教室に笑い声が響き渡り、子供たちが競い合って手を挙げる塾がある。東京都・三鷹市の「探究学舎」だ。2011年の設立以来、生徒を増やし続け、特別授業には全国から年間3000人もの子供たちが集まる。なぜ人気なのか。塾代表の宝槻泰伸さんに密着した――。
塾代表の宝槻泰伸さんに密着した(写真提供=毎日放送)

■ライブハウスさながらの熱い教室

東京都三鷹市に子供が熱狂する不思議な塾がある。教室には絶叫に近い笑い声が響き渡り、子供たちは競い合って手を挙げる。受験勉強や成績アップにはコミットせず、子供の好奇心に火をつけることのみをポリシーとする「探究学舎」だ。算数や国語などの教科は教えず、「戦国英雄編」「人類進化編」「宇宙編」「経済金融編」など独特のカリキュラムながら、2011年の設立以来、生徒を増やし続けている。

ライブハウスさながらの熱い教室で、生徒たちから「やっちゃん」と呼ばれ慕われているのが、塾の代表・宝槻泰伸さん。一体なぜ、子供たちは宝槻さんの授業に夢中になるのか。3月17日放送のドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、宝槻さんに密着し、子供を虜にする魔法の授業の秘密を聞いた。

■同業者からも注目される指導法

【塾代表・宝槻泰伸】「成績とか合格とかを一切無視して、子供たちの“やりたい”“知りたい”好奇心に火をつける。教育のディズニーランドを目指しています」

最近では、教育の未来を考えるシンポジウムに、文科省や経産省の専門家と並んで講演を依頼されることも増えた。常識を打ち破るような指導法は、同業者からも注目の的となっている。

【学習塾経営者】「学力を上げるとか受験で成功することがその後の人生にどれだけ意味のあることなのか、われわれも疑問を持っています。能力開発ではなく興味開発という言葉が胸に刺さりました」

春夏冬の特別授業ともなると、全国から年間3000人もの子供たちが三鷹の教室に集まる。教室には、お祭りのような熱気と興奮が渦巻いていた。

教室はお祭りのような熱気と興奮で渦巻く(写真提供=毎日放送)

【子供】「静岡から来ました!」
【子供】「青森から来ました。こんな塾があったらいいなぁと思ってたので……」
【子供】「誕生日プレゼントに、この塾の授業受けたいとお願いした」

■「元素」をカルタ取りと模型作りで学ぶ

この日の授業のテーマは「元素」。宝槻が最初に子供たちに与えたミッションは、「カルタ取り」だった。宝槻が出すヒントから当てはまる元素を選ぶというものだ。ゲーム感覚で楽しめるとあって子供たちのテンションは最高潮に。しかし、これはあくまでウォーミングアップに過ぎず、真骨頂は盛り上がった後だった。

【宝槻】「名付けて〜タララン♪ 分子を作ってみようー! イエーイ!!」

子供たちに配布されたのは穴の開いた小さなボールと棒。原子に見立てたボールを棒でつないでいき「化学式C6H6(ベンゼン)の分子構造」の模型を作り上げる。

「化学式C6H6(ベンゼン)の分子構造」の模型を作る(写真提供=毎日放送)

【宝槻】「行くぞ! 5分だぞ!」

C6H6は炭素原子6つと水素原子6つが結合してできている。合計12個のボールを棒でつないだ模型を作ることで、分子構造が直感的に理解できるという。

2人の女の子が手を挙げた。答えが分かったようだ。だが駆け寄って確認した宝槻さんは「これは美しくない! もっと美しい形になる方法を探して」と一言。

不正解だった。2人はがっかりした様子だが“美しい”とは一体どういうことなのかと自ら考え始める。この“美しいかどうか”というヒントこそが、宝槻さんの真骨頂だろう。

ようやく1人が正しい形にたどりつく。

【宝槻】「これが正解! どう? 雪の結晶みたいで美しいでしょ? 美しいと思う人〜!」

【生徒】「ハーイ!!」

■「私たちは“星の子供”ってことなんです」

元素が作る分子構造は美しい。そのことを子供たちに体感させると、トークは一気に熱を帯びていく。

トークは一気に熱を帯びる(写真提供=毎日放送)

