「実質ゼロ円スマホ」が販売店で消えない理由
通信会社の代理店では、「実質ゼロ円」のスマホ代や高額の現金還元をうたう表示も目立つ
「4万円をキャッシュバックします。その場で現金をお渡しできます」。3月下旬の夜。年度末の商戦期にある都心のソフトバンク販売代理店を訪れると、店員がそうささやいた。さらに、定価9万4320円(税込み)の「iPhone 8」の端末代はゼロ円にしてくれるという。高価なiPhoneがタダで手に入るうえ、おカネまでもらえる。ほかの通信会社からの乗り換え(MNP)を促す、甘い誘惑だ。
au(KDDI)でも大きな値引きがあると聞きつけ、4月上旬、ある代理店に確認してみた。スマートフォンの「Galaxy S8」なら、家族4人で他社から乗り換えれば、端末代はゼロ円。auの光回線にも加入すれば、「スマホ1台当たり2万円還元します」(店員)という。
「国から規制されるので、今のうちですよ」
都内の大手家電量販店のソフトバンクコーナーで提案されたのも、MNPが対象の割引だ。iPhone 8の定価から「特別に4万円値引きします」(店員)ということで、5万4320円。2年縛りの通信契約を結べば、端末代は24カ月分割で毎月2263円になり、ソフトバンクの「月月割」という端末購入補助が毎月3210円分つく。
ほかの通信会社からの乗り換えを促す「高額キャッシュバック」の看板
結果、iPhoneの代金は実質ゼロ円どころか、ひと月当たりマイナス947円となる。店員は「ソフトバンクからやっていいと言われている。だが国から規制されるかもしれないので、今のうちですよ」と話す。
スマホ代金を「実質ゼロ円」にする値引きや過剰なキャッシュバックは、総務省が2016年に策定したガイドラインで規制されている。同じ通信会社を使い続ける利用者に対して不公平になるほか、値引き原資が通信料金の高止まりを招くなどの問題があるからだ。
それでも過剰な値引きが横行するのは、規制対象が通信会社で、代理店には及ばないためだ。総務省は、通信会社が「店舗維持費」などの名目で代理店に渡すおカネの中に、値引きやキャッシュバックの原資を混ぜ、規制をかいくぐるケースが多いとみる。
通信会社側は否定するのみ
ただ、こうしたやり方を証明するのは難しく、総務省が取り締まるのはハードルが高い。両社は取材に対し「そういう指示はしていない」(ソフトバンク広報)、「販売店が独自にやっている施策だろう」(KDDI広報)と関与を否定する。
当記事は「週刊東洋経済」4月21日号 <4月16日発売>からの転載記事です
この説明どおりなら、代理店は自腹でスマホ端末代を負担し、高額なキャッシュバックをしても採算が取れる摩訶不思議な話になる。あるいは、端末在庫をさばくために通信会社側から過重なノルマを課され、未達成時のペナルティが大きいため無理をしている可能性もある。
総務省は今後、独占禁止法に抵触する可能性があれば、公正取引委員会に情報提供を行うなど、対策の強化を検討する。ただ、どこまで食い止められるかは未知数だ。結局は通信会社側のモラルと、通信会社の姿勢に対する消費者の選別眼が問われそうだ。