スモール・ジャイアンツは互いに高めあい、磨きあうコミュニティ/石塚 しのぶ
スモール・ジャイアンツを訪ねる旅
フォーブス・ジャパンの掲載記事の中で、アメリカのフォーブス誌で2017年に選出された『スモール・ジャイアンツ25社』が紹介されていましたが、「日本流スモール・ジャイアンツを育成する」ことを目的に2014年から活動している一般社団法人コア・バリュー経営協会では、毎年恒例の会員限定アメリカ視察ツアーでそのうち2社、プラス、世界中から訪問客がその経営を学びにやってくる「知る人ぞ知る」スモール・ジャイアンツ1社を訪問してきました。
また、実は、米フォーブス誌のベスト・スモール・ジャイアンツ・イン・アメリカは2016年にローンチされて今年で三回目になるのですが、その記念すべき初受賞クラスタの中の2社にも、過去に日本でスモール・ジャイアンツを目指す!志の高い経営者/企業リーダーの方々を連れて訪問しています。
こうした交流が実現したのも、遡れば2012年から、アメリカの「スモール・ジャイアンツ」たちを地道に足を使って訪問し、コア・パーパス(企業の社会的存在意義)やコア・バリュー(企業内で働く人が共通してもつ価値観)を基盤とした経営について熱い意見交換を繰り返してきたからなのです。
スモール・ジャイアンツとの出会い―皆が微笑んでいるコールセンター
もとをただせば、私が、「スモール・ジャイアンツ」に出会ったのは、拙著『未来企業は共に夢を見る〜コア・バリュー経営〜』の執筆に向けてフィールド・スタディを行っていた際に、テキサス州ダラスの郊外にある医療コールセンター・サービス会社、ベリルを訪問した際でした。
「コールセンター」という過酷な感情労働が基本で、従業員満足度が低く、離職率が高い業種で、「従業員が常に微笑んでいて」、しかも、利益が同業者の4倍から6倍というまさに「奇跡のような」会社があると聞いてベリルを訪ねたのですが、そこで創業者兼当時のCEOであったポール・スピーゲルマン氏から「私たちのような会社は他にもたくさんありますよ!」と紹介されたのです。
「私たちのように、従業員、顧客、取引先、地域社会など会社に関わるすべての人たちに『ハッピー』を提供することをモットーとし、しかも高い持続性と売上や利益を両立している会社たちを『スモール・ジャイアンツ』と呼ぶのです!」
しばし、会社(数値)の成功には従業員の「犠牲」にも近い血のにじむような努力が要求され、それは「楽しさ」や「幸福感」とは共存し難いものだと考えられがちですが、その二つを両立している企業がひとつやふたつではない、全米中に何百もあるのだよ、と聞かされて、まるで夢を見ているような気持ちでした。
それまで、「コア・バリュー経営」の研究事例は、ザッポス(ネット通販)やサウスウエスト航空、メソッド(製造メーカー)やコンテナストア(小売)などある程度規模の大きい企業に偏っていたのですが、スモール・ジャイアンツを知ることにより、コア・バリュー経営は1)会社の規模に関わらず適用可能であり、成果を発揮する経営手法だ、2)中堅・小規模企業が頭角を現し、「唯一無二」の存在として顧客の「心のシェア(マインド・シェア)」を獲得していくにあたって欠くことのできない経営戦略・手法だ、と確信するに至ったのです。
以来、アメリカのスモール・ジャイアンツたちと肩を並べて、より世のため、人のためになる企業づくり、を目指して研究・啓蒙・導入支援活動に切磋琢磨してきています。
スモール・ジャイアンツの「シェアリング(共有)」の精神
アメリカのスモール・ジャイアンツのコミュニティは「シェアリング(共有)の精神」に満ちています。
同業者も多いのですが、競争心や秘密主義なところはカケラもなく、皆、オープンに「自分の会社ではこうやっている」ということを交換し合っています。悩みを抱える会社が、公開セッションでその問題を皆に打ち明け、アドバイスやインプットを得る、などというようなことも例外的ではなく普通に行われています。
私は、日本では2013年から「日本流スモール・ジャイアンツの育成」を掲げて活動しているのですが、この「仲間意識」や「共生の精神」を日本にも広めていきたいと思って活動しています。
「コア・バリュー経営」を導入して、「スモール・ジャイアンツ」になることは、もちろん、各々の会社が事業を展開する市場や業界で頭角を現すことにつながり、いわゆる「差別化」につながるのですが、だから、「コア・バリュー経営を秘密にしておこう」ということではないと思うのです。
「だってあの会社もこの会社も『スモール・ジャイアンツ』になってしまったら横並びになってしまって競争にならない、意味がないじゃないか!」という人がいるかもしれません。でも、日本にスモール・ジャイアンツが増えれば日本のビジネスの水準が上がります。ひいては、日本の国力や社会の水準が上がることになります。
だから、「皆で高みを目指そう」というのは、「いいことづくし」でしかないのです。
一市町村にひとつ、スモール・ジャイアンツがあったなら
もし、日本の各市町村に必ずひとつ、「スモール・ジャイアンツ」が存在するようになったら、その市や町や村の元気は倍増し、笑顔が増え、暮らしやすい場所になるでしょう。それは、私自身、アメリカの各地を旅して、実際に肌で経験しています。
「スモール・ジャイアンツ」がある町は、空気が違います。活気にあふれています。人がフレンドリーで、気遣いに満ちています。「面白いこと」が次々と目につきます。
「スモール・ジャイアンツ」とは、けっしてエリート集団ではない。私は、日本に何百も何千も何万も「スモール・ジャイアンツ」ができればいいと思っています。あえて開示はしませんが、現在、ある県や地方で、異業種の経営者仲間が結託して「スモール・ジャイアンツ」を目指している地方があります。これは、別にお上の政策や音頭取りではなく、ある志の高い経営者さんたちのお声がけで、オーガニックかつカラフルな集団ができたのです。あの県、あの地方が数年後には、今より一層、日本の中でひときわ輝く地域になっているのだろうな、と思うとワクワク、ゾクゾクしてきます。
先ほど、「世の中がスモール・ジャイアンツだらけになったら差別化にならない!」という懸念を抱く経営者さんがいるかもしれない、と書きました。それにお答えすると、「安心してください」。コア・バリュー経営の考え方やステップ自体はロケット工学のように難解なものでもなんでもなく、「誰にでも」できるものですが、ただ、それを長期的に実践するのには、経営者の、そしてリーダーの並々ならぬ「覚悟」と「辛抱強さ」を要します。ソフトウェアや機械のように「導入すれば結果が出る」というものでもないのです。
だからこそ、時には励まし合い、悩みを聞いてくれて、アドバイスをくれる「コミュニティ=仲間たち」が必要なのです。私は、「コア・バリュー経営協会」を通して、「ビジネスを通して、世の中(日本)を良い方向に変えていく」高い志をもった経営者の皆さんが共に成長・成功できるコミュニティを育成していきたいと思っています。