【宝槻】「皆さんが毎晩夜空で見ている無数の星々の光は、実は“元素”を作り出す時の光なんです。星たちは一秒も休むことなく星を作り出している。だからあの輝きは元素を作り出す“努力の輝き”なんです。そうやって星たちが生み出した元素が地球にやってきて、その力を借りて私たちは生きている。言うなれば、私たちは“星の子供”ってことなんです」

【子供】「すごいなー」

壮大な元素の物語を肌で感じ、子供たちの目も光り輝く。難しいテーマでも、いざない方ひとつで好奇心の種をまくことができると宝槻は言う。

■「俺、いつまで“勉強”教えるんだろう」

1981年に東京で生まれた宝槻は3兄弟の長男で、一風変わった家庭教育を実践する父のもとに育った。学校になじめずに高校を中退したが、父親独自の教育法で京都大学に合格。同様にして弟2人も京大に進んだ。

卒業後“受験や成績アップを請け負う”学習塾を開いたものの、ふと立ち止まり自問したそうだ。

【宝槻】「俺、いつまで“勉強”教えるんだろう? って。究極的に言うと、勉強で成果が出ることに対して自分は関心がないってことに気づいたんですよ。目の前の子が『東大行きました!』って言っても『うん、良かったね』としか思えない。その一方で、小学生たちが「信長」とか「宇宙」とかの授業の方が面白いという声を聞いて、今に続くビジョンが音を立てて形になっていったんです」

「探究学舎」の授業は口コミで人気に火がつき、最近では希望者の求めに応えてオンライン授業もスタートした。だが、授業の在り方については試行錯誤を繰り返している。この日も保護者や塾に賛同する外部スタッフを交えて反省会を行っていた。

【スタッフ】「祭りのようにわぁっと盛り上がるのはいいんですけど、終わった後に結局、何を学んだのかな? とならないように。喧騒の後に何かを深めることができれば良いのですが……」
【スタッフ】「ちょっと品がないと取られる可能性もある。劇的なほうに煽り過ぎてる感がある」

■盛り上がった後に何が残るか?

賛否両論あるのはもちろんわかっている。だが、まずは「面白そうだ」という興味さえ持たせれば、子供は自分の力で知識や理解を深めていくと宝槻は信じている。

興味を持たせれば、子供は自分の力で知識や理解を深めていく(写真提供=毎日放送)

例えば、半年前から塾に通っている小学1年生の女の子は、「元素編」の授業を受けて以来、物理学に恋してしまった。

【子供】「素粒子全部言えるよ! 余裕で言える! アップクォーク、ダウンクォーク、チャームクォーク、ストレンジクォーク〜〜(略)〜〜グルーオン、ヒッグス粒子、重粒子!!」

驚く大人たちを尻目に女の子は見事な”高速暗唱”を披露した。別の男の子は「戦国英雄編」の授業をきっかけに日本史に目覚め、壮大な絵巻物のような研究ノートを作っては宝槻に見せにくる。

塾はまだ今年で8年目。ここで学んだ少年少女は一体、どんな大人になるのだろうか。「星の子」たちの未来の可能性は無限に広がっている。

「情熱大陸」はスポーツ・芸能・文化・医療などジャンルを問わず各分野で第一線を走る人物に密着したドキュメンタリー番組。MBS/TBS系で毎週日曜よる11時放送。MBS動画イズムで無料見逃し配信中。過去の放送はこちら。https://dizm.mbs.jp/title/?program=jounetsu

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宝槻泰伸(ほうつき・やすのぶ)
塾代表
1981年東京生まれ。3兄弟の長男で、一風変わった家庭教育を実践する父のもと育つ。高校は中退し、大検を取得して京都大学に進学。弟2人も京都大学へ。父から受けた独特な家庭教育とそのノウハウを著した『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)が後に話題となる。2011年「探究学舎」設立。プライベートでは5児の父で、自宅は必ず公園の近くにするというこだわりを持つ37歳。

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(「情熱大陸」(毎日放送) 写真提供=毎日放送)