概算要求だけでは本当のところは見えてこない(写真:tanemu385/PIXTA)

「来年度の防衛予算、5.3兆円超で過去最大」

今年8月、新聞やテレビなどが防衛省の2020年度予算の概算要求について、5兆3000億円を超え、過去最大になる見通しだと報じた。

実際の予算はさらに膨らんでいた!?

毎年8月末は次年度防衛予算の概算要求が出される。財務省との折衝を経て、この段階で総額の調整が行われ毎年12月に政府予算案となる。たいていこの過程では予算額が削られることが多い。そして政府案が国会で審議され次年度予算が決定される。

実はこれは実際の防衛費よりも過小だ。例えば、本年度(2019年度)の概算要求は5兆3223億円だったが、米軍費用などが「事項要求」とされ計上されていなかった。これは政府予算案で追加されているが、昨年は約2200億円だった。事項要求を足した金額を足せば、実際は5兆5423億円であった。

それだけではない。東日本大震災以降、次年度の予算と当年の補正予算が一体化している。本来、補正予算はその年度の編成当時に想定しなかった支出、例えば大規模災害の派遣や災害によって生じた隊員の手当などの人件費や燃料費、また航空機や基地などが被災してその代用が必要となった場合、また大幅な為替変動によって燃料や輸入装備などが高騰した場合などを手当するものだ。

財政法第29条では以下の場合に補正予算を編成できると規定している。

1. 法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となった経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを含む。)又は債務の負担を行うため必要な予算の追加を行う場合

2. 予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合

一方、防衛省の補正予算では通常予算で調達すべき装甲車や航空機などの「お買い物」予算として利用している。

2019年度の補正予算は1次と2次があった。1次補正予算は547億円。内容は自衛隊の部隊が実施する災害派遣活動等に必要な経費、活動で使用した装備品等の損耗更新等、被災した装備品等の復旧等でおおむね本来の補正予算の使い方といえる。

問題は2次補正予算の3998億円だ。これのほとんどが「お買い物予算」だった。防災・減災、国土強靭化のための3カ年緊急対策に基づく措置として、自衛隊施設の整備(耐震化・老朽化対策)、自家発電機の整備(電力供給能力の向上)、施設器材(中型ドーザ、トラッククレーン)の老朽更新等となっている。

自衛隊の安定的な運用態勢の確保として、戦闘機(F-35A)、固定翼哨戒機(P-1)、輸送機(C-2)、哨戒ヘリコプター(SH-60K)等の整備で、車輛・艦艇・航空機等の整備維持等、原油価格の上昇に伴う油購入費・営舎用燃料費の増額、ソマリア・アデン湾における海賊対処行動の派遣期間延長に係る経費等となっている。

そして隊員の生活・勤務環境の改善として、隊舎・宿舎等の整備、営舎用備品(居室用ロッカー、洗濯機等)の整備等、障害者雇用の推進に必要な機器等の整備等となっている。

これらの中で本来の意味での補正予算に該当するのは「原油価格の上昇に伴う油購入費・営舎用燃料費の増額 310億円」と「ソマリア・アデン湾における海賊対処行動の派遣期間延長に係る経費に13億円等」、合計323億円。つまり3675億円は、本来なら次年度に要求する性格の予算といえる。

であれば、本年度においても概算要求額に事項要求や第2次補正予算の「お買い物予算」を足した金額が、実質的な防衛費である。

民主主義の根幹を揺るがす行為

政府は消費税引き上げの影響によるGDPの落ち込みを回避するために、本年度の補正予算を増やすだろう。恐らく「補正予算のお買い物予算」は4000億円を超えるのではないかと筆者は見ている。そうであれば来年度の「2020年度の本当の防衛予算」も6兆円前後になってもおかしくない。

このように防衛予算を3つに分割するのでは国民にわかりづらい。政府案に「事項要求」は含まれ、国会での議論は「来年度予算」と「当年の補正予算のお買い物予算」との2つに分かれて審議されるので一括して議論ができず、審議もまともにできるとは言えない。

これは文民統制上も大きな問題である。政治による予算の管理は文民統制の根幹である。それが軽視されていると言えるのだ。これは防衛省だけの問題ではない。ほかの省庁でも事項要求があり、事実上は補正予算が第二の予算と化している。

防衛省の発表をテレビや新聞などの記者クラブはそのまま垂れ流している。とどのつまり、政府の防衛予算を安く見せる世論誘導に乗っかってしまっている側面もある。これらは財政規律を歪めるだけではなく、民主主義の根幹を揺るがす行為といえる。