メルカリなどさまざまな企業が即反応したワケですが……(撮影:長瀧 菜摘)

テレビも雑誌もネットも「令和」、町を歩いても店に入っても「令和」。改元まで、まだ約1カ月あるにもかかわらず、予想以上の露出量に驚いている。あるいは、食傷気味という感はないでしょうか。

4月1日の段階では、新たな時代の到来を祝うムード一色でした。「令和」発表の号外が配られたとき、人々が争うように群がり、怒号が飛び交う様子が報じられても、「おめでたいことだから仕方ないよね」という空気だったのですが、ここにきて変わりつつあります。

例えば、しわくちゃになった号外をうれしそうに抱える人の映像も、現在では「みっともない」などの声が上がり始めました。さらに、他人を押しのけて自我を通す様子に、「『人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ』という令和の意味に反している」という批判的な声も見られます。

ところが、「令和」にまつわるビジネスや報道は、やむどころか乱立状態。しかも、各企業に「そのビジネスはアリですか?」、各メディアに「この報道でいいんですか?」と、冷めた視線を送りたくなるものが多いのです。

すでに数百の「令和」グッズが発売

すでにメディアで多々報じられていますが、「令和」に関連したビジネスはさまざまなものがあります。なかでも、スピード感を売りにしたものをざっと挙げてみましょう。

広島県の精密鋳造部品会社「キャステム」は、テレビに映された「令和」の文字を転写したスズ製のぐい呑みを発表の2分27秒後にホームページで販売。

上野の乾物店・伊勢音は、「令和」パッケージのかつお節を3分38秒で販売。

静岡県の「伊豆・三津シーパラダイス」のアシカ・グリルが発表から約30分後に「令和」の書道パフォーマンスを披露。

アート・キャンディ・ショップ「PAPABUBBLE大丸東京店」は、発表から1時間あまりで「令和」の文字を入れた金太郎アメを販売。

エアバンド「ゴールデンボンバー」は、発表から約1時間で新曲「令和」を制作・配信リリースし、2日の「うたコン」(NHK)でさっそく歌唱したほか、10日にはCDも発売。

新宿の餃子店「安亭」は、「ドリームジャンボ“令和”餃子」を新元号公表直後から販売。

長野県の遠藤酒造場は、「令和」と命名された純米酒500本を販売。

秋葉原に約300もの「令和」グッズを扱う「令和ショップ」がオープン。

また、各出版社では出典となった万葉集の関連本を緊急重版し、すでに新刊の企画・編集がスタートしているところもあるそうです。同様に書店でも、「平成」に加えて「令和」の各コーナーを特設。入り口付近などの目立つ場所に、関連書籍を積み上げています。

その他では、スーパーやホームセンターが日用品などに「令和」のパッケージを施すなど、お祝いムードを演出しつつ販促。小規模経営の店でも、洋菓子、箸、マグカップ、Tシャツ、スマホケース、缶バッチなど、すでに数百の商品が販売されています。さらに、「“令”“和”という漢字が名前に入っていると割引」などの令和キャンペーンを行っている店も少なくありません。

これらを見てどう感じたでしょうか? 「面白い」「企業努力をしているな」と感心されるか、「くだらない」「便乗して見苦しい」と非難されるかは紙一重。しかし、今回は改元まで約1カ月もあるだけに、ビジネスチャンスというよりも、から騒ぎの感が強く、冷めた目線の人が徐々に増えているようです。

ただ、感心されるか、非難されるか。その差を分けるのは、「ビジネスのタイミングが早すぎるから」だけではありません。ビジネスパーソンにとって、ひとごとではない2つのポイントがあるのです。

商品の印象は消費者還元か、自社利益か

1つ目のポイントは、その商品が「ただのお祝いムード」だけでなく、「ほしい」「食べたい」「見たい」などの魅力を持っているか。

今回の改元は天皇崩御によるものではないため、お祝いムードの印象が強いものの、「令和」関連商品が人々に金銭的なメリットをもたらすとは言えません。自分のお金を使うにふさわしい商品でなければ、売れないだけでなく、「便乗商法だ」という非難の対象になりかねないのです。

2つ目のポイントは、「令和」関連商品の印象が、消費者還元なのか、自社利益なのか。

例えば、「日本コカ・コーラ」は、1日13時から新橋で「令和」ラベルのコカ・コーラ2000本を配布し、「タカラトミー」も1日14時から渋谷で「令和」ラベルを貼った「人生ゲーム」を100人に配布しつつ、「人生ゲーム+令和版」の6月発売を発表。そごう・西武も、4月27〜30日に「平成」、5月1〜6日に「令和」の焼き印入りどら焼きを計5万個配布するようです。

これらはもちろん、企業や商品のPRかブランディングであり、来店客の促進ですが、第一にあるのは消費者還元の意識。「まず消費者ありきで、次に自社利益」というスタンスを感じさせることで、企業と商品のイメージアップにつなげています。実際、コカ・コーラ、人生ゲーム、どら焼きも当面の金銭的にはマイナスであるものの、この先の経営を考えるとプラスの可能性が高く、お祝い事のときほど「損して得取れ」の姿勢が効果的なのです。

便乗商法はビジネスセオリーの1つではあり、悪いことではないのですが、やり方を間違えると「それに頼らなければいけないほど業績が厳しい」「理念や一貫性に欠ける」などとみなされるリスキーなもの。

前述した「まず消費者ありき」を感じさせなければ、“弱者のビジネス”に過ぎず、「あの便乗商法をやっていた会社」というレッテルを貼られるなど、イメージの面でマイナスになりやすいものです。

もしあなたが「自社商品を販促したい」と思っていたとしても、多くの企業が便乗しようとしている「令和」では、埋没したうえにマイナスイメージで終わってしまう可能性が大。多くの企業が「令和」に向いているからこそ、別アングルでのキャンペーンが際立つ時期であり、それを考えて実現させるのがビジネスパーソンの仕事でしょう。

イメージの面でマイナスなのは、便乗商法に飛びついてしまう消費者も同様。例えば、「『令和』グッズを購入した」とSNSにアップしている、あるいは、社内外の人々に見せるビジネスパーソンは、「仕事のできる人」「センスのいい人」「感度の高い人」「面白い人」と思われるでしょうか。もちろん個人の自由ではありますが、実績や経験を持つビジネスパーソンの多くはそのような振る舞いをしていないことが、何よりの真理です。

メルカリへの出品と巧妙な詐欺

“弱者のビジネス”という意味で、もう1つ象徴的なのが、ネットオークションやフリマアプリ。例えば、「メルカリ」で「令和」と入力して検索すると、4月1日の号外、前述した「令和」の人生ゲーム、ぐい呑み、万葉集のほか、自作らしき「令和」雑貨(Tシャツ、グラス、ネックレスなど)、さらには「令和」の自筆文字までが出品され、検索ヒットを狙って「令和限定値下げ」というキャッチコピーをつけた無関連商品もありました。

私が見た限り「SOLD」の文字は少なく、さほど需要があるとは思えません。「ここが“弱者のビジネス”の最下層であることがわかるから、さすがに買わない」という人が多いのではないでしょうか。

ただ、前述したような「まず消費者ありきの便乗」と感じさせられなければ、どの便乗商法も大差ありません。例えば、令和グッズのスピード販売が「品質より話題性重視の会社」という印象を与え、次の取引に影響を及ぼしてしまう。あるいは、「メルカリ」においても、「令和」号外や自筆文字を出品した人は、その履歴が以降の取引に少なからず影響を及ぼすでしょう。

そしてもう1つ、便乗商法で忘れてはいけないのは、悪質な詐欺。すでに、「元号が変わるとカードが使えなくなるので変えてください」などの手口で銀行口座、クレジットカード、携帯電話などに関連した詐欺が横行しています。

公的機関を名乗った「新元号に伴う料金改正」などのフィッシングメール、アルバム、カレンダー、掛け軸、仏像などの送り付け詐欺なども含めて、手口が巧妙になっているだけに、便乗商法を考えるよりも、自らの身を守るほうが重要なのかもしれません。

もし「自分には関係ない」と思っていたとしても、両親、子ども、祖父母などは大丈夫なのか……。近年、詐欺グループは社会の動きに合わせたプランを立て、予想以上のスピードで仕掛けるようになりました。彼らにとって今回の改元は絶好機だけに、油断は禁物なのです。

無意味な新元号予想に終始したメディア

今回の「令和」発表で、もう1つ気になったのは、メディアの報道。

この1週間、ほぼすべてのテレビ局が長時間の改元特集を組み、ワイドショーではMCやコメンテーターたちが新元号を予想し、全国各地の人々にもインタビュー。発表されたら予想の答え合わせをしていましたが、正解した人はいなかったようです。

そもそも、予想されて当たるような元号はつけるはずがなく、もし当たってしまったとしてもワイドショーで報じられているものは、最終的に採用されないでしょう。良識ある専門家たちはこのような予想に参加しないこともあり、雑誌やネットメディアなどの予想記事も含めて、ほとんど意味のないものだったのです。

4月1日の発表後も、号外に群がる人々を映し、「平成」に関連した人の声を拾い、「令和」の便乗商法や詐欺の存在を報じ、ゆかりの地である福岡・太宰府坂本八幡宮や万葉集を紹介するなど、やはり各メディアは横並びの報道。似た内容ばかりであるうえに、「非公表」にもかかわらず考案者を探したり、ほかの候補案を勝手に報じたりなど、「『令和』に関するものなら何でも報じてやろう」という強引な報道姿勢が目立ちます。

また、スポーツメディアは「令和初勝利」「令和初ゴール」「令和初王者」「令和初メダル」、音楽メディアは「令和初シングル」「令和初ツアー」「令和初コラボ」などと、まだ約1カ月も先のことであるにもかかわらず、令和のフレーズを多用。まるで、「今は『令和』というフレーズを使わなきゃ負け」とばかりに、企画の切り口や見出しに使っています。

私も長年多くのメディアとやり取りしていますが、テレビ、新聞、雑誌、ウェブなどのすべてでこのような傾向があり、まさに悪癖。しかし、このような安易な切り口や見出しでは、目の肥えた現代の人々を喜ばせることはできず、すぐに飽きられてしまいます。

改元される5月1日の前後には“本番”として、また今回のように「平成最後」「令和初」などの報道が飛び交うでしょう。しかし、メディアに求められているのは、お祝いムードを楽しむ報道ばかりではありません。

そればかりでは、人々のから騒ぎをあおるだけであり、改元による公的組織やシステム上の動きなどの社会的な視点も報じるのが望ましいでしょう。

前回の改元時は自粛ムードだっただけに、「今回は明るく盛り上がりたい」という気持ちがある人もいるのでしょう。

ただ、この時点での騒ぎ方を見て、10月31日以前の数週間、本来の意味を離れたから騒ぎを繰り返し、便乗商法が跋扈(ばっこ)するハロウィーンを思い出してしまいました。

はたして改元は、ネットメディアの発達とSNSの普及とともに盛り上がっていったハロウィーンと同じようなムードでいいのでしょうか。約30年間のときを過ごした平成に思いを馳せ、来る「令和」にほのかな期待を抱く……。日々情報であふれ、事件、事故、天災の絶えない時代だからこそ、穏やかな改元もいいのかもしれません。

世界で元号のある国は少ないだけに、「日本の文化として大切にしたい」という気持ちがあれば、ビジネス、メディア、世間の人々、それぞれが落ち着いた気持ちで改元を迎えられる気がするのです。