モルヒネやヘロイン、コデイン、オキシコドンなど、ケシから採取されるオピオイドは医療用麻酔の一種で、がん用の鎮痛剤などとして使われます。しかし、呼吸抑制や幻覚、高い依存性など、オピオイドには副作用も多いことから、オピオイドの代替となる薬の開発が急がれています。そんな中、毒グモが分泌する神経毒を基に鎮痛剤を開発する研究が報告されています。

Manipulation of a spider peptide toxin alters its affinity for lipid bilayers and potency and selectivity for voltage-gated sodium channel subtype 1.7

https://www.jbc.org/content/295/15/5067

Spider venom key to pain relief without side-effects - UQ News - The University of Queensland, Australia

https://www.uq.edu.au/news/article/2020/04/spider-venom-key-pain-relief-without-side-effects

A Safe Alternative to Opioid Painkillers Could Come From Tarantula Venom

https://www.sciencealert.com/the-alternative-to-opioid-painkillers-could-come-from-tarantula-venom

オピオイドには強い鎮痛作用があることから、アメリカでは頻繁に処方される薬の一種となっています。しかし、オピオイドには強い副作用も存在し、眠気・幻覚・せん妄などの認知機能障害・呼吸抑制・排尿障害などが報告されています。アメリカでは、オピオイドが原因で精神障害を引き起こしたり亡くなったりする人が後を絶たず、「オピオイド危機」として社会問題化。オピオイドが過剰にアメリカ社会に普及した責任を問われ、製薬会社が600億円の支払いを命じられたことも以下の記事で報じられています。

依存性のある鎮痛剤「オピオイド」の乱用問題で600億円の支払い命令がジョンソン・エンド・ジョンソンに下る - GIGAZINE



そこで、「モルヒネと同等の効果をもち、強い副作用や依存性がない」という鎮痛剤の開発が積極的に行われています。2018年には、オピオイドの受容体に働きかける「AT-121」の開発が報告されました。

モルヒネの100倍強力で依存性のない鎮痛剤が開発中、サルでの実験に成功 - GIGAZINE



そして、クイーンズランド大学分子生物科学研究所の研究員であるクリスティーナ・シュローダー氏の率いる研究チームが注目したのは、「Huwentoxin-IV」と呼ばれるクモ毒で、中国・ベトナムに生息するCyriopagopus schmidtiという毒グモから採取されるペプチドです。

by Popolon

研究チームによれば、Huwentoxin-IVは神経の痛み受容体のトリガーとなるナトリウムチャネルの活性化を阻害する働きがあるとのこと。つまり、Huwentoxin-IVは痛みを感じるメカニズムに直接働きかけ、痛みを感じにくくするというわけです。また、これまで行われてきた動物実験で、Huwentoxin-IVは心筋や骨格筋にほぼ作用せず、副作用や依存性が少ない可能性が示唆されています。

さらに、研究チームはHuwentoxin-IVを改良し、細胞膜との親和性を改善することで、より効果的に痛みを抑えることを可能にしたそうです。Huwentoxin-IVを使った鎮痛剤は既にマウスを対象に投薬実験が行われており、効果的に機能することが示されていると研究チームは報告しています。

シュローダー氏は「私たちの発見は、副作用のない鎮痛治療の代替となる可能性があります。痛みを和らげるためにオピオイドに依存してしまっている人を減らすことができるかもしれません」と述べました。