天守にエレベーターは設置されている? 100名城の状況を調べてみた
復元予定の名古屋城(愛知県)の天守にエレベーターを設置しない方針になったと、2018年5月上旬にかけて複数のメディアが伝えた。残された築城時の詳細な図面から、当時の状態を再現することを目的とした木造天守になる予定で、エレベーターの設置がその意図にそぐわないとの判断のようだ。
バリアフリー対応を考えると、設置すべきではないかとの意見もあるが、そもそも各地に存在する城のエレベーター設置状況はどのようになっているのだろうか。Jタウンネットでざっくりと調べてみることにした。
現状エレベーターありは少数派
一言で城といっても、全国各地にさまざまな城が存在する。記者の地元には当然のごとくエレベーターを完備した、鉄筋コンクリート構造の「ガラスの城」があった。どのような城なのか(そもそもビルなのだが)はお察しいただきたい。これは形状が城でもなんでもないので、いわゆる「城」とは見なさない。
形状が城でいいのなら、静岡の熱海市錦ヶ浦には「熱海城」がある。こちらもエレベーター完備だが、歴史的な経緯のある城郭ではなく、1959年に「築城」された観光施設であり、名古屋城の例に見るような城には含められない。
熱海城は熱海城で個人的には好きな城風建築物だが(Batholithさん撮影, Wikimedia Commonsより)
ということで、今回はわかりやすく日本城郭協会が2006年に定めた「日本100名城」から各城の状況を見てみよう。「続日本100名城」もあるが、今回は含めていない。
エレベーターの有無を確認したいので、今回は100城の中から高層建築物と言える天守がある、33城の状況を見てみよう。厳密には天守ではなく3〜4層の高い櫓が設置されている城もあるが、今回は実質的な天守と見なしたい。
33城のうち、国宝の松本城(長野)、犬山城(愛知)、姫路城(兵庫)、彦根城(滋賀)、松江城(島根)に加え、弘前城(青森)、丸岡城(福井)、備中松山城(岡山)、丸亀城(香川)、松山城(愛媛)、宇和島城(愛媛)、高知城(高知)を含めた計12城は、現代に再建されていない(補修や一部修復などは行っているが)、往時の姿を保った現存天守を有する。
姫路城を見ていると暴れん坊な将軍のBGMが脳内で流れる(Kazuki Ohtsuさん撮影, Flickrより)
この12城は、すべてエレベーター非設置だ。国宝や重要文化財となっている建造物に、後からエレベーターを設置するのは現実的に難しいだろう。天守に達するまでの道のりや、天守入口にスロープ等が設けられている城はある。
記者が訪れた中で個人的に気にっているのは松山城(Wei-Te Wongさん撮影, Flickrより)
では残りの21城はどうだろうか。構造としては大きく2つ、比較的近年再建された木造のものと、1950〜60年代に多い鉄筋コンクリート構造に分かれる。ただし、鉄筋コンクリート構造だからと言って必ずエレベーターが設置されているわけでもなく、むしろ設置されている方が少数で2城のみ。
岡山城(岡山)は1966年に再建された鉄筋コンクリート構造で、6層の天守のうち1〜4階までエレベーターがある。戦前の1931年に再建(1997年に改修を実施)した大阪城(大阪)は再建時から天守内部にエレベーターがあり、現在ではさらに外部の石垣部分にもエレベーターを設置している。
大阪城はむしろ近代建築と割り切って見ると興味深い(中岑 范姜さん撮影, Flickrより)
ただし、今後の補修などに合わせて設置を検討している城もいくつかあり、現在修復中の熊本城はエレベーターが設置予定。天守内にエレベーターはないものの、城郭内の車いす移動を補助する体制を用意している城などもある。
ちなみに今回の名古屋城のように木造再建された白河小峰城(1991年、福島)、新発田城(2004年、新潟)、掛川城(1994年、静岡)、大洲城(2004年、愛媛)の4城はいずれもエレベーター非設置となっている(そもそも人が立ち入ることを前提としていない天守もあるようだが)。
100名城以外ではエレベーターや昇降機を設けている例はもう少し多いのだが、すべての城を網羅するのが難しく、今回は列記はしない。
別にエレベーター有無の是非を問おうというわけではないが、今後高齢の登城者なども増加することを考えると、天守といえどバリアフリー対応をすすめるべきとの声は当然だろう。一方で、歴史的な空気感や雰囲気重視という意味で、エレベーターは設置しないでほしい、という気持ちも理解はできる。これからの城のあり方を考える時代になっているのかもしれない。