2018年度、新専門医制度が導入され、日本の医療は大きな転換期を迎えた。

 かねてより日本の医療界には、眼科専門医とか糖尿病専門医とか温泉療法専門医など、いろんな学会が設けた100以上の専門医制度があり、その難易度もまちまちである。

「それは問題だ! 誰もが信頼できて、国民に分かりやすい、統一された専門医制度を整備する必要がある」と主張する偉い先生方が集まって、2014年に、日本専門医機構という第三者機関が発足した。

 新専門医制度では、「内科」「脳外科」「臨床検査科」など、19の基本領域が制定された。2年間の初期研修を終えた若手医師は、いずれかを選択し、専攻医として3〜6年のカリキュラムに則った研修を受けて、専門医資格を取得できるようになった。

 中でも「総合診療専門医」は、「地域医療の担い手」「全医師の3〜4割が役割を担う」とされて、専門医機構が直接認定するプログラムの目玉となるはずだった。

 その他、「専門医の質の向上」「国民に分かりやすく」「医師の地域偏在や科の偏在を是正」「都市部に集中しすぎた場合は上限を設定」が、新制度の目的として掲げられた。

 2018年春、第一回の専攻医マッチング結果が発表された。

「東京都は、初期研修医1350名→専攻医1825名と大人気」
「専攻医第一期生の22%が東京都に集中」
「小児科は東京都130名、佐賀・徳島県ゼロ」

 と、誰がどう見ても地方の医師不足が一気に加速した。

 また、かねてより「多忙科」として知られる外科系や救急科が敬遠されるだけでなく、研修期間が実質的に延長になった内科も敬遠された。

 カリキュラム作成が遅れ、後出しで僻地研修が追加されるなど混乱した「総合診療専門医」は不人気で、選択した専攻医は2%にとどまり、11県では希望者ゼロだった。

 度重なる制度変更で若手医師は混乱し、専攻医カリキュラム作成のための山のような書類や会議で中堅医師はヘトヘトになり……その挙句、専門医制度の目的とは真逆の結果が示された。

「こんなアホな制度、時間と税金の無駄! とっとと止めろ!」の声も大きいが、厚労省や専門医機構は幹部人事を入れ替えただけで、制度そのものは続行するつもりらしい。

 この制度で大きな影響を受けたのが内科だ。

 かつて内科は、「とりあえず内科」「迷ったら内科」など「医者として最も普遍的な専攻」とされていた。NHKドラマの『いのち』『ええにょぼ』『梅ちゃん先生』など、女性内科医が主人公の人気ドラマは数多い。女医を含めて「放っておいても人が集まる無難な科」だったのが、この制度変更で一気に不人気科に転落した。

 2018年度の内科専攻医数は、「高知県8人、宮崎県9人(東京都535人)」と、地方における内科医不足はさらに深刻である。

 内科とは病院における幹のような存在で、この科の専攻医が減ることは、ボディブローのように病院機能……そして日本医療全体にダメージをもたらすだろう。

 内科は特に女医に敬遠された。2003年以前には24歳からスタートしていた「胃カメラ」「心臓カテーテル」などの専門的内科研修は、最速でも29歳スタートとなる。

 すでに体力や吸収力のピークを過ぎてから、本格的な職業トレーニングを始めることとなるので、「35歳までに複数回の出産」という多くの女性が望むライフプランとは、全くそぐわない専攻医カリキュラムになってしまったからである。

 うっかり20代後半に妊娠した場合、その後に複数病院での勤務が義務化されているので、「妊娠中に長期入院」「保育園探しに失敗」などでキャリアが中断すると、最終的に専門医が取得できないリスクが大きい。

 また、「不人気科=同期が少ない=激務=産育休や育児時短の取得が困難」でもあり、「不人気ゆえに、さらに希望者が減る」という負のスパイラルも発生したのだ。

 以上、筒井冨美氏の新刊『女医問題ぶった斬り!〜女性減点入試の真犯人〜』(光文社新書)を元に再構成しました。フリーランス女医として活躍する著者が、女医の現状を鋭く分析します。

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