穂、池田千尋監督も来場した。
「少年は荒野をめざす」「ジュリエットの卵」といった傑作コミックを世に送り出すも、2016年に急逝した漫画家・吉野朔実の同名コミックを実写映画化した本作は、ひょんなことから自身の出生に疑問を抱いた少女が、真実を追い求めて自らの過去を探る旅に出るさまを描き出す。映画上映前にステージに登壇した石井は「このご時世なので。皆さんにお会いできることが本当にうれしいです。本日公開ということで、ここからこの映画が羽ばたいていくと思うと、とてもうれしく思います」とあいさつ。池田監督も「映画はやっぱり観客の皆さんに観ていただいて初めて映画になるといつも思っているんですけれども。映画が上映できるのは全然当たり前のことじゃないんだなということを改めて感じています。撮影は結構昔だったんですが、今日、皆さんと再会できて。お客さんに観ていただけることになり、とてもうれしいです」と感激の表情を見せた。
本作が撮影されたのはおよそ3年前、石井が19歳の時だったという。「華蓮が抱えているものや経験したことが、自分の頭の中でいっぱいいっぱいになっちゃって。共感したいんですけど、共感できない部分だったり、そういうことがすごく多くて。なので19歳ながらに、自分のことと重ねながら演じていました」と当時を振り返った石井は、「今演じたらまた全然違う感じ方があるだろうなと思いました」とも。
池田監督も、その世代特有の、心と体が一致していないような頑なさを、当時の石井たちに感じていたという。「19歳の石井杏奈が本当に生々しく役に向かい合っていっていく時に、彼女自身が生きていく上で迷っていたり、いろいろと不安定だったりというものがそのまま出ていて。でもわたしは、その先にある石井杏奈という人をつかみたくて。ずっとノックをしていました」と語る池田監督は、「だからラストシーンに向かうにつれて、顔がパッと開いていくところを見せてもらって。本当に生でその場に立って生きてくれたなと思います」と感慨深げだった。
そんな現場の雰囲気が変わったのは、金魚屋を演じる柄本が現場にやってきてからだという。当の柄本は「初日の撮影で(リハーサルの)テストが終わった後、金魚ってどんなものだろうとのぞいていたら、監督が杏奈ちゃんと(栗原)吾郎くんに『柄本さんのああいうところを見て勉強しなきゃ駄目だよ』と言っているのが聞こえて。俺、芝居を考えている風に見せないといけないのかな……と思って。その体勢から動けなくなった」とぶっちゃけ、会場は大笑い。
石井は、柄本との共演を「柄本さんが来られてからガラッと変わったのをすごく覚えています。本当に刺激的で。ずっと拝見していた方だったので多分、緊張もあったと思うんですけど、そこから変わりました」と述懐。柄本は「10代の、若い二人のセリフの生々しさに僕は感動していたというか。聞いていて面白くて。むしろこちらの方が勉強になったというくらいに楽しかったのを覚えています」と返してみせた。(取材・文:壬生智裕)