現場となった津田容疑者の部屋からは異臭が漂っていた。異臭のする現場で検証作業をする捜査員

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「6月16日午前11時10分ごろ、須磨警察署に“1週間ぐらい前からゴミのにおいでもない、嗅いだことのないような異臭がする。夫婦が住んでいるはずだが、昨年12月ごろから奥さんの姿を見ていない”と、同じ市営住宅の住人から安否確認の通報がありました」(捜査関係者)

【写真】現場となった市営住宅、容疑者宅の玄関

最後に会ったのは去年

 疑わしいと通報されたのは神戸市須磨区にある市営住宅の一室。警察官が訪問したが、家の中からは応答がない。やむなく管理会社立ち会いのもと鍵を開けて中に入ったところ、室内からは鼻をつく強烈な異臭が。しかも、キッチンテーブルには男女が座っていた。

─ここの住人か?

「そうです」

─(女に)奥さんですか?

「同居人です」

─(男に)奥さんは?

「妻は昨年末に離婚し、家を出て行った。今はどこにいるのか知らん」

─このにおいは何か?

「そう尋ねたところ男が黙って押し入れを指さしたので、警察官が開けると、押し入れの下段にシーツのような布に巻かれた女性の遺体を発見しました」(同捜査関係者)

 兵庫県警須磨署は6月17日、無職・津田信明容疑者(49)と、同居する交際相手の無職・岩本真由美容疑者(51)を死体遺棄の疑いで、逮捕した。

 遺体は死後数か月が経過。腐敗が進み、死因の特定ができなかった。警察はDNA鑑定により身元を特定。遺体は津田容疑者の元妻の川越博美さん(49)と判明した。

 津田容疑者と川越さんは、2014年12月に離婚していたが、その後も同居を続け、周囲は夫婦と認識していた。

 同じ階に住む60代男性は、

「旦那さんと話したことはないんですが、奥さんは明るくて非常にいい人でした。自治会の掃除にもちゃんと出ていましたし、あいさつもしてくれる。でも、昨年の12月から見てなかったんです……」

 同じ階の70代の女性も、

「言われてみれば、今年は会ってないですね。最後に会ったのは去年やったかなぁ……」

 と記憶をたどりながら、

「奥さんは愛嬌がある人やった。いつも赤いジャージ着てな。小柄でぽっちゃりしていて明るい人でしたよ。一昨年は自治会役員をやってくれました。家庭のことはほとんど話さんかったけど、1度だけ“子どもさんは?”と聞くと“うち、いてないねん”と話していました。まさか事件に巻き込まれていたなんて」

病弱なイケメン夫

 事件現場となったのは、津田容疑者と元妻の川越さんが暮らしていた部屋だが、引っ越してきたのはつい4年ほど前だという。

 以前は現場となった市営住宅から徒歩10分ほどの別の市営住宅に住んでいた。当時の2人を知る男性(72)は、

「ご主人は精神的な病気を患っていたようでな。病気の症状が出ると、ふやけたような感じの顔になってしまうんです。目の焦点がどこか合ってないような感じでね。ただ、症状が出てないときはキリッとして、えらい男前でしたよ。奥さんはかわいらしい人やった。いつもニコニコしてな」

 と人となりを明かし、

「奥さんが旦那にベタ惚れでしたね」

 と2人の関係性を説明する。

 津田容疑者はいつもパジャマ姿で、せいぜい市営住宅の1階の郵便受けに行く程度。

「奥さんが“たまには外の空気を吸わなアカン”言うて、引っ張りながら買い物に連れて行くこともあったわ。

 耐震工事のため転居しなければならなくなったとき、最後まで神戸市とやりあったのは奥さん。“旦那の病気が悪くなったらどうすんねん。転居は嫌や”言うてな。ご主人の病気もあったし、一生懸命面倒をみていたんやと思う。奥さんは愛情深い人やったわ」

 働いている様子はなかったと近隣の住民は証言するが、生活に困窮していたわけでもないようだ。北海道へ旅行したり、体調を崩した川越さんの快気祝いに、海外旅行したこともあったという。

 病弱なイケメン夫と献身的なかわいい妻。周囲には仲のいい夫婦と映っていた。

 昨年の12月ごろに姿を消したとされる川越さんだが今年1月、津田容疑者宅近くに引っ越してきた70代の女性は、

「1月10日過ぎくらいに、津田さんのところにごあいさつに伺いました。女性の方が出てこられたので“よろしく”と言ったぐらいです。当然、今の今まで奥さんだと思っていましたが、ひょっとすると逮捕された女性だったかも」

 ほかにも岩本容疑者とみられる女の出入りを目撃していた住人がいた。津田容疑者宅と同じ階の60代女性だ。

「5月ぐらいに、私が家を出てエレベーターの方向に向かうとき、見ない顔だなと思いましたが、“こんにちは”とあいさつをすると、うつむいて、顔を私と反対に背けて返事をしたんです。違和感を覚えて、どこに行くのかと見ていたら、津田さんの家に入っていきました。髪は短めで身長は155センチくらい。太っているというわけではありませんが、体格のいい方という印象でした」

深夜の叫び声

 仮に1月から岩本容疑者が同居していたのであれば、元妻の遺体がある部屋で、半年間も生活していた可能性も。2人はどのような関係なのか。

「岩本が神戸市内にあるうどんのチェーン店で正社員として働いていたところに、津田がアルバイトとして入ってきて知り合った。以来33年間、交際しているそうです」(前出・捜査関係者)

 妻の川越さんがいながらも続けられた、長年にわたる裏切り。前出の男性は、過去にあったトラブルを明かす。

「5年ほど前に“旦那が愛人宅に転がり込んだので離婚しようと思う”と奥さんに相談されたことがあった。旦那が帰ってこないから、覚悟を決めたんやろうね。ところが、ある日、ちょうど家の前で、ボストンバッグを2つ、手に下げた旦那と奥さんに出くわしてな。

 旦那は“女から一緒に住むつもりはないと言われた”と話しとった。女のところから旦那が帰ってきたもんだから、奥さんはすっごいうれしそうにしてな。テンション高くて私に抱きついて喜んどった」

 昨年の11月には津田容疑者宅方面からの異変に気づいた女性がいた。

「午前2時ごろ、女性の“キャー、助けて”という尋常じゃない声が聞こえて、すぐに警察に通報したんです。その後、どうなったのかと思っていたんですが……まさか……」

 数か月後、変わり果てた姿の川越さんが発見された。

「刃物で刺したりロープで絞めたような痕はなかった」(前出・捜査関係者)

 33年にわたる裏切りの愛は献身的な元妻が発する異臭のなかで終わりを告げた。