野町 直弘 / 株式会社クニエ

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前回に引き続き今回も開発購買をテーマにします。今回はトヨタ自動車の開発購買(原価企画)について述べていきましょう。

昨年(2017年)の9月にトヨタ自動車が原価企画機能をカンパニー開発部門に移管するという新聞発表がありました。

トヨタ自動車では開発購買という言葉は使わない、と聞いたことがあります。原価企画活動として企業に根付いているからです。トヨタの原価企画活動は1937年に創業者の一人である豊田喜一郎氏が示したのが期限と言われています。それが80年後の現在も脈々と受け継がれているだけでなく活動が進化していることは驚きです。1980年代、90年代トヨタの原価企画活動に筆者も携わった経験がありますが、その当時原価企画活動の主体は利益計画などの経理・財務や製品開発責任者である主査にあったと記憶しています。

開発部門はどちらかというと、原価企画活動を主体的に進めているのではなく「やらなければならないからやっている。」という印象でした。それが現在のトヨタ自動車の原価企画活動は開発の役割として根付いているようです。

手元に「原価企画とトヨタのエンジニアたち」(小林英幸著、中央経済社)という本があります。著者はトヨタ自動車で設計、製品企画、原価企画に長年携わっていた方で原価企画の専門家です。著者のはしがきにこういう一文がありました。

「原価企画を実践しているのはエンジニア」
この一文からもトヨタ自動車では開発者が自ら開発購買(原価企画)を進めていることがわかります。またそれが定着していることもわかるでしょう。
この著書ではエンジニアが原価企画活動に携わるにあたりどのような課題があり、それをトヨタがどう解決して今の仕組みを築いたかが書かれています。それをエンジニアや主査へのアンケートやインタビュー結果を踏まえまとめているとても分かりやすく興味深い本です。

トヨタ自動車の原価企画活動の特徴としては以下の3点が上げられます。

まずは目標原価の作り方です。目標原価の作り方は教科書にも出ていますが、多くの企業の場合、収益目標から製品別目標原価を作りそれを部位別に展開して作ります。
しかしそれでは開発部門が納得できる目標にならないことが多いです。本著のアンケート結果からも出ていましたが開発部門は目標コストに論理性がないとそれを達成する意欲自体が削がれてしまうようです。そのためトヨタは目標コストを設定するために機能・コスト分析という手法で理論コストを設定する方法を活用しています。また自動車のような多くの部品を使う製品の場合、効率性を高めるために原価企画は仕様差で目標原価を設定し、それを管理することが多いのですが、トヨタの場合は部品毎の原価を絶対値でベンチマーク推計しそれを目標原価として設定する方式も活用しています。これも目標コストの論理性を高め開発部門、調達部門と目標コストに対する合意を得ることにつなげているようです。

2つ目の特徴として上げられるのは共有価値や意識などの企業文化的な点。トヨタはトヨタウェイやトヨタグローバルビジョンなどの理念やトヨタ行動指針を持っており、価値観の共有を図っています。
このような価値観はあらゆる業務推進に影響を与えているようです。本著のアンケート結果によると「設計業務を推進するにあたりこのような価値観を意識している人が約8割に上る」。目標コスト達成の目的についてのアンケート結果でもトップの回答が「良品廉価な製品を(お客様に)お届けしたいから」という内容となっており、このような価値観のが全社員に対して大きな影響を与えていることがわかります。

3つ目の特徴はマネジメントの仕組みです。代表的な仕組みは製品主査制度でしょう。製品主査はいわばその車に対する最高執行責任者で、マーケティング、販売、企画、コスト、収益、質量などに責任と権限を持ち車の開発を進めていく役割をもっています。しかし組織上開発・設計部門は主査とは独立した組織となっているので、開発者の直接の人事権を持つ上司ではありません。
それでも主査職は開発技術者からたいへん尊敬されており、直接の指示命令権がないにも関わらずタテヨコの組織が上手く機能しています。

それに加え大きな役割を果たしているのが各種の委員会活動です。CCC21委員会、VI委員会、RR-CI委員会、部品シナリオ委員会など新聞等で聞いたことがある委員会の名前です。
この委員会活動は他社でいうCFT(クロスファンクションチーム)的なもので、原価や質量の目標達成のための支援手段となっています。
委員会活動というと形式重視の報告会のように聞こえますが、生産、生技、開発、原価、調達、取引先まで一体となって世界最安値を目指す活動をグローバルで進める推進チームであり、委員会は原価目標達成のための支援活動になっているとのことです。
また開発、製品主査、委員会の3次元組織で社内に起こりうる様々なコンフリクトの調整を委員会が行なっているという特徴もあります。

トヨタはこのような仕組みを持つことで開発部門に原価企画機能を定着させています。やらされているのではなく、自ら進んでやることを実現しているのです。

開発購買は何故上手くいかないのか?

開発購買は何故上手くいかないのか?-その2-