■言い逃れできる余地をつくっておく

職場で仕事のできない部下や上司にガツンと言ってやりたいが、パワハラやセクハラで後で相手から訴えられるリスクがある。「職場でのトラブルの原因は今も昔も人間関係が大半」。そう語るのは城南中央法律事務所の野澤隆弁護士。「ストレスがたまると、つい暴言を吐いてしまうときがあるかもしれません」。

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野澤弁護士によると法的に問題となる暴言は「侮辱」と「名誉毀損」。発言内容がいずれかに該当すれば、訴えられたときに不利な立場になる。

「『侮辱』とは、クライアントに対し思い切った価格交渉ができない部下を同僚が見ている前で『おまえ、ケツの穴がちいせえな!』などと言ってしまったときです。相手の尊厳を無視し、貶めている発言ですからNG。『名誉毀損』は事実であっても社会的評価を広く低下させる行為が該当します。上司が『簡単な交渉すら仕上げられないので何年も給料が上がらず、サラ金にも手を出しパチンコばかりしている独身ライフ』などと社内のかなりの人が見ているメールなどで部下の評価をしてしまった場合です。この場合、仮に事実であったとしても、およそ業務と関係ない『サラ金』『パチンコ』などといった要素が社会的評価を著しく低下させる書き込みと判断される可能性があります」

こうしたセリフを吐かずに、うまく相手にガツンと言える方法はあるのだろうか。

「相手への不満は『たとえ話』を活用しましょう。『最近の課長ってトランプ大統領っぽいよね』と言えば、仮に強引に物事を進める課長だとしても『侮辱』『名誉毀損』には当たりません。毀誉褒貶がある大統領ですが、まだ歴史的評価が下されておらず、決して『トランプ大統領っぽい=強引に物事を決める悪人』にはなっていません。また、たとえ話は具体的なことは特定していないため、相手から『不快な思いをした』と追及されても、発言内容を修正できる余地があります」

■「真面目で頭もいいがおもしろくない人」に何と言う?

ほかにもこんな例がある。

「真面目で頭もいいがおもしろくない人のことを『ドラえもんの出木杉君っぽいよね』と発言者の会話の流れにおける悪口を言ったとしましょう。その発言者の理解ではネガティブな物言いですが、これも相手の性格を完全否定しているわけではありません。ドラえもんに登場するキャラクターはそれぞれ長所・短所があり、発言内容の理解は各人違います。たとえ話は評価が確定的でないのが特徴です」

ただし、こんな場合はNG。

「『あの人はヒトラー的ですね』などはダメでしょう。歴史的、地域的に一定のタブーが存在する内容については、会話現場の全員がそのタブーを了解し、かつ事後的なトラブルを防げる手段が確立されている特別な学術会議のような例外的な場合以外に許容されることはないでしょう」

○:言い逃れできるたとえ話で悪口を言う
×:「ヒトラー的ですね」「おまえ、ケツの穴がちいせえな!」

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野澤 隆
1975年、東京都大田区生まれ。東京都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。弁護士秘書などを経て2003年、司法試験第2次試験合格。08年、城南中央法律事務所を開設。
 

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(編集者・ライター 鈴木 俊之 撮影=小原孝博 写真=iStock.com)