「FFVII体験版つき」という誘惑……1996年のプレステ事情と「トバル No.1」:レトロゲーム浪漫街道
ファミコン誕生と同じ1983年7月生まれのゲームファンが、ファミコン以後だけど今やレトロ...というちょっと昔のゲームの話をします。今は「モンハン」と「どうぶつの森」をゆる〜く遊んでいるけど、あの頃はどうだったっけ? というわけで連載第1回。あのスクウェアがプレステで最初に発売したソフトを、皆さんはどれだけ覚えているでしょうか。それは「ファイナルファンタジー」でも「サガ」でもなく"超豪華なおまけがついた格ゲー"でした。

1996年(平成8年)8月2日、プレイステーション用ソフトとして発売された「トバル No.1」。スクウェア(現スクウェア・エニックス)による、記念すべきプレイステーション参入第1作です。

セガの「バーチャファイター」とナムコの「鉄拳」がシリーズ化し大人気となっていた当時、同じ3D格闘ゲームとして登場した本作。"RPGのスクウェアが格闘を!?"という意外性もあった作品でした。登場キャラは鳥山明によるオリジナルデザインということで、前年に発売された「クロノ・トリガー」(スーパーファミコン)からの流れもあり"夢のプロジェクト"らしさを感じさせてくれます。

「トバル No.1」をひとことで表すとするならば、"操作方法がちょっと独特な格ゲー"といったところでしょうか。例えば投げ技ひとつとっても、「相手をつかんだ後、投げるまでに駆け引きがある」というあたりは特殊でした。でもそれが理不尽に難しかったというわけではなく、いい意味で個性のあるゲームだと思います。



ゲーム内容としては、トーナメントモード(一般的なアーケードモードに相当)やVS.モードのほか、アクションRPGのような「クエストモード」が用意されていたのが印象的。3Dのダンジョンを歩き回り、アイテムをゲットしながら敵を倒し先へと進んでいくというモードで、一人で遊んでいると飽きてしまいやすい他の格ゲーとは一線を画する遊びを提供してくれました。

"FFVII体験版"が収録された魅惑のディスク


そんな「トバル No.1」ですが、このソフトにはひとつ大きな特徴があって、ゲーム本編とは別に「SQUARE'S PREVIEW」というディスクが付いていました。これが有名な"FFVII体験版"です。



そもそも、当時のスクウェアは「ファイナルファンタジーVII」(FFVII)を1996年冬にプレイステーションで発売予定であることを明らかにしていました(実際の発売日は少し延期して、1997年1月に)。それに先がけて発売される「トバル No.1」に、ゲームの冒頭がちょっとだけ遊べる体験版ディスクが同梱されることになったのです。

ゲームの体験版ディスクという概念......! 筆者自身、それまで遊んでいたゲーム機では体験したことがなく、当時はかなり画期的なことだったと思います。あの「FFVII」がいち早く遊べる、おまけにスクウェアの新作映像もいろいろと収録されるらしい......とあって期待値もMAX。



そして、"FFVII体験版"。実際にプレイしてみると、「FFVII」のあの衝撃的なオープニングシーンが流れるわけです。光の中にたたずむ美しいエアリス、魔晄都市ミッドガルの威容、"映画"を感じさせる壮大な音楽......。このムービーシーンだけでも超超超スゴかったのに、最初のダンジョン・壱番魔晄炉をクリアするところまでゲームを楽しめる。



ちなみにこの体験版、翌年に「FFVII」が発売されたあとは当然話題に上ることがなくなりましたが、製品版と比べると細かい違いが多く(本来は取得してないはずの技や魔法が初めから使える、召喚獣を呼べるエアリスがパーティーにいる、メニュー画面が呼び出せない、BGMの音色がちょっとずつ違う......などなど)、当時の思い出が深い人ほど再び確認したくなるものだったと思います。



「SQUARE'S PREVIEW」では「FFVII」体験版以外にも、「ファイナルファンタジータクティクス」、「ブシドーブレード」、「サガフロンティア」(いずれも翌年の1997年に発売)といったスクウェア新作タイトル3本のPVを見ることができました。いったいどれだけわくわくを提供すれば気がすむんだ、スクウェア!と、以後のさらなる期待感で胸は張り裂けそうになったものです。

それでもプレステはまだ買ってもらえませんでした


「FFVII」の発売決定を知って初代プレステの購入を決めた人、おそらくリアルに100万人単位でいると思いますが......自分もそのうちのひとりでした。そんな「FFVII」の体験版が付いて、初代プレステで"最初の1本"に買うソフトとしてもかなり魅力的だった「トバル No.1」。当然、かなり売れました。

しかし......スーパーファミコン(1990年発売)が1995年まで導入されなかったわが家のこと。翌年にさっそく新しいゲーム機を買ってもらえるほど甘くはありませんでした。「トバル No.1」と"FFVII体験版"を遊ぶために、プレステを持っている友人宅へ入り浸る日々。筆者が中学1年の夏のことでした......。

"レトロゲーム"という言葉を聞くと、「スペースインベーダー」から(1980年代の)8bitゲームぐらいのことをなんとなく思い浮かべます。しかしビデオゲームの歴史もかなり長くなってきて、今では最初期のものは"クラシック"と呼ばれ始めているとか。平成最後の夏を迎えたいま、あくまで個人的に懐かしいものとしてですが、こうして時々"平成のレトロゲーム"にまつわる話をしてみたいと思います。