抜群のボール奪取能力と的確なゲームコントロール。J1昇格に向け、攻守両面での活躍が期待されている。(C)J.LEAGUE PHOTOS

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「特長はボール奪取とゲームコントロール。チームにいると助かるという存在になりたい」

 自身の持ち味をそう語る前寛之。1-0で勝利した2月23日の北九州との開幕戦で見せたプレーは、まさにその言葉をサポーターの前で証明するものだった。

 決して派手なプレーヤーではない。必死になって走り回っている印象もない。けれど、守備に、攻撃に、ここぞというところに必ず前がいた。攻撃陣と守備陣との関係性、相手の特長と自分たちの強み、攻守が切り替わった瞬間の周りの状況など、様々な情報を瞬時に判断して、的確なポジションを取る能力の高さがJ2屈指のボランチと呼ばれる所以だ。

 特にボール奪取能力は出色だった。相手との間合いを図りながら、抜群のタイミングで身体を入れて当たり前のように奪い返す。その鮮やかなプレーに、ミクニワールドスタジアム北九州に足を運んだアビスパサポーターから、驚きにも似た歓声が上がった。

 後半は、4-4-2から4-1-4-1へのシステム変更に伴い、アンカーでプレー。相手の攻撃の芽を摘むとともに味方を的確に動かし、北九州の攻撃を封じた。後半に相手に許したシュートは4本。決定的なシーンをほとんど作らせなかった。もちろん、チームとしての守備が機能したからではあるが、その中心に前がいたことは言うまでもない。
 
 最高のスタートを切れたが、新型コロナウイルス拡大の影響で、その後、約3か月にわたって試合から離れなければいけなかった。選手たちにとって非常に難しい期間だった。だが、気持ちを高めて、準備を進める。

「スプリント、加減速、爆発的なパワーを使うといった技術的な部分は、正直、不足しているとは思う。けれども、そこはこれから上げていけると思うし、ランニングというところでは、朝晩の人がいない時間帯を利用して、コンディション維持というよりも向上を狙うことに取り組んでいた。セルフコンディションという部分に関しては上手く整えられるようになったと前向きに捉えている」

 そしてリーグ再開に向けて、次のように語る。

「開幕してから3か月空いて、僕たちの試合を楽しみにしているみなさんが、サッカーがある週末を感じられていない時期が続いていた。再開した時には、日常が戻ってきた喜びや楽しさを感じてもらえれば嬉しいし、僕たちもサッカーができる環境を楽しみたい」

 過去3度のJ1昇格を振り返れば、チームを牽引するボランチの活躍があった。2005年はプレーのみならず精神的な支柱として存在感を示したホベルト、10年には攻守にわたって高い技術とクレバーさを発揮しタクトを振るった中町公佑、15年は3年ぶりにアビスパに復帰してチーム最多の9得点を記録した鈴木惇がいた。

 そして2020年。フアンマ、遠野大弥、石津大介、福満隆貴らをはじめ、豊富な駒が揃う攻撃陣を、前がいかに使いながら、チームをJ1に導くのか。再開が楽しみだ。

取材・文●中倉一志

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