アメリカのリテーラーにとって、中国顧客の琴線に響く商品を展開するのは、適切なベンダーのパートナーを見つけるよりも難しい。通常、中国顧客向けの商品サイズは小さめで、価格構造も違う。商品パッケージのラベルやマーケティングキャンペーンにおいて、顧客はアメリカの製品には「カリフォルニア製」などのうたい文句を期待する。お菓子の味の嗜好も異なる。スニッカーズ(Snickers)バーは中国では可もなく不可もなくの感じであるが、スパイシーなチリ風味のスニッカーズバーなら飛ぶように売れる。

アリババ(阿里巴巴)はこれを手助けしたいと考えている。アリババは、Tモール(天猫)のTモールイノベーションセンター(TMIC)を通して、検索ワードや価格変動、利益率などのデータを外国のリテーラーと共有している。ブランドはこのインサイトをもとに、研究開発に費やす時間を削減し、市場で商品をより迅速に販売できる。たとえば、チリ風味のスニッカーズは、ブランドが新商品を通常企画から販売するまでにかかる時間の約半分ほどの時間で商品化され、Tモールで販売された(このチリ風味のスニッカーズは、発売から6カ月間は、Tモールでしか購入できない)。

TMIC設置の狙い



現在、アリババの杭州本社にあるTMICはリーチを広げている。TMICは、中国顧客に関するインサイトをより多くのブランドに広げるために、ユーロモニター(Euromonitor)やニールセン(Nielsen)、イプソス(Ipsos)、カンター(Kantar)、GFKを含む、アナリティクス企業10社と提携し、集計・匿名化されたデータを駆使して、ブランドのクライアントのパートナーと協働を行い、インサイトを提供している。

「消費財セクターにとっての商品開発は、新商品の成功をブランド各社、またはその業種にとっての大勝利につなげるためには、極めて重要だ。この業種の多くの牽引企業にとって、毎年の商品販売戦略の失敗は許されない。商品販売は的を得たものでなければならない」と、Tモールのマーケティング・運用担当プレジデントのリュー・ボー氏は声明で語った。

2017年の設立以来、ユニリーバ(Unilever)やサムスン(Samsung)、マーズ(Mars)、ロレアル(L’Oréal)、マテル(Mattel)をはじめとする企業81社がTMICと協力して研究開発を行い、中国の顧客向けの新商品を発売したり、既存の商品に改良を加えたりしている。これは、同一の業界でも違いがあるために海外顧客のトラクションを集めるのが難しいなかで、アリババが中国で商いを行っている海外の消費者向けリテーラーが頼ってくれるリソースになろうと、継続的に努力してきた結果だ。たとえば、アリババはすでに、企業が中国顧客向けのキャンペーンを企画するために、現地のエージェントと協力する橋渡しを行っており、セラーが注文品を現地の店舗や顧客の住所向けに配送することができるように、物流センターを建物の一部に有している。

Amazonとの違い



データ共有やブランドのリソースとしての役割を果たすにあたっては、アリババは自社をAmazonに対するアンチテーゼ的存在だと位置づけている。Amazonで販売しているブランドは、Amazonが各ブランドの顧客データをもとに自社製品を開発してしまうという懸念があっても、それを受け入れざるを得ない。一方でアリババは、ベンダーであり、リテーラーではない。自社製品を企画したり、販売したりはしない。

しかし、アリババは、TMICを持つメリットがある。このイノベーションセンターから生まれた商品は、発売後6カ月はTモールでのみ販売される。そのかわり、顧客が何を検索しているか、検索が購入に結びつくのはどういった場合か、商品の利益率や通常の販売価格はいくらかなどの顧客データは、セラーと例外なく共有される。ユニリーバやジョンソンアンドジョンソン(Johnson & Johnson)などの互いに競合関係にあるTMICのクライアント企業は、同一のデータのインサイトをもとに商品を生み出している。

「これがアリババのAmazonベーシック(Amazon Basics)に対する答えだ。ただし、アリババは外部のブランドに、アリババの持つ情報をもとにアリババの代わりに商品を開発してもらっている」と、中国のデジタル広告エージェンシー、ハイリンクデジタル(Hylink Digital)のアメリカ支社のマネージングディレクターであるハンフリー・ホー氏は言う。「アリババは、各商品を専門に開発しているほかのブランドに、自社の持つデータをもとにして、より売れる商品をTモール向けに開発してもらうように動いている。そのため、このようなケースでは、潰し合いというよりウィンウィンな関係だといえる」。

データの捉え方



アリババは、アリババを利用して販売しているブランドと争うのではなく、自社のプラットフォーム上でしか買えない商品を獲得するために、JD.comをはじめとするほかのマーケットプレイスと争っている。アリババがアナリティクス企業と提携することで、JD.comではなくアリババで商品を販売したいと考えるブランドがますます多くなるだろう。

また、ブランドが中国市場により自信を持って素早く打って出られるようになるということでもある。ホー氏は、アリババのような大規模なマーケットプレイスで販売をする場合は、スピードが極めて重要であるが、逆にだからこそ、TMICは製品を素早く市場に出すという従来のやり方ではなく(チリ風味のスニッカーズは別として)、パッケージングや価格設定をより巧みに決定し、マーケティングの発展に益することを考えて運用されていると、ホー氏は付け加えた。ほかには、製品のサイズや価格の設定方法を知っていることも大きな強みとなる。

「中国で特定の商品を長きにわたって販売したことのないブランド、あるいは、パフォーマンスを向上させたいだけのブランドは、顧客の全体像が見えていないことが少なくない」と、ホー氏は言う。「全体像が把握できていないと、飛躍的に成長するのは難しい。飛躍的に成長するには、通常対象にしているグループよりも対象を広げ、その考えを確かなデータで裏付けることだ」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